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化け狸とオーディション−2

「「よくぞ集まってくれた! 若き才能に溢れた妖怪たちよ! 私は嬉しい、この中から共に歩む仲間が生まれる今日この時をッ!」」


部屋の中央、出っぱり部分の真ん中が開いて長身の男が白煙と共に迫り上がってくる。

声は拡声器でも使ったかのように部屋中に大音量で響いておる。

はぇ〜、派手な登場じゃのお。


「「お初にお目にかかるッ!私こそが! 深鏡コーポレート代表取締役社長、深鏡創士みかがみそうじであるッッッ!!!」」


煙が収まっていくとともに深鏡とやらの容貌が明らかになってきた。

長身眼鏡でやたら鋭利な形状の外套を着込んだキリリとした色男じゃなあ。


「あれがー雲外フォンの経営元ってこと〜? じゃあ、あいつがうんがいきょーなんだ。ハデハデだあ!」


おお、そうか。

あやつが我にネットという新世界を与えてくれた恩人というわけじゃな!

……そしてそれを奪い去ろうとしている大罪人(未遂)でもあるわけじゃがなあ!


「「今ここにッ! ミカガミプロジェクト第一回オーディションを開催するゥッッッ!!!」」


しーん……。


やたら情熱的に何かしらを宣言してやり切った感を見せておるが、みんないきなりすぎて唖然としておるぞ?

天を仰いで気持ちよくなってるとこ悪いが、雰囲気最悪なんじゃけど。


「「……えー、ということで改めまして深鏡創士と申します。みなさんあまりにノリが悪くて私いささかがっかりしております」」


「うわあ、急にテンションさがっちゃったよー、こわいね?」


「「そこ。怖いとか言わないでください。大人であろうとも些細な言葉で傷つくんですよ」」


深鏡は明らかにこちらを、と言うよりかはひめをビシッと指差してきた。

なんて地獄耳じゃあ……。

ひめは反省する様子もなく「だって暗くて怖いんだもーん」と変わらず減らず口を叩いておる。

こんクソガキャ、誰にでもこうなのかよ。


「「いいでしょう、その態度。確かにある程度の太々しさ、ひいては豪胆さは新しい世界へ踏み出すのに必要なものかもしれません。だがしかし、これはオーディション。審査員は私だ。あまり私の気分を害すような真似は慎んだ方が良いかと思いますが」」


淡々と正論をぶつけられると流石のひめもたじろいどる。


「……のう。ところで、ひめよ」


「……うー。なにおばあちゃん」


「おーでぃしょん、ってなんじゃ」


「んーとねぇ。ここにいっぱいうぞーむぞーがいるでしょ? ここからさいのーあるのを選ぼう!ってことだよ〜」


「成程。それなら理解できるのう」


そういえば来たメールに募集人数とか書いとったな。

確か5人じゃったか。こんだけ集まって5人だけかいな。


「じゃあこれから死合いでも始めて生き残りを懸けるんじゃな。それともなんじゃ、妖術合戦か?」


「「ハイ、そこの狸ィ!」」


「なんじゃあッ!?」


急に大声出すなァ!

驚きすぎて天に召されたらどうしてくれる!

年寄りを労わることを知らんのか!


『前時代的な妖思想は控えていただきたい。妖としての暴力的な力などこれからの時代には必要ないのです。個々人の才能が人間たちを熱狂させる。競うことはあっても争うことはない。他者を蹴落とすことを念頭に置いている者に、ミカガミプロジェクトの一員になる資格はないと心得てもらおうッ!』


おーっと……これはまずいんじゃないのか。

始まる前から審査員とやらの心証最悪なんじゃけど。

それより数百年ぶりに普通に怒られたわい。

案外心にがくんとくるもんじゃなあ……。


「す、すまんのぉ……」


「「謝る姿勢良いですッ!減点は無しにしてさしあげましょう!」」


「……タスカリマス」


「んふふ〜、おばあちゃん怒られちゃったね。やっぱり悪いこだあ」


お前もさっき怒られたの覚えとらんのか?


『さて、無駄話をしていても仕方がありません。私はこのオーディションを開催するのを心待ちにしていたのです。さあ、早速始めましょう』


そう言った瞬間、深鏡の妖力がいきなり跳ね上がった。


「「第一選考。針の筵」」


深鏡の姿が掻き消える。

それと同時に天井が『落ちてきた』。

しかも『鋭利な棘付き』じゃあ!


「なにあれーーーっ!?」


ひめが立ち上がって悲鳴をあげる。


「いかん! 急に立ち上げるな!」


ひめは驚いた顔のまま体勢を崩し、座布団から足を滑らせよった。

ああもう、言わんこっちゃないではないか!


「ひめッ、手に掴まれいッ!!」


座布団から身を乗り出して手を伸ばす。

まだ間に合う。十分に掴めるはずじゃ。


「あっ……」


しかしひめの小さな体は恐慌状態の妖怪どもに巻き込まれ、瞬く間に手の届く範囲から消え去ってしまった。


「なっ、こなくそぉ! じゃったらこの天井をどうにかすりゃあえんじゃろがい!」


迫る殺意の大質量。

この程度、この綿狸にかかればものの数にもならんわ!!


「狸秘術・大変化!」


範囲は三丈四方で十分じゃろう!

ひめの妖気はもう覚えた!居場所はわかっとる!

逃げきれんかったやつは次の復活まで我慢せい!


「天井をォ! 軽い物質、綿に変化ぇッ!」


もふ。

もふもふもふ!

もふもふもふもふ!!

もふもふもふもふもふもふもふもふもふ!!!!!


「げ、しまった。綿の洪水じゃあああ!!」


霧かなんかに変化させりゃあ良かったんじゃあ!

隠居生活で頭が呆けとるぅーッ!


「ぼへぇああああああああッッッ!!!」


そこいらで凶悪な天井に押し潰される妖怪どもを横目に見ながら、我は綿の海に飲まれたのじゃった。

一町=約110m

一丈=約3m


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