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化け狸とめたばぁす-1

めたばぁす、とはなんじゃろな。

って事で深鏡に質問をしたところ、ようはいんたーねっとの中の仮想空間とどのつまりは結界のようなものだとのこと。


我の住処も人には簡単に立ち入らせんよう結界を張っておるから、どう言うものなのかは分かった。

しかし不可解なのはネットの中だということじゃ。


「ご心配にはァ及びませェん!! それを解決するのが『ネット世界にはいる君』なのです!」


「その奇怪な名称は一旦置いとくが……もしかして比喩じゃない、のじゃあ?」


「ええ、仰る通り! 皆さんの身体を妖力に分解し、それをネット上でビット単位で再構成致します! 妖怪としての能力は制限されますが、身体の動きなどは違和感がないレベルで再現可能です! 競合他社の3D技術など相手にならないほどの滑らかな動きを実現した夢の装置なのですねェッ!!」


分解する、とか怖い言葉が聞こえた気がするのじゃが。

我の理解が間違ってなければ、身体をばらばらにしていんたーねっとの中でもっかい組み立て直すってことじゃろ?

それって相当痛いのじゃなかろうか。

いや、確かに真っ二つにされても我は再生できるけども、痛いのが嫌なことには変わりないんじゃがあ?


「まあ、まずはお試しあれ! では、先程からウキウキしている龍未さん。入ってみましょうか!」


「お! 儂が一番でいいのか!? いゃ〜見る目があるのだなぁ〜深鏡どのはぁ〜」


あほが釣れおった。


深鏡に手招きされると龍未とかいう沼御前は喜び勇んで装置の元に駆けていく。

深鏡に何か二三言説明を受けてから、装置の扉を開けて中に入り込んだ。


途端、装置が蠕動し血のような赤い煙を噴き上げる。


「うおぉう……あれ大丈夫なのかの……?」


「ねー。もしかして中で粉々にされて血煙が噴き出してきたんじゃないの?」


恐ろしいことを言うなひめぇ!

次の犠牲者は我らかもしれんのじゃぞお!


雪女も鬼も僅かに震えておる。

そりゃあそうじゃあ。

いきなりの生命の危機に直面したら誰でもそうなる。


「さあ、皆さん。こちらの画面をご覧ください!」


深鏡が指を鳴らすと横長の大きな四角い鏡が現れた。


「こちらは皆さんにお渡ししているユーフォンの画面を大きくしたもの。見ていてください、直に出てきますよ!」


鏡には何もない白い部屋が映し出されとったが、次第に部屋の中央にざざざと朧気な影が現れ始める。


影はゆっくり揺らめきながら龍未の姿を形取った。


『おー! なんだーここはー! 何もないのだー!』


わはは、と笑いながら走り回る阿呆面。

紛れもなく本物のあほがそこにはいた。


「成功です! 龍未さんこちらの声は聞こえますか!?」


『んぉ!? なんか声が聞こえるのだ! どこに隠れてるのだ!』


「現実世界から語りかけています! 龍未さん! 貴女の好きな場所は何処ですか!?」


『そんなの住処の湖に決まってるのだ! ぬおぉっ!?』


龍未が答えると白い部屋がぶれて、木々に囲われた湖畔へと変化しおった。


『こ、ここは……かつての、人に開発される前の……』


龍未は言葉を詰まらせ、わなわなと震えておる。

やがて堰を切ったように走り出して湖に飛び込んだ。

ばちゃばちゃと楽しそうによう泳いどるわ。

……まさか溺れちゃおらんよな?


「……といった風にあちらの世界は自由です。全ては想像力次第なのです。更に飲み食いせずとも空腹も感じませんし、動き回って身体に疲れが溜まることもありません! 勿論痛みだって無くすことができます!好きなことを好きなだけ! 思う存分に楽しんで良いのです! それが妖式メタバースッ!!」


『ぐぁぁっ……! 足が、足がつったのだぁあっ……!! ゴボゴボ』


溺れとる! 溺れとる! やっぱり溺れとる!


「心配ご無用! 現実世界とは違い、あちらでは死んだと同時に身体の再構築が行われますから! 多少無茶なことをしてもすぐに生き返るので安心ですねッ!」


爽やかな笑顔でど畜生な発言をしやがる。


なにかい?

あの装置に入ったら死を恐れる必要はなくなるってことかい?

命の重さが軽くなりそうな環境じゃのお……。


「あー……なんかそれって生命への冒涜って言うのか? あんまり気持ちのいいもんじゃねえよな」


善童とかいう鬼が独りごちる。


我も同感じゃが鬼よ。

我ら(お前さんの嫁)はなあ、もはやネットなしでは生きていけないじゃろお?

嫌なことでも涙を呑んで堪えなけりゃあならんのじゃよ。


「現実世界同様に痛みや苦しみを感じるリアリスティックモードも搭載してますが?」


「そういう問題じゃ……いや、文句言ってもしょうがねえか」


善童は諦めたようじゃの。

よいよい、世の中諦めも肝心じゃあ。

我はもう状況に流されていくことを決めたからのう。

貴様も同じ流れに乗るのじゃ。

なあに、旅は道連れ。数が多い方が楽しいじゃろうが。


「それにしてもあ奴は何をやっとるんじゃあ……?」


鏡の画面の中では影がぶれて湖畔に再び龍未の姿が現れた。

そしてまた湖に向かって元気に駆け出していく。

また溺れる。

湖畔で復活。

走っていってまた溺れる。

湖畔で復活。

走っていってまた溺れる……。


誰か止めたりゃあ。

あいつには学習能力ってもんが存在しないんか?


「さあ、お試しはこの辺にしておきましょう!」


深鏡が再び指を弾くと装置の蠕動が次第に治まり、完全に動きを停止するとぷひゅうと青い煙を吐き出した。

がちゃばーん!と装置の扉が開き、龍未が笑いながら胸を張って現れる。


「あははははは! 楽しかったのだ!」


「この通り。現実世界に戻っても何の障害も残りません。安全安心の設計です!」


なおも笑い続けている龍未を見とると、精神に異常をきたしているようにしか見えないんじゃがあ?


「あたおかじゃん。怖いねえワタちゃん?」


「何を言っとるかわからんが、怖いことには同意じゃあ」


「怖いからぎゅっと抱きしめてー」


「な、なんじゃあ。急にじゃれついてくるんじゃないわ」


全身で抱きついてくるひめをいなそうとするが、然程身体の大きさが変わらんこの姿ではそれも厳しい。

ひめの頭をぐぐぐと抑えつけるが、こやつなんてぱわーじゃあ……! びくともせん……!


ハッ……!?

この冷気は……!?


「深鏡ィィィ! 今すぐこの雪女を装置に放り込めィッ!!」


背後に迫るやたら熱量のある冷気!

我は瞬時にその冷気の元である雪女を首元の襟巻きを伸ばして拘束し、装置に向かって投げ飛ばした。


「委細承知です! 一人ずつ体験しましょうか!」


深鏡は準備良く装置の側に移動して扉を開けた。

狙い通りに雪女は装置に放り込まれ、装置の扉が閉められる。


装置が蠕動し赤い煙を吐き出した。

我もふうと安堵の一息をついた。


「いきなりどーしたのワタちゃん」


「分からん……分からんが、なにかそのままにしておくと恐ろしいことが起こるような気がしたのじゃあ……」


ひめが我に抱きつきながら不思議そうに見上げておる。

あの冷気を感じると何故か頭が痛むからのう。


「ふぅん……なんでだろね?」


ひめは少し顔を赤らめながらばつが悪そうにしらばっくれるのじゃった。

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