化け狸と開戦準備
ばとるらいぶいんみかがみ。
そんなけったいな催しが団三郎を巻き込んで行われようとしとる。
一番槍だと気合を入れてゼンは手持ちの斧をぶんぶん振り回しておるし、ひめもやんややんやと茶化しておるし、特に好戦的とも思えない氷霞までもがもうもうと冷気を迸らせておる。
龍未?
なんかそこで体育座りしてしょげておるわい。
登場が上手くいかなかったのがそんなに残念だったかの。
苛ついた様子の団三郎が苦々しげに吠えた。
「なんでこのオイラがてめーらの思惑に乗ってやらなくちゃならねェンダ! この結界を破壊しちまえばそれで終いだろォガァッ!」
そう吠えながら近くの鏡を殴りつけて破壊を試みた団三郎じゃったが、結果から言ってその目論みは失敗した。
団三郎自身が何者かに殴られたかのように弾き飛ばされたからじゃ。
「愚かですねェッ! 佐渡の二ツ岩と称される貴方が! 鏡は写し身なのです! 鏡への攻撃は自身への攻撃と同義であると心得るがよろしいッ!」
「……くそガ」
「ですがこの空間では傷つくことはありません! ほら、現に貴方の体からは血の一滴も出ていないでしょう!」
深鏡の言う通り団三郎の体からは僅かばかり白煙のようなものが上がっておったが、傷ひとつ見受けられん。
「配信で流血騒ぎは困りますからねッ! 対策は万全ッッッ!」
「ハァ……白けることしやがんナァ……。下らねえ遊びに付き合う義理はネェ。さっさと綿狸を連れていきゃいいだろうガァ。オイラはまた機会を待つだけダ、幸い時間はいくらでもあるからナァ」
舌舐めずりをしながらこっちを見やる団三郎。
さっき首筋を舐められたことを思い出して悪寒が舞い戻ってきやがる。
戦意を失わせしゅるしゅると元の嫋やかな女人に戻る団三郎に待ったをかけたのは、またしても深鏡じゃった。
「そうもいきませんね。こちらは既に告知もしていますから、二度も予定をパアにされては困ります。やる気が出ないのでしたらこうしましょう。貴方が勝ったら綿狸さんの身柄はくれてやりましょう。こちらから手を出すことも金輪際ないと確約致します」
「なぬ!?」
此奴我を助けにきたんじゃないのかあ!?
自身の企画が頓挫しそうになったからって我を差し出すなんて、一体どういう了見じゃあ!
ほぉら、案の定団三郎が目を輝かせ始めたじゃないかい!
「それだけじゃあ足りねえナァ。そっちの狐も寄越セ。二匹ともダァ」
「少女の方は渡せません。ミカガミの管轄じゃありませんからね。ですがこっちの胡散臭い方は喜んで進呈させていただきましょう」
「そりゃあ酷くないですかね、社長ぉ?」
「……いいだロウ。一度目をつけた狐を逃すのはオイラの信条に反するガ、そいつもいずれ見つけるだけダァ。今は我慢してやるサ。そんで? オイラは何をすりゃいいんダァ? お前ら全員叩きのめせばそれで満足かヨ?」
「基本的にはそれで構いません。最後に立っていた一人が勝者です」
「なあ社長聞いてます? 儂はただの雇われでさあ。危なきゃ逃げますよ」
「勝敗はどうつけル。傷がつかねえんじゃ誰も死なネェ」
「致命的な攻撃を三度受けたら脱落です。雲外鏡の名の元に、見逃しはなく公正な判断をすることを約束しましょう」
「社長、聞こえてますかあ? ついに壊れたのかポンコツ鏡め」
「うるさいですね白孫。此度の件も含めて貴方は減給です」
「そんなあ!? そりゃあんまりでさあ!」
哀れ減給勧告を受けた白孫はがっくりと肩を落とし、龍未の横で同じように体育座りで動かなくなった。
ふん、こんな大事を引き起こしおった元凶には甘い措置じゃと思うわい!
しかし、敵味方入り乱れての乱戦となるわけか。
とは言っても殆どはこっちの身内となる訳じゃから団三郎の勝ち目は薄いと思っとるんじゃが彼奴はその辺どう思っとるんかのう。
我は未だ我の背に腰を落ち着けておるひめに声をかけた。
「のう、ひめよ」
「なぁにワタちゃん」
「お前はいつまで我の背に乗っとるんじゃ、ってのは別の話として、ひめも参加するんか?」
「もちろん! 勝ったらワタちゃんが貰えるんでしょ? ちょーっとやる気出てきたかも」
そ、そういうことになるんかあ?
それは団三郎を逃さないための話じゃなく?
「ええい、そんなことはどうでもいいんじゃ。いいか、ひめよ。団三郎はかなーり危ないやつじゃあ。今の安穏極まりない妖怪どもとは全く違う。だから始まったらいの一番に他の奴らと協力して団三郎を潰せ。そうせんと勝ちへの道はないぞ」
いかに団三郎であろうと集団の暴力には敵わんじゃろう。
絵面は非常によろしくないことになりそうじゃが……。
我の身柄がどうなるかは分からんが、団三郎のもとに行くよりは身内に引き渡された方がまだましじゃあ。
「団三郎を先に潰すんじゃぞ、いいか」
「ふーん。ワタちゃんがそんなに言うほど強いのかあ。ふんふん。……うふふ、わかったよワタちゃん。ヒメに任せといて!」
我の背の上で胸を張って言い放つひめ。
本当にわかっとるんか。
妙に含みのある笑いが気になるんじゃけども。
というか早よ我の背から退け。
我の腰がどうなっても知らんぞぉ!
我とひめの密談をよそに深鏡は手元のユーフォンを耳に当てて何やら話しておる。
「其方の準備は……よろしい。こちらも交渉が済んだところです。……ああ、二人はまだ閉じ込めておいてください。まだ使い道がありますから……ええ、間もなく定刻ですね。オンタイムで始めましょう。それでは」
深鏡はユーフォンを懐にしまい、いつもの鋭利な外套の襟を正した。
そしていつもの謎に格好つけた姿で……
「げ、まずい」
「ここにッッッ! Battle LiVe in MIKAGAMIの開催を宣言するゥッッッッッッッッ!!!」
鼓膜をつん裂く大声で開催を宣言したのじゃった。
ふぅ、我も同じ轍は踏まぬ。
今回ばかりは事前に耳を塞いでやり過ごせたぞ。
周りを見ればミカガミの一同は我と同じように耳を塞いでやり過ごしていた。
しかし、白孫や団三郎は直撃を食らったようで耳を押さえて悶絶しておる。
「なんですかあっ! 今の大声はぁ! また敵ですかあっ!」
少し離れたところからそんな叫び声が聞こえてくる。
……あ、サンちゃんのこと忘れちょった。
twitterを初めてみたものの何を呟けばよいのか……。
ネットに疎い私には分かりませぬなあ。
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