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化け狸と炎上-3

「緊急会議じゃあーッ!」


我の鶴の一声でミカガミプロジェクトの面々が会議室に集まった。


困惑顔の善童、無表情の氷霞、呆け顔の龍未。

錚々たる面子じゃあ。

我らミカガミプロジェクトの頭脳を結集させればこの難題もきっと解決できるはず。


「なんだよ婆さん。急に呼びつけやがって。セラに相談に乗ってもらってたってのに」


こやつ……女に惑わされおって。

お前が女にうつつをぬかしている間に大事件が起きているのじゃぞ。


「バカタレェ! そんなこと後にせい! ひめがさっきここに来たんじゃ!」


「おお! やっと戻ってきたのだ? まったく人間どもにやり込められたくらいで落ち込みすぎなのだ」


お前は周りのこと気にしなさすぎじゃろ。

なんでさっきからずっと口がぱかーと開いとるんじゃ。

あはは、じゃないわ。なんで笑っとるんじゃ阿呆が。


「ひめさん……大丈夫、でしたか? 元気、なかったから心配、です」


「そこなんじゃよ……ひめなあ、我に辞めるって言ってきよったんじゃ」


「やめる? ああ、婆さんを揶揄うのやめるってか。いいじゃねえか。あのお転婆も少しはお淑やかになるんじゃねえのか」


「再びのバカタレェ! ちゃうわい! ミカガミプロジェクトを辞めるって言っとるんじゃあ!」


「あえぇ? ばあちゃんミカガミ辞めるのだあ?」


「阿呆! 我じゃなくてひめが! ひめが辞めるんじゃよ!」


「ひめさん……が……!?」


「そう……そうなんじゃよ……」


なんじゃこいつら。

我の体力を根こそぎ持っていこうとしやがる。

ちゃんと話を聞いてくれるのは氷霞だけじゃあ……。

たまに不穏じゃが根は優しいまともな雪女なんじゃなあ……。


善童と龍未はようやく事の次第を理解したのか、あわわと口元を抑えておる。


「えーっ! 一番辞めそーにないやつなのだーっ!?」


「何があったんだよ! おい、婆さん! あんたヒメと仲良いんだろうが止めなかったのかよ!?」


「我が止めなかったとでも思うかあっ!?」


そう!

ひめが我に辞めると告げたあの時、咄嗟に止めようとはしたのじゃあ!

だがよぅ、あまりにもあっさりと当たり前のように告げるもんだから我の頭も一瞬ぴたっと止まってしまったのじゃなあ……!

止めたい気持ちは確かにそこにあった!


「止めてねーじゃねーか!」


「だ、だってよぅ! 我だってびっくりしたんじゃもん……」


意識の間隙にずばりと切り込まれたんじゃ……。

許して……許してくれい……。


「やっぱり、先日、の、コラボ配信の影響、でしょうか……」


氷霞が顎に手を当てながら思案顔で呟く。


「そうじゃろうなあ……」


ひめはあの性格じゃから抑圧されるのは耐えられんじゃろ。

今までがどうだったかは知らんが、あの我儘具合を見るに相当に甘やかされてきたか、何かしらの方法で自分の意見を押し通してきたのじゃろなあ。


妖怪の世では力強き者の意見が通る。

例え傍若無人な外道であろうが、誰も敵う者がいなければ必然として意見を通すことができるのじゃ。


ひめももしかしたら強引な方法を取ってきたのかもしれん。


じゃが今の戦場は人の世じゃ。

特に暴力御法度の深鏡の元で動いているのだから、その戦い方は限られる。


ひめが目指すあいどるってのは、歌い踊り聴衆を楽しませるのじゃろう。

そこに今まで通りの考えで無策に突っ込んでは返り討ちに遭うのも仕方がないというものじゃな。うん。


……ん?


いや、返り討ちにはなっておらんな?

あいどるの世界に飛び込もうとして門番に止められたような感じじゃ。

足を踏み入れてはいけないと言うように。


禁足地、というものがある。

それは妖怪の棲まう地や魔界に繋がる穴が発生する場所など、全国に幾つも散在しておる。


そのどれもに共通するのは危険であると言うことじゃ。

じゃから親人間派の妖怪たちが門番として惑いの結界を張ったり、時には脅かしたりして侵入を防いでいるのじゃ。


今回の件もこれに似ておらんじゃろうか?


あの『柴原こいぬ』とかいうぶいちゅうばあはあいどると名乗ってはいないものの、実質的にやっていることはそれと変わらない。


歌って踊って、その結果として絶大な人気を誇っているそうじゃ。


じゃがそこに至る迄の道のりは容易なものじゃろうか?


我とて永き時を生き、様々な事柄を見聞きしてきた。

出る杭は打たれる。

これは今も昔もそう変わりはせん。


人間はほんに愚かじゃあ。

傑出した人物には、賛美される一方で必ずやっかみの類が現れる。

自分より優秀なのが気に食わないんじゃろうな。


人間の恐ろしいところは、その敵意が同じ人間に向けられることじゃ。

人間同士で諍い、人間同士で争い、人間同士で殺し合う。


こいぬも今の立場を手に入れる迄に見たくもないものを見て、経験したくもないことを経験してきたじゃろう。


じゃからひめに忠告したのではないか?

「実力が伴っていない状態で挑んでも不幸なことにしかならない」と。

自分が歩んできた道じゃからこそ、その危険性を身をもって知っているから。


……案外こいぬは優しいやつなのかもしれんな。

だとしてもあんなに責めるような口調で言われたら、そりゃあ反発するわなあ。

特にひめみたいな我儘娘は。


「まったく……世話が焼ける娘っ子じゃわい」


ひめに説明してやらにゃあかんな。

そんで場を用意してひめからこいぬへ謝罪のひとつでもさせるとしよう。

きっと拗ねて「もう辞める」なんて口走っちまったんじゃろうな。

若者の悩みを聞いて諭すのは年長者の義務じゃから、やれやれ今回は仕方ないのう。


「よぅし、皆の者! 我、ひめのとこ行って説得してくるわい!」


「ああ、それがいいだろうな。あいつは一番心を許してるのはあんただろうし。婆さん頼んだぜ」


「頼むのだ!」


「頼み、ます」


「あい、分かった! 行ってくるぞーっ!」


我は勇んで会議室から飛び出す。

まずはひめのところに行って甘ったれた性根をびしびしと矯正してやろうじゃないかい!


「会議って言いながら、結局ひとりで突っ走って行ったのだ?」


「あの婆さんは頭ン中で色々考えて自己完結しちまうからなあ。緊急会議って言いたかっただけじゃねえのか? にしても、ひめが離脱か。寂しくなるかもな」


「いえ、きっと、ひめさんなら、大丈夫です……!」


「んー? なんでなのだ?」


「綿狸さんが、行きました、から。二人の間には、固い絆があります。愛の、力は何よりも強いんです……愛の、フフフフフ」


「うわ! 寒ぃのだ!?」


「こりゃやべえ! 氷漬けは勘弁だぜ!」


「フフフフフ……」

桜も散り始めてしまいましたね。

花見にはぎりぎりのシーズンかもしれません。

いつも評価やブックマーク、いいねも有難うございます。

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