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化け狸とおふこらぼ-1

ぐるぐると目が回る感覚に襲われ、身体が濁流に飲み込まれた時のようにもみくちゃにされとる。

痛みはないがこの平衡感覚に訴えかける移動方法はいつまで経っても慣れんのう。


暫し目を閉じる。

数秒か若しくは数十分経ったじゃろうか。

瞼の裏に仄かな光を感じ目を開けた。


気づけば我は無骨な岩場に胡座をかいて座っとった。

岩の隙間からはくすんだ赤や紫色のイネ科に似た草がぼうぼうと生えておる。

空は不気味に暗いまだら模様に染まり、ぐねぐねと蠢いておった。


「まるで魔界じゃな」


袴についた土埃を払いながら立ち上がる。

ぐぅーっとひとつ背伸びすると生臭い鉄っぽい匂いが鼻につく。

うーん、あまり長居はしたくない場所じゃなあ。


我がここに飛ばされる前に見たあの顔。

その顔には見覚えがあった。


かつて行動を共にしたこともある我と同じ古狸。

四国の爺イどもと並ぶ、力のある狸の大妖怪じゃあ。


昔からべったりと我にくっついてきおって、鬱陶しいったらありゃしなかった。

我が彼奴の元を去る時にも一悶着あったもんじゃ。


寝込みをいきなり襲ってきよって、そっからは互いに容赦のない三日三晩に渡る大喧嘩じゃあ。

彼奴の顔の一文字はその時についたもんじゃが、何故まだ傷を残しておるのか。

彼奴ぐらいになれば変化の応用で傷の一つなんぞ軽く治せるもんじゃろうに。


この度の一件。

間違いなく我が原因じゃろうなあ。


「……うぅ……」


足元から呻く声が聞こえた。

どうやら先程の少女も我と一緒に飛ばされておったらしい。

団三郎の話を信じるのであれば……この白狐の少女がぬいちゃんってことになるのじゃが、本当じゃろうか?


「……こ、ここは」


「目が覚めたかの。どうやら我らは団三郎に飛ばされっちまったようじゃのう。佐渡島とやらに」


「さど……? だんざぶろう……?」


まだ目が回っておるのか呂律が回らない口調で我の言葉を繰り返す。

少女はそのまま暫しぼんやりとしておったが、突然機敏な動きで周りの景色を見渡して叫びよった。


「佐渡の団三郎って狐嫌いで有名な極悪狸じゃないですかあ〜っ! も〜〜〜っ! 何で私がこんな目に〜〜〜っ!」


「落ち着け、落ち着け。騒いでも何も解決せんぞ」


肩をぽんぽんと叩いて宥めようとすると、そこで初めて我のことに気付いたらしい。

ひっ、と小さく悲鳴をあげながら跳び上がって俊敏な動きで岩陰に身を隠しおった。


「あ、あなたも団三郎の仲間ですかあっ! ワタヌキさんの姿で私を油断させようったってそうはいきませんよぉ! 私こう見えてもちょっとは強いんですからっ! ちょっとは!」


「そんなに怯えんでもええじゃろうが。我は日和見主義の平和的なただの狸の婆アじゃって。それより……そのぉ、お前がぬいちゃんってのは本当のことなのかのう?」


我は出来るだけ少女を警戒させないよう態とのんびりと話す。


「はっ!? なんで今そんなこと!」


「頼む。大事なことなんじゃ。答えてくれ」


そう。我にとっての一番の大事はぬいちゃんじゃあ。

此度の一件が我が原因で引き起こされたことであり、それにぬいちゃんが巻き込まれてしまったとあれば悔やんでも悔やみきれん。

じゃからこそ、今ここで少女の正体ははっきりさせておく必要はあると思ったのじゃ。


「……そうですよ。私は狐宮しらぬい、その中の人ですけど。あっ、絶対に言いふらさないでくださいね!? 公表されたらvtuber辞めさせられちゃいます!」


「お、おおう……ほんとにほんとなのかの?」


「本当に本当ですよ。なんなら事務所との契約書でも見せましょうか? ……生憎ここにはありませんけど」


「いや、いや……結構じゃ。疑っておる訳じゃないからのう……」


我とて永らく生きてきた自負がある。

嘘を言っておるかなど最早息をするように分かるようになったわ。

……団三郎にまんまと騙されておった我が言うと説得力ないかもしれんけども。


しかし、これではっきりした。

あの少女がぬいちゃんだと分かったのであれば、ここで我がとる行動はひとつ。


「誠にぃ! 申し訳ございませんでしたああああああっ!!!」


元来生物の頭には霊魂が宿っていると言われてきた。

故に人の頭を触ることはその魂を穢す行為だと禁じられているところもあるくらいじゃ。

その頭を惜しげもなく地べたへ曝け出すことで、自分をどのようにしても良いという覚悟と謝意を示すことができる。


これぞ連綿と紡がれてきた人の歴史が編み出した謝罪の究極系。


我の『土下座』が炸裂した。


「えっ、ええっ!? ちょっとやめてくださいよぉ! 美少女に土下座されるって、どんだけ絵面酷いんですかあ!」


我が固い地べたに額をくっつけている間に、ぬいちゃん(仮称)は岩陰から出てきたようじゃ。

肩を掴んで強引に引き起こされた。


「我にはこうすることしかできないんじゃあ! 我が原因でぬいちゃんに迷惑をかけてしまったとあれば、頭のひとつやふたつ地べたに何度でも擦りつける所存じゃし、煮ても焼いても狸鍋にして食っちまっても構わん! それとも切腹がいいかのう!? よーし、御伽の古狸・白雲ワタヌキの一世一代の割腹をとくとご覧あれぇっ!!」


襟巻きを刀子に変化させて着物をはだけた腹に当てる。

一思いにえい、と刀子を滑らそうとしたところを叫び声と共に叩き落とされた。


「バカですかっ!! いきなり割腹自殺見せられるこっちの身にもなってください! 一緒のトラウマものですよ!?」


「えぇ……我はぬいちゃんに謝ろうと……」


「気持ちは伝わったのでもう大丈夫ですっ! ……その暴走っぷり本物のワタヌキさんだったりします?」


「……そこで判断されるのかい。そうじゃよ、ワタヌキじゃよー……こんたぬきー……」


なにか釈然とせんが我が本物だというのは理解してもらえたようじゃ。

ぬいちゃんははぁ〜と大きく息をついてぺたりと我の横に腰を下ろした。


「ちょっと状況を整理させてください……。しらぬいのコスプレイヤーが現れたと思ったら、それが化けた団三郎で、一緒にいたワタヌキさんは本物だったと。ワタヌキさんは設定じゃなく本当に化け狸だってことですか?」


「最初からそう言っとるじゃろう? 我は齢数百の化け狸じゃ。こっちとしてはぶいちゅうばあってのに中身がいるってのも衝撃だったのじゃが、中身もそのまま化け狐だってのは一体どういうことなんじゃあ?」


ぬいちゃんは耳をぴくぴくと震わせて周りの警戒を怠らず答えた。


「狐たちは案外人間社会に馴染んで生活してますよ。私はたまたまvtuberをやってるだけです。狐のモデルを提示された時は肝が冷えましたよ。正体がバレたんじゃないかって。あ、そうだ。私、葛葉サンです」


「サン?」


「私の名前です。狐宮しらぬいはキャラクターの名前。こっちの姿ではそう呼んでください。ワタヌキさんは?」


「我はワタヌキのままでええよ。元々の通り名じゃからな」


区切りが悪くなりそうなので一旦ここまで投稿です。

最近あったかくて過ごしやすくて良いですねえ。

いつも評価やブックマーク、いいねもありがとうございます。

面白いと思ってくださったら、下の評価とかブックマークをちょちょちょっとやってくれると大変助かります。

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