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化け狸とめたばぁす-2

その後はいる君体験会が催されたが、あれは物凄く良いものであった。


自分の住処にいるのとなんら遜色の無い見事な違和感のなさに加え、寝転がっておるだけで食べ物や飲み物などの嗜好品が望むだけ現れるのだ。


更にいんたーねっとの中に身を置いていると言うだけあって、動画視聴も自由自在。

今まではユーフォンが一つしか支給されていないため不可能だった複数同時視聴も可能になっておる。


望めば目の前にようちゅーぶの再生画面が現れて、指先でちょんと赤い再生ぼたんを押せばすぐに視聴可能という自堕落を極められる絶好の環境が整っておった。


あくまで体験ということで早々に打ち切られたのは残念じゃったなあ……。

ぬいちゃんの配信あーかいぶを一度に全部表示して同時視聴耐久でもしようかと思っとったのに……。


各々楽しんどったようで、善童は優しい青鬼の嫁さんに甲斐甲斐しく世話をされとった。

こちらに戻ってきた時に、


「いつもああならなあ……いや、別に今が好きじゃねえ訳じゃねえんだけどよお……だけど、もうちょっとなあ……」


などとぶつくさ言っておったところを見ると、あれはあ奴の幻想らしい。


雪女が一面の百合の花に囲まれて恍惚とした表情をしておったのは、ある意味恐怖映像じゃった。

意味わからんもん。


ひめはというと、意外なことにはしゃいだりせず何か神妙な面持ちであった。

そんなひめの世界は大きな湖を望む城郭。

ひめはその城の中で特に何をするでもなく、ぼんやりと天守閣から湖を眺めておった。


まあ、我もひめのことを良く知っているわけじゃない。

ひめは秘密主義的なとこがあるのじゃ。

我も含めこの五人の中で未だに素性がはっきりとしとらん。

別にそれで扱いを変えることは無いが、折角これから一緒にみかがみぷろじぇくととやらに取り組んでいくんじゃ。

少しくらいは自分のことを話してくれてもいいもんじゃないかのう。


などと思っておると。

装置から出てきたひめに、


「乙女には秘密がつきものだよね♪」


と開口一番釘を刺されてしまった。

我、そんなに顔に出とるのかあ?


ひと通り体験会が終了したところで深鏡の合図と共に、装置を隠すように部屋の壁が元に戻る。


さあ、と着席を促され素直に我らが従ったのを確認すると深鏡は満足そうにひとつ頷いた。


「我が深鏡コーポレートの誇る最新技術、心ゆくまで楽しんでいただけて幸いです。さて、技術披露が済んだところでお次は経営戦略。ひいては貴女方をどのように売り出していくか考えていくことにしましょう。まずは……」


深鏡は白板(ほわいとぼーどというらしい)にきゅきゅきゅと何がしか書き始める。

大きく『芸名』と記すと深鏡はこちらに向き直った。


「芸名を考えます!」


「げぇめえじゃあ?」


「ええ! 芸能活動を行う際にはそれに見合った名前が必要! 身バレの危険も防げますし、何より気分が高揚するでしょう!?」


「うーん! アイドルっぽくてヒメはさんせーだよー!」


おん? 吉原だのの遊女たちが使ってた源氏名みたいなものかの?

別に我としては綿狸の名前でそのままやってもええんじゃが。

そもそも綿狸ってのも通り名じゃし。


「我はこのままでええぞ」


「俺も」


「私、も」


「儂もなのだ! 誇りのある名を捨てるなどとんでもないことなのだ!」


我を含めたひめ以外の四人は然程乗り気では無いようじゃ。

そもそも妖怪なんてものは態々自身を偽るようなことは率先して行わんような奴らじゃしのお(狸や狐を除く)。


「異論は認めません! 雇用主に逆らわないことです!」


げっ……!

深鏡の野郎、また背後から黒い手をうにょうにょ生やしおって!

お前が一番暴力に訴えとるんじゃないかあ!?


「ま、嫌がろうとも既にこちらで決めているんですけどね!」


***


投稿型SNS『do!tter(ドゥイッター)』。

幅広い世代で利用される情報交流の場である。


そこに『ミカガミプロジェクト公式』と冠されたアカウントが存在した。


自己紹介スペースには、


『vtuberグループ・ミカガミプロジェクトの公式アカウントです。近日中に1期生がデビュー致します! 主催:深鏡コーポレート』


と、簡素に記載してあるだけ。


この世の中のvtuberブームに乗っかろうとした新興企業であろうかと人々は思っていたが、深鏡コーポレートと言う名に引っかかりを覚える者も少なからず存在した。


深鏡コーポレート。

それは近年立ち上げられたベンチャー企業でありながら、vtuber業界において偉大な功績を上げている企業である。

これまでとは一線を画す滑らかな3Dモデルの開発、それを限りなくタイムラグを発生させずにリアルタイム投影する技術。

そしてその技術をオープンソースとして無償で提供している。

大手から中小に至るまでvtuber業界でその恩恵を受けていないものはいないだろう。

vtuberの位階をひとつ上げたと言っても過言では無い企業なのだ。


技術屋として確固とした立場を築き上げてきた深鏡コーポレートがついに満を持して、自社発のvtuberを輩出する。


数ヶ月前に突如としてdo!itter上に現れたそのアカウントに業界関係者並びにvtuberオタクたちは揺れた。

ただの一つの投稿も無いアカウントにいきなり数万のフォロワーがつくくらいには。


そして本日。

その沈黙が破られた。


とある昼下がり。

ぽん、という軽い音と共にミカガミプロジェクト初の投稿がされた。

本文はなく、埋め込み型の動画がひとつ。


投稿に気づいたフォロワー達が動画に殺到する。


昼下がりまで呑気に惰眠を貪っていた白髪の少女もフォロワーの1人だった。

巨大な抱き枕に顔を埋めて、何がしかうにゃうにゃと寝言を呟いている至福の時間に、枕元のスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。


「……あ”い“。サンですけどぉ……?」


「あ、サン!! ねえミカガミプロジェクトの動画見た!? ついにデビューだって!!」


「んあ”ぁ……? みかがみぃ…………? でびゅー? みかがみぃ?」


「そーだよ! do!tterで話題になってんだから!」


「……えっ、デビュー? ミカガミから!?」


寝起きの頭が冴えていくに従って、ことの次第を理解し始めた少女は未だに何か喋っている通話を一方的に切断し、すぐさまdo!tterを開いた。

ナイトキャップを脱ぐのも忘れ『ミカガミプロジェクト』のアカウント画面まで進む。

そこにはひとつの動画。


「ん〜〜〜〜〜〜っ! ついに! ついにかぁ〜〜〜っ!」


もはや眠気などは微塵たりとも残っていない。

寝起きにあるまじき血圧の上昇を抑えるために深呼吸をひとつして、動画の再生ボタンをタップする。


軽快な音楽が鳴り始めた。

誤字報告ありがとうございます。

この機能すごく良いですね。

自分で気付ければ良いのですが如何せん不注意なところがありまして面目次第もございません。

評価やブックマークもちょこちょこ増えてきて嬉しい限りです。

これからも頑張りますゆえ、引き続きご覧になっていって下さいませ。

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