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化け狸と初配信-1

時は暫く経ち……。

いよいよ今日は運命の日じゃあ。


我らミカガミプロジェクトのお目見えの時。

つまりは『初配信』じゃのう。


はじめ我は気楽に考えとった。

多くの人間達に認知されて「可愛い」「格好いい」だの言われりゃあそりゃ気分がいいさあ。

しかしのう。

それだけの声を貰っているということは、即ち相応に期待されているということ。


ここで我のとらうまがぶり返しよった。

かつて金を稼ごうとようちゅーぶで行った配信。

その惨憺さたるや、むしろ見事。

あの時のように、また心無い言葉を豪速球でぶつけられるんじゃないかと内心冷や汗が止まらんのよ。


マヨヒガスタジオ。

その中の『はいる君』の扉を開けて我はめたばぁす空間へと身を投じる。


数瞬の後、我の目の前には同僚達が勢揃いして待っておった。


「ばあちゃん! 遅いのだ!」


龍未が大きな声で言う。

此奴には婆アの姿は見せておらんはずじゃが、阿呆故の直感か我をそう呼びおる。


「すまぬすまぬ。悪いもんでも食ったかのう? 腹の調子が悪くてな」


「おいおい、この重要な日に大丈夫かよ婆さん」


善童何故貴様も我を婆アと呼ぶ?

と、そこで善童の後ろで悪戯っぽく笑うヒメを見つけた。


また貴様かあクソガキ!

……まあ別に怒るようなことじゃないが、どーしても我を揶揄わずにはおれんようじゃな。

いつかお灸を据えちゃる。


「ワタちゃーん。まさかキンチョーなんてしてないよねえ? りらっくすだよ、りらーっくす〜」


我が緊張してるのを分かって言っておるな?

本当に性根が捻じ曲がっとるやつだのう。

しかし、逆に緊張は多少解れたわい。

狙ってやった訳ではないとは思うが、ちょっと感謝じゃ。


「緊張なんぞするか! 我を誰だと思っとる! 御伽の古狸・白雲ワタヌキじゃぞ!」


「……それ気に入ったんだ?」


「……格好いいじゃろがい」


「いっつもヒメのことこどもってゆーけど、ワタちゃんの方がこどもじゃーん」


「うっ、うるさいわ! 好きなもん好きって言って何が悪いんじゃあ! ばーか!」


「あはは! ばかってゆー方がばかなの知らないの〜? ねえ、ワタちゃん」


「なんじゃい」


「がんばってね」


「へっ、あたぼうじゃ」


我はヒメ達を背にしてさっさと収録ぶーすへと向かう。

決して不穏な動きを見せていた氷霞から逃げた訳ではないのじゃ。


深鏡からの贈り物。

めたばぁす空間内にそれはある。

我ら専用の、収録ぶーすと呼ばれる箱型の部屋。

一人ひとつずつ与えられたそれには、配信に関わる諸々の設備が十二分に用意されておる。


我ら全員が活動する空間じゃ。

それぞれ好き勝手に環境を変化させていたら落ち着かんじゃろう?

それをこの箱内で限定的に留めるのじゃ。

この箱内は我の世界。

我の理想の空間じゃあ。


住処の山を模した自然あふれる世界。

我の想像で作り出したぬいちゃんグッズを短冊飾りのようにそこらの木にぶら下げとったが、無情にも深鏡によって処分されてしまった。


深鏡ィ……! 何も燃やすことないじゃろうが!

パッと消せばそれで良かったんじゃないのかのう!?

あやつは紳士然としながら度々暴力的にこちらの心を折ろうとしてくる節がある。

それってやってること獄卒と同じじゃからな?


「誰が獄卒ですか。無駄なことを考えていないで早く準備をしてください。時間になったら自動的に配信開始されますから。待ったはありませんよ。私が心血注いで作り上げたミカガミプロジェクトの第一歩目を貴方に任せたのです。失敗は許しません」


きっと外から監視しているのじゃろう。

深鏡の声が天から響いてくる。


「初舞台に緊張を煽るやつがあるかい。まー安心して見ているがよい。年の功ってやつを見せつけちゃる」


「その言葉を信じましょう。しかしもし一歩目で躓くような事があればその時は覚悟して下さい」


「な、なんじゃ。何をする気じゃあ」


「我が一族の総力をもって貴女には今後一切ネットへは触れさせません」


「だーから何で脅すような事言うんじゃあ! 貴様、味方のフリした敵じゃないのか!?」


「フハハ! 冗談です。ヒメさんが言っていた通り、貴女は揶揄うと面白い反応をしてくれるのでつい」


ヒメの魔の手が伸びるの早すぎんか!?

ちくしょうがあ!

こんな揶揄いがこれからずっと続くかと思うと、流石の我も気落ちしてくるぞコラァ!


ぷんすか怒っている間にも配信の開始時刻は刻一刻と迫っておる。

深鏡もあれ以上余計な口出しはせず沈黙を保っておった。


こればかりはお手製で持ち込んだふかふかの綿座布団に腰を落ち着け、今か今かとその時を待ち続ける。


あ、やば。

これ緊張が高まるのう……。


「さあ! 残り1分ですッッッ!」


「ひょぁああああっ!?」


い、いきなり話しかけてくるでないわ!

うひょう、心臓が口からまろび出るかと思ったわい……。


「失礼しました! テンションが上がってつい!」


「ついで命を奪おうとするなバカタレぇっ!」


「私の悲願が達成される時が来たのです! 少しくらいのお茶目は許してもらおうッッ! フハハハハハハハ!!」


当事者じゃないからって気が楽そうじゃのお!

我は気が気じゃないんじゃけどおっ!


「さあ運命のカウントダウンですッ! 歓喜の産声をあげるがいいッッッ!!」


あわわ……本当に始まっちまうのじゃあ……?

我ってこんなに本番に弱かったかのう!?


「5」


「4」


「3」


「2」


「1」


も、もうなのか!?

まだ心の準備が出来とらんのじゃがあっ!?


「配信開始ですッッッ!!」


慌てふためく我など微塵も気にする事なく、情け容赦なく配信は始まっちまったのじゃなあ……!


***


ミカガミプロジェクト始動。

妖が創る妖の為の電脳空間から急先鋒が放たれた。


待ち侘びていたのは人間達だけではない。

永き時を生きた力のある妖は新たな世界に生きようとする同胞を見届けようとユーフォンを片手に待機していた。


これからの妖の行く末を決めるであろう分水嶺。

これはただの娯楽の範疇に収まるような単簡な話ではないのだ。


固唾を飲んで見守った。

しかし、放たれた急先鋒はあわあわと目を回しながら訳も分からぬ事を喋っているばかりだ。


妖たちは思った。

これは失敗だ。

無様に恥を晒しただけだ。

妖の未来などやはり廃れるだけなのだ。


千里の眼でその様子を覗いていた深鏡は心底可笑しそうに笑った。


彼らは何も理解していない。

自分達が引きこもっている間に人間は変わったぞ。


「あまり人間を舐めるな」


深鏡はそう呟くのだった。

見てくれる方が増えてきて嬉しい限りです。

一緒にvtuber沼に堕ちましょう。

評価やブックマークもほんと有難く頂戴しております。

がんばっぞー。

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