表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/48

化け狸とデビュー-1

小気味良く流れる和のテイストをふんだんに盛り込んだインストゥルメンタル。


一切の光を通さぬ暗闇の世界。

そこに一筋の光が差し込む。


舞台の幕が開くように、世界は光に照らされた。


そこに佇むひとつの影。

小さな影が弾けるように前に躍り出る。


おかっぱ姫カットで浅緑色の着物に身を包んだ愛くるしい少女が、その場で跳ねて大きくピースした。


『忘失の姫君・歌愛(うため)ヒメ』


ヒメは懐から赤や青や黄色のカラフルなボールを取り出し放り投げる。

絵の具が弾けるように色彩が画面を彩った。

その色彩は次第に白く霜付き、雪の結晶と化してぱりんと砕けた。


欠片の先で、陶磁の如く色の白い長身の美女が静かに目を開ける。


『銀嶺の雪女・風花氷霞(かぜはなひょうか)


氷で出来た百合が咲き乱れ、ほんのりと頬を朱に染めた氷霞が蠱惑的に微笑む。

瞬間、氷の百合が轟音と共に薙ぎ払われる。


巨大な鉄斧を背に担ぎ、燃えるような紅の着物に身を包んだ一本角の妙齢の女がふんと鼻を鳴らした。


『新生の大鬼・赫童(あかどう)ゼン』


大きく開けた胸元からこぼれ落ちそうな程のご立派をどうにかこうにか隠そうと、腕を組んではいるが逆効果で扇状的になるばかりだ。


そんなゼンの足元を濁流が浚っていく。

巨大な蛇の頭に仁王立ちして意気軒昂に、髪の濡れた女が波に乗って現れた。


『秘湖の蛇龍・水凪瀬龍未(みなせたつみ)


龍未は胸を張って高笑いをしていたがつるりと足を滑らせて蛇の頭から落下した。

あわや波に揉まれるかと言ったところで、何処からか漂ってきた白い煙が綿のようにふわふわとした雲となり龍未の体を受け止める。


漂ってきた煙の先には少女がいた。

波を避けて高台の岩の上にどっかと腰を下ろした獣耳の少女が煙管で一服している。


『御伽の古狸・白雲(しらくも)ワタヌキ』


にやりと笑ったワタヌキがふぅっと紫煙を吐き出し、画面が白く煙った。


BGMの音量が次第にフォードアウト。

完全に音が消えて暫しの静寂に包まれる。


そして煙が晴れた。


威風堂々。

ワタヌキを中心にミカガミプロジェクトの五人が並び立つ。


ヒメは爛漫な笑顔でダブルピース。

氷霞は頬に手を添え恍惚と。

ワタヌキは煙管を咥え老獪に。

ゼンは鉄斧を傍らに豪胆と。

龍未は両手を腰に当て胸を張って呵呵大笑。


そこに『ミカガミプロジェクト』のロゴが重なるように表示され、そのままあっさりと動画は終わった。


***


「おっ、おおおおおおおおお……!!」


サンは動画が終わったにも関わらずスマホを両手で構えたまま、感嘆ともとれるような唸りをあげた。


「なにアレ!? アニメじゃないですよね!? 3Dであのレベルの滑らかさってこと!? ってかCGもすごすぎ! 相当金かけてんな〜流石深鏡ってことかあ〜っ!」


もう一度動画の再生ボタンを押す。

そのまま二度や三度では済まないぐらいに動画を見続け、ほんの2分足らずの動画を小一時間ほど堪能したところでサンはスマホを手放してベッドに大の字に横になった。


「はぁ〜……すごいのが参戦してきますなあ……。同業種としては危ぶむべき事態だけど、個人的にはワクワクしちゃいますよね〜……」


誰に聞かせるわけでもなく滔々とひとり呟き続ける。


「全体的には和のテイストで纏めてるのかな。多分妖怪モチーフですよね。鬼とか雪女とかいたし。ヒメちゃんは正統派ロリ枠で氷霞ちゃんはクールお姉さん枠? ゼンちゃんは姐御かな? 龍未ちゃんはどーみても元気なおバカだし、ワタヌキちゃんは多分のじゃロリだ。分かってるだけで鬼と雪女と化け狸。ヒメちゃんと龍未ちゃんは何の妖怪なんだろう? 龍未ちゃんは湖とか蛇龍とか書いてあったから調べれば分かりそうだけど、ヒメちゃん謎だなあ! ミステリアスロリいいですねえ! いいですねえ〜〜〜っ!!」


両手で顔を覆ってベッドの上でごろごろと悶えるサン。

やがてふう、と一息をつくと投げ捨てたスマホを手に取った。


do!tterでミカガミプロジェクトのアカウントを開くと、自己紹介文に公式サイトのリンクが追加されていた。


考える間もなく反射的にリンクをタップする。

この時ばかりはほんの一瞬のローディング時間さえもどかしく思えた。


やがて白を基調としたシンプルなサイトが表示される。

画面中央には鋭角なフォントでミカガミプロジェクトとだけ。


サンはサイト上部に『member』の項目をめざとく見つけタップした。


先程動画で見ていた五人がバストアップでリストアップされている。

サンはまず『歌愛ヒメ』のアイコンを選択。

動画の終わりでしていたポーズと同様に笑顔でダブルピースをするヒメの全身画像が表示され、その下に短く紹介文が掲載されていた。


【 歌愛ヒメ Utame Hime 】

・元気いっぱいな11歳の女の子。夢はアイドル。無邪気に放たれる一言がたまに心をぐさりと貫くことも……。


「むむ。正統派と思いきや毒舌ロリですかー。さてお次は……」


【 風花氷霞 Kazehana Hyouka 】

・人の文化に興味を持った雪女。その凍てついた表情の奥には、誰にも負けない情熱が隠されているのだとか。


「これはルックス抜群ですねー。外見だけでも人気出そう」


次をタップ。


【 赫童ゼン Akadou Zen 】

・家族のために配信者を目指すことにした赤鬼。生まれ変わったその身を引っ提げ、vtuber業界に鉄斧の旋風を巻き起こす。


「おおう。家庭を持ち出してきますか。これはギャンブルですな。それにしても生まれ変わったとはなんぞや?」


次タップ。


【 水凪瀬龍未 Minase Tatsumi 】

・地元ではブイブイ言わせていたと語る蛇龍。少々オツムは足りないが、その有り余るガッツで見るもの全てを元気にするぞ!


「やはりおバカ系……天然か養殖かで成功するか変わりますよー……!」


次!


【 白雲ワタヌキ Sirakumo Watanuki 】

・現代日本のネット文化に毒された古狸。数百年の隠居生活を経た老体が目指すは、未来のトップぶいちゅうばあ!


「のじゃロリかあ!? 頼むぅ、のじゃのじゃ言ってくれえ〜! それにしても、ふんふん……狸ですかあ〜……」


ひと通りメンバー紹介を見終わったサンは、ワタヌキの画面を見つめたまま小さく呟く。


「これは狙い目かもしれませんね〜。きつねと言えばたぬきと連想されるくらいには関係が深いですしね〜。企業間の壁は厚いかもしれませんがコンタクトするのはありですよね……! 善は急げです……!」


スマホの画面を操作しサイトを閉じる。

そのまま電話帳から『マネージャー』と書かれた番号をタップして電話をかけた。


「あっ、もしもし! ミカガミプロジェクト見ましたよ〜! それでなんですけど……」

寒の戻りですねえ。本当に寒い。

話は進んで、ようやくデビューまで漕ぎつけそうです。

いつもブックマークや評価有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ