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化け狸と炎上-1

深鏡の計画通りミカガミプロジェクトはぬいちゃんの所属するゆーとぴあぷろじぇくととこらぼを続々こらぼを行うこととなった。


善童を皮切りに氷霞→龍未→ひめの順番で日替わりでこらぼ配信じゃあ。


善童の相手はゆーぷろ3期生の雪豹セラ。

雪豹の擬人化とも言えるぶいちゅうばあで、その恵まれた体格から来る健康的な魅力と豪放磊落な物言いが人気だとのこと。

善童は女の身形であるから恥ずかしがって本来の鬼としての豪胆な性格を活かせずにいる。

しかし善童はせらの竹を割ったような性格に感じ入ったものがあるようじゃ。

まだ視聴者に性的な方向で弄られることには抵抗があるようだが、以前よりも胸を張ってはきはきと喋ることが出来るようになった。

その胸をどーんと張ることで更に視聴者が沸き立っておるんじゃが、逆効果ではないかのう?


続いての氷霞は2期生のユリアナ=セイレーン。言いにくいのお。

耳の代わりに魚の鰭のようなものがついた年若い美女じゃ。

ほーむぺーじを確認すると人魚とか呼ばれる種族だとか。

氷霞との共通点は一目瞭然。

どちらも無表情かつ息を呑むような美女じゃ。

彼奴らも互いに意気投合したのかぽつりぽつりと言葉を交わしておった。

視聴者層も似たようなものなのか、また美術鑑賞の如き空間が出来上がっておったのは、教育が行き届いている証じゃろう。


龍未も2期生のルーフェンシア=オル=ドラガ。ちくしょう更に言いにくい。

漆黒の角と赤い鱗を持った偉そうに踏ん反り返った小柄な童女じゃな。

彼奴は見るからに竜じゃな。西洋のどらごんと呼ばれるものらしい。

此奴らはどっちも阿呆じゃ。

他愛もないこと(好きな食べ物)の話で盛り上がって、終いにはぎゃあぎゃあ童の如き幼稚な言い争いをしておった。

わーわー泣きじゃくり、泣き止んだ後には先程の言い争いが嘘のように互いに相手を褒め称えておった。

「ルーちゃんは親友なのだ!」「タッちゃんは妾の盟友ですー!」とか言いながら、配信時間を大幅に過ぎても会話が止まらなかったところを見ると本当に仲良くなったのじゃろうな。


問題はひめじゃ。

ひめのお相手は1期生の柴原こいぬ。

小柄な犬耳の童女じゃ。

元気にぴんと立った犬耳に反して、気力下降気味の気怠そうな雰囲気が印象的じゃな。

歌と踊りを得意とし、ゆーぷろの音楽らいぶの目玉として確固とした立場を築いておるそうじゃ。

あいどるとやらを目指すひめとしては目標とすべき人物なのは間違いない。

しかしひめは自尊心が強すぎた。

全身がちがちに武装を固めた相手に棒っきれで挑むようなものじゃ。

切欠はひめの発言からじゃのう。


「ヒメはーvtuber界のトップアイドルになるのー!」


「……うん。それはそんなに簡単なことじゃないかもね」


「でもヒメは可愛いのでぇ、リスナーのみんなも応援してくれるよねー!」


「ふぅん」


ここいらでこいぬの言葉が冷たくなったことにひめは気づくべきだったのお。

剣呑な雰囲気を醸し出し始めたこいぬに気付かずひめは調子良く続ける。


「ヒメはね。みんなに可愛がられてチヤホヤされて歌もダンスも褒められて、世界中の誰しもがヒメのことを知ってるよーになることが目標なの! すぐにみんなヒメの虜になるよー!」


「そうなんだ。ヒメちゃんはアイドルって凄くキラキラしたものだと思ってるんだね」


「トーゼンでしょ! アイドルは舞台の上で光り輝く一番星なんだから!」


「でもアイドルって大変だよ。歌やダンスの稽古だってそれこそ血の滲むような努力を重ねないといけない。それでも眩く才能には届かないこともある。悔しいよ。僕だってここまで来るまでに挫折しそうになることも一度じゃなかった。それでもトップを目指すんだ?」


「……も、もちろん! だってヒメにはさいのーがあるから!」


「へぇ、何の才能があるの?」


「う、歌もダンスも上手だし……」


「そうなんだ。何年くらいやってるの? 歌とダンス」


「い、いや、まだこれから……ですけどぉ」


「実績はないのか。何を根拠に自信があるって言ってるのかな」


「それは……」


気怠げな声音で淡々と畳み掛けるこいぬに、ひめはたじたじで口籠もっていく。

こめんと欄も不穏な雰囲気になり、こいぬの態度を糾弾する者もいたが圧倒的な支持率の差でそれは呑み込まれていった。


「口だけならなんとでも言えるけど、勢いだけで頂点に登れるほどこの業界は甘くない。それを心に刻んでこれから活動していくといいよ。先輩の僕から言えるのはそれだけかな」


「……」


ヒメは天真爛漫に振る舞うことを常としてきた。

しかしここに来て自身の完全上位とも呼べる人物に頭を抑えつけられておる。

抑えつけれた反動は最悪の形で表出してしまった。


「もーっ! 偉そうにうるさいっ! うるさいうるさい! 碌に生きてない人間風情がヒメに偉そうに説教くれやがって何様のつもりだよー!! こんなダウナー女が人気とかみんな目ぇ腐ってんじゃないの!! ヒメの方が何万倍も可愛いからぁーっ!!」


精神的負荷の噴出。

そしてひめの内面の露出。


配信は静まり返った。

こめんともぴたりと動きを止めたが、一瞬の間を置いて今までの比にならぬ程の膨大なこめんとが流れ始めた。


その多くがひめの暴言に対する批判であり、それはこいぬの視聴者だけではなくひめの視聴者も一緒になって行われたものだった。

それに加えてひめの視聴者は突然のひめの毒舌に今まで騙されていたという気持ちもあったのじゃろう。

「騙された」「失望した」とのこめんとを残してちゃんねる登録数はみるみる減っていった。


そこで配信は急遽打ち切りになったが、それで騒動は終わらない。

あーかいぶにこそ残さなかったが、既に動画を保存しておった輩が短い切り抜き動画を作成してそれがようちゅーぶに溢れた。

do!tterでもひっきりなしにひめの名前が話題に出され、その態度について物議を醸す。


最悪の方向でひめの名前は知り渡りつつあった。


人の噂も七十五日、とは言うがこれから本格的に活動を始めていこうとしている時にこの悪評はあまりにケチがつきすぎた。


ひめも暫くは配信をしないようにと深鏡から申し伝えられたようじゃ。

ひめがどこに住んでいるかは知らんが、暫くはマヨヒガスタジオに顔を出しておらん。


我も流石に心配しておる。

いつもは我をこれでもかと揶揄ってきよるから鬱陶しいことこの上ないが、それが無くなると実際寂しいものがある。


数日静かな日が続いたあと、ひめはふらっとマヨヒガスタジオに現れた。

そして我を見つけると、たたたと駆け寄ってきて何処か陰のある笑顔で我に告げたのじゃった。


「ヒメ、辞めることにしたから」

本日2話投稿です。

ひとつ前から見ていただけると良いかと。

いつも評価やブックマーク、いいねも有難うございます。

頂けると私の糧になります故、宜しくお願い致します。

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