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化け狸とおふこらぼ-2

「じゃあそのまま呼ばせてもらいますけど……さっき土下座したのはなんだったんですか?」


「あー……彼奴団三郎は我の古い知り合いなんじゃ。じゃからきっとこの状況は我のせいじゃと……」


「そうなんです? でもそれっておかしくないですか?」


サンちゃん(ぬいちゃんと呼ぶと混乱するのでこっちで呼ぶぞ)はこてんと首を傾げ顎に人差し指を添えてうーんと唸る。


「だって団三郎は私を待ってたって言ってましたよ」


んっ? と思い返す。

確かによくよく考えてみればここに飛ばされる前にそんなことを言っていたような気もする。

それに我を連れ回していた時にも何かを待っているような素振りを見せておった。


団三郎の目的は我ではなくぬいちゃんもといサンちゃんなのか?


うーむ。

ありうる。


彼奴は大がつくほどの狐嫌いで有名じゃ。

なんせ態々離島に住み着いて狐がいない環境を自分で作ったっちゅうんじゃから筋金入りじゃあ。


確かに我も狸である以上、狐にはある程度の悪感情は抱いておる。

しかしそれは個々人による程度のもので、現に我は白孫とも付き合いがあるしそれこそぬいちゃんにはぞっこんじゃしのう。


じゃが、団三郎はそうではない。

見敵必殺とばかりに視界に映る狐は全て悪として殲滅しようとするのじゃ。

そういえば昔揉めた理由もそんなんだった気がするなあ。

出て行く時に白孫の名を告げたのが不味かったか。


だけども、はて?

団三郎はどこでサンちゃんないしぬいちゃんを知ったのじゃあ?

彼奴が我と同じようにぶいちゅうばあにハマったとも思えんのじゃが……。

そもそもユーフォン持っとるのか?

こんな魔界みたいなとこに住んどって。


そういえばユーフォンと言えば、白孫が何やら意味深な通話をかけてきよったよなあ……。


……。


……アッ。


「こんなクソ白狐ぇぇぇええええ! もしやお前の仕業かああああああっ!?」


「ええっ!? 私ですかあっ!?」


我の突然の絶叫にサンちゃんが涙目で後ろっ飛びに吹っ飛んだ。


ああ、すまんすまん!

違う白狐のことじゃよぉ!


おお、よしよし。

そんなに尻尾を股に挟んで怯えなくても良いじゃないかい。


しかし白孫めえ……!

我の勘は鋭いんじゃ。

きっと団三郎に我の動画のあーかいぶでも見せたんじゃろ。

そこから我とぬいちゃんが一緒に仲良くしてるのを見て、すっ飛んできたってとこかい。

全ての狐を悪性と思っとる彼奴のことじゃあ。

我が何か変なことをされとるんじゃないかって勘違いしたんじゃろう。

……まあ我の暴走具合を見たらそう思うのも仕方ない、のか?


これで繋がったのう。


ん? でも、あれ?

結局我のせいってのは変わりないんじゃあ?


「すまぬ……やはり我のせいかも知れぬぅ。サンちゃんは我が守ってやるからのう、許してくれえ」


「えっ、守ってやるって。やっぱり危険なんじゃないですかあ! ヤダー!」


サンちゃんは怯えてわーわー騒ぎたておる。

なんかぬいちゃんとは随分と様子が違うのう。

ぬいちゃんは窮地に陥ってもなんだかんだ余裕を持って、我ら視聴者に娯楽を提供してくれる。


「なんですか、その目はぁ……」


我の訝しがる視線に気付いたのかサンちゃんが弱々しい抗議の声を上げた。


「しらぬいと違うとでも思ってたんでしょう」


思わずぎくりとした。


「……やっぱり。そりゃあそうですよ! こんな命の危険に晒されてキャラ保っていられるもんですかあ! 視聴者もいないのに気ぃ張っていられませんって!」


「えっ、視聴者おる……」


「どこにですかっ」


「わ、われぇ……」


サンちゃんは面白いくらいに目を丸くしおった。

盲点を突かれたとばかりに呆気にとられておる。


「我も、ぬいちゃんの配信を見てきたんじゃ。今だって欠かさず見ておる。配信に被りそうな時は深鏡に抗議してでもりあたいじゃあ。我がぬいちゃんの大ファンだってことはお前がぬいちゃんだってなら身をもって知っとるじゃろ」


「それはそうですけどぉ……でも団三郎ですよ? 小さい頃悪いことすると二ツ岩が飛んでくるぞってさんざっぱら脅されたんです。染み着いちゃった恐怖は簡単に消えませんよぉ……」


ぐすぐすと最早泣き声でサンちゃんはぐずり始める。

こうなってしまえばただの童女と変わらん。


「……なんじゃ、我が夢中になった狐宮しらぬいも中を割ってみれば有象無象と変わらんのか」


思ったより冷たい声が出た。

思いもしないことを言ったつもりだったのに無意識に温度が低くなったのは、実は我も少しはそう思っていたってことなのかあ?


「今、ひとりの視聴者を失ったのう。そりゃあ何十万人もいるうちのひとりじゃが、ここに確かにひとりの視聴者が減ったのじゃあ。悲しくはないか? 悔しくはないかのう?」


我だって好きでこんなことを言っている訳じゃない。

一言一言発する度に臓腑がきりりと痛む。

じゃが、このままではきっと惨いことになる。


「あーあ、我が憧れたぬいちゃんがこの程度の窮地で弱音を吐くような軟弱者じゃったとはなあ〜っ! はぁ〜あ〜、がっかりじゃのお〜!」


うっ……そんな真っ赤な目で恨めしそうに見るんじゃない……!

まるで我が悪いことをしてるようじゃないかい……!

いや、してるんじゃけどもっ……!


「なんで……なんでっ! そんな酷いこと言うんですかあっ!」


そりゃサンちゃんの怒りも尤もじゃあ!

じゃけどもサンちゃん、気付いとるか。


さっきからこちらを伺うねっとりとした灼熱の視線を。


何処から見ているかは分からん。

じゃが我が白孫の不手際に気付いたあたりから確かに見ておる。


もとよりこの場は団三郎の領域じゃ。

我が気づく前からずっとこちらを監視しとったのじゃろう。


そもそもが油断しすぎていたのじゃあ。

既に彼奴の胃袋に呑み込まれておるのだから、気分次第で直ぐ様どろりじゃ。


じゃからこそサンちゃんにはここでへこたれていてもらっては困る。

そりゃ我が守るとは言ったが、団三郎はかなりの実力者じゃあ。

正直なところ、このへなへな状態のサンちゃんを完全に守る自信はない。

発破をかけてでもサンちゃんには、なにくそといつもの負けず嫌いを発揮して立ち直ってもらいたいのじゃが。


「もーっ! やだーっ! うわああああああん!」


やっべ、我やりすぎた?

ほんと寒暖差が激しくて嫌になりますよね。

体調に気をつけていきましょう(2敗)

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