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化け狸とネット文化-2

「あー、まったく。人間たちの作る娯楽は最高だの」


ユーフォンを操作してようちゅーぶの新しい動画を再生する。

甲高い声でバンバンと人を撃ち殺していくゲームの奇行をまとめた動画のようだ。


「ははは、馬鹿だこやつ!」


奇声を発しながら味方に裏切られてゲームオーバーになると動画は終わった。


今の我は自分の毛で作ったモワモワの巨大クッションに寝転がりながら、ユーフォンの画面を我自ら開発した妖力モニターに出力し大画面で動画を楽しんでいる。


手元には、じゃがいもを薄切りし菜種油で揚げた至高のおつまみも常備している。


しばらく前の退屈とは打って変わって、我の隠居生活は楽しいものとなった。

それもこれも白孫のやつが置いて行ったユーフォンのおかげ。ひいてはユーフォンの製造元雲外鏡のおかげだ。


最初は使い方もわからなかったユーフォンも今となっては我の体の一部。

もうこれなくして我の生活はままならない程に依存してしまった。

動画配信サイト『ようちゅーぶ』が無い生活など想像もできん。


白孫の言う通りになったことについては少々癪だが、この楽しみには代えられん。


「おっ、そろそろ配信の時間じゃないか!」


ようちゅーぶの通知にピコンと赤い印がつく。

「もうすぐ配信がはじまります」との文章と共にとあるチャンネルがポップアップした。


『【新人Vtuber】狐宮しらぬいGamechannel』


四角いサムネイルの中で、ピンと耳の立った白狐の擬人化キャラクターがムムムと難しそうな顔をしており、その顔の横には『超難易度!耐久配信!!クリアするまで帰れません!』と煽り文句がデカデカと踊っている。


「これこれ。これを楽しみにしてたんだ」


最近のお気に入りなのだ。

最初は狐と言うことで冷やかしで見てやろうと思っていたが、いざ見てみるとその上手くはないが応援したくなるようなゲームセンス、そして視聴者を飽きさせない巧みな話術で虜にされてしまった。


彼女は狐は狐でもいい狐だな!


サムネイルをタップして配信の待機所に直行する。

配信のコメント欄は開始を待ち望む視聴者の熱烈な声に溢れていた。


「待機待機……うぉー待ちきれんなー!」


そう言った言葉がコメント欄に表示される。

我のユーフォンは妖力改造済みだ。

音声認識でそのままコメント欄に反映させることができる。

コメントするかどうかは我の任意だ。便利だろ?


「コメントの流れに乗ると我も人間の仲間になっているみたいで心地よいなあ」


秘境にて孤独を極めた我は人の輪に加わることだけでも心地よさを感じるのだなあ。


しばらくコメントの流れに身を任せていると待機画面が動きのある画面に切り替わる。

コメントが加速する。我の気合いも加速する。


「待ってましたあああ!」


「はーい、みんなお待たせー。声の大きさ大丈夫かな?大丈夫?ありがとー!こんみやぁー!今日はジャンピングナイトの耐久配信ですよー!まぁ私ほどの腕前となるとー、1時間くらいでクリアしちゃうかなー?配信短くなっちゃうかもだけど楽しんでいってねー!」


ーーー


それから十数時間後……。


「へ、へへへ……。あと一歩でクリアですよ……。長かった、長かったよ……でも私にかかれば超難易度ゲームだって……チョチョイのちょいなんですよぉ……!クソォやってやる!後一歩なんですよ!クソァ!怖いィィィィ!ここでミスったらまた最初っからやり直しなんですよォォ!いくぞ!いくぞぉ!……っ!よっしゃああああああああああああ!!!全クリやりましたよおおおおおお!!ハァンやりましたよ!最後まで見てくれた人ありがとー!!もう!私は!寝ます!グッナイしーゆー!!!!」


パッと画面がエンディング画面に切り替わる。


「長く辛い戦いだった」


今回挑戦していたゲームはジャンプのみで頂上を目指す、単純だからこそ、失敗の許されない過酷なものだった。

中盤まで順調に進んでいたが、一瞬の気の緩みにより落下。

そこからは大はまりで何時間も同じ場所まで進んでは落下を繰り返し、精神状況も悪化の一途であった。

クリアまで後一歩というところで開始地点まで戻され、精神崩壊しかけたが不屈の精神でついにクリアまで漕ぎ着けた。


「真なる人間の精神性を垣間見た気分だ。かの白面が人間にやられたのも頷けるというものだな」


手元に用意した熱く淹れたほうじ茶を飲む。

途中からは大声で応援していたせいもあって喉がカラカラだ。


「しかし、この感動をどうにか本人に伝えられないものか」


勿論コメントで『おつかれさま!』だったり『感動した!』だったり数々の賛美の言葉は送っている。

しかしこの感動を形にして本人を労うことはできないものか。


「ぬいちゃんがこの場に居ようものなら、溜め込んだ宝玉やら妙薬やらなんでもあげられるのになあ」


そう思いながらウームと頭を捻っているとユーフォンがビリリとけたたましく鳴り出した。


「これは……電話、か?」


ユーフォンの画面には白孫の名前が表示されている。

画面の通話と書かれているボタンを押すと聞き慣れた声が聞こえてきた。


「よう、綿狸の。文化的な生活を楽しんでるかい」


「おお。やはり電話というやつか。白孫の、いいものをありがとうよ。ようちゅーぶは最高だな。お陰で我の生活は彩りを取り戻したようだ」


「ははは。やはりハマっていたか。刺激的だろ現代の人間文化は。……ところでだ。今日は綿狸のに伝えたいことがあって連絡したんだ」


急に声のトーンを下げる白孫に何か不穏な気配を感じる。


「また四国の狸どもが内乱でも起こしとるんか。それなら我には関係のないことだ、それが嫌で山奥に引っ込んどるんだからな」


「いやいや、そうじゃねえ。四国狸どもは相変わらずどんぱちやっとるが、今回は別の話だ」


「なんじゃい」


「ユーフォンの試用期間が終わったんでな。これからは金がかかるってことを伝えなきゃと」


「これタダじゃないんか」


「試供品だって言ったろ?それ自体は無料でいいとよ。だが月々使う分の使用料ってのはかかる。ネットを見るための代金だよ。雲外鏡も慈善事業でやってるんじゃないんだぜ」


「まあ、それもそうか。で、いくらじゃ。こちとら隠居生活の身だ。溜め込んだ財宝やら何やらなんでもあるぞ」


「そこが問題でねえ。現金のみしか受け付けねえってんだ。しかも現代の日本銀行券に限るって徹底ぶりだ」


「そんなもん持っとらんぞ」


「払えなければ来月にはネットが使えなくなるって寸法だな」


「えっ、困る」


来月まで……およそ二十日。

たったの二十日で我からネットを奪うのか。

我の生活を幸せにしておいて、その幸せを奪うとは悪逆非道の行いだ!

しかし我にこの幸せを与えてくれた恩人でもある。

払えるものなら払いたいが、無い袖は振れぬ。


「のう、白孫の。どうにかならんか」


「そう言われても決めたのは儂じゃねえしなあ。勝手に引きこもって金がねえのも儂のせいじゃねえしなあ。雲外鏡に直接言ったらどうだ?ユーフォンに連絡先入ってるだろ」


「それもそうだな。助かった白孫の!ネットを奪われるなんぞ我が身が引き裂かれる思いじゃあ!連絡してみる!」


通話終了のボタンを力任せに押し、目を皿のようにしてホーム画面から連絡先のアプリを探し出す。


アプリを開くと雲外鏡の連絡先はすぐに見つかった。

そもそも白孫と雲外鏡の連絡先しか入っていなかった。


「これか!頼む雲外鏡!我からネットを奪うな!」


通話ボタンを押す。

短いコール音のあとに不自然な継ぎ接ぎ音声が流れ始める。


『こちらは雲外フォンカスタマーセンターです。こちらは雲外フォンに関する操作説明やヘルプについての窓口です。なおネット料金の支払いについての問い合わせは受け付けておりませんのでご了承ください。電話にお繋ぎいたします』


再びプルルルルとコール音が鳴り、今度は生身であろう滑らかな声が聞こえてきた。


『お電話ありがとうございます。雲外フォンコールセンターでございます』


「のう!ユーフォンの使用料についてなんじゃが」


『ネット料金に関しての質問はお受けしかねます』


ブツン。ツーツー。


「はぁっ!?」


使用料に関する質問をした途端に声が急激に冷たくなってそのまま電話を切られた。

もう一度雲外フォンコールセンターの連絡先をタップし電話をかける。


『こちらは雲外フォンカスタマーセンターです。こちらは雲外フォンに関する操作説明やヘルプについての窓口です。なおネット料金の支払いについての問い合わせは受け付けておりませんのでご了承ください。電話にお繋ぎいたします』


プルルルル。


『お電話ありがとうございます。雲外フォンコールセンターでございます』


「電話を切るな!」


『大変申し訳ございません。電波が悪かったのでしょうか』


「ふん、まあ良い。それで雲外フォンの使用料のことなんじゃがな」


『ネット料金についての質問はお受けしかねます』


ブツン。ツーツー。


「はあぁっ!?」


ふざけんな、なのだが!

その後も何度か同じように電話をかけてみるものの、取り付く島もなくすぐさま即切される。


「白孫のー……助けてくれー……」


どうするべきかと白孫に電話をかけてみるが『電源が入っておりません』と機械音声が流れるばかりで一向に繋がらない。


「うぬぉおおおぉぉぉ……万事休すか……とりあえずぬいちゃんのアーカイブ見て気を紛らわそう……」


すぐに使えなくなるわけでは無いのだ。

今はこのささくれた気をぬいちゃんに癒してもらうのだ……。

面白いな、と思ったら。

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