コミック三巻発売記念SS〈とある冒険者ギルド職員の独白〉
俺は、とある町で冒険者ギルドの職員をしている男だ。
ちょっともじゃついた髪がトレードマークだと、自分では思っている。
うちのギルドには、ひっきりなしに冒険者がやってくる。
なぜなら、うちのギルドではCランクへの昇格試験を行っているからだ。
Cランクへの昇格試験は、ダンジョンの踏破だ。
難しいのかどうかは、冒険者ではない俺には判断がつかない。
だけど、試験では全員が合格するなんてあまりないし、それどころか生還出来ない冒険者が出るパターンもけっこうある。
それを間近で見ているから、うかつに挑んではいけないと俺は内心で考えている。
だけど……。
冒険者っていうのはいろんなタイプがいる。
もっとぶっちゃけて言うなら、ならず者や荒くれ者が非常に多い。
『安全かつ地道に』なんて考える奴は、あんまりいないんだよな。
この町を訪れる冒険者ってのはCランク試験を受ける自信があり、しかも試験前でピリピリしているって奴ばかりなんだ。
なので、人の往来は多いし繁盛している町なんだが、住民は冒険者にあまり関わらないようにしている。
そして騒動が起きたらすみやかにギルドに伝えられる。
ほとんど毎日のように小さな小競り合いが起きていて、今日もまた「町中で魔術が放たれた」という通報を受けて飛んでいった。
『魔術を放った』までいったってのは、そういない。
町中でのそれは、ハッキリ言えば処刑モノだからだ。
もちろん魔物が出たり賊が人を殺そうとしていたり等の犯罪があったら別だが、そんな特例はめったにない。
その場合、通報内容が変わるだろうな。魔物が出たか賊が出たってな。
現場に駆けつけ、人垣の中央に進んだ。
そこには三人の冒険者らしき子たちがいた。
座り込んでいる少女にそばにいる長身の少女が何か話しかけていて、もう一人が相対しているように立っていて何か言い争いをしているようだ。
立っている子に事情を聞いたら、要領を得ない。
……というか、魔物がいるんですけど?
魔物に向かって魔術を放ったのか? なら、しかたがないと思うが……。
魔物のそばに立っている元気な子に尋ねたら、ゴーレムだと言い張っている。
いやいや、こんなゴーレムいないだろ!
作ったとか、学習とか言っていてサッパリわからん。
しかも、魔物の周囲には子どもたちが侍っている……って、俺の息子もいるんですけど!?
息子はキョトンとした顔で、魔物に触れている。
大丈夫なのか!?
どうしたものかと考えていたら、すごい勢いで冒険者が現れた。
そしてカードを俺の前に突きつけ……え!? 迅雷白牙様!? マジで!?
迅雷白牙様が、「ゴーレムを作った」と言い張っている子の保護者だったのと、周囲の住民も「座り込んでいる少女が魔術を放った」と証言したので、少女を連行した。
連行された少女は、魔物だと思って子どもたちを助けようと魔術を放ったと言う。
住民の話と微妙に食い違うが、アレをゴーレムって言われてもなぁ……とは俺も思ったし勘違いしてもしかたがないだろう。
今回のみだと言い、説教して終わらせることにした。
ぶっちゃけ、被害がなかったからだ。被害があったらそんなんじゃ済まない。
「やれやれ。今日も大変だったな……」
あの魔術の騒ぎの他にも、ガラの悪い冒険者に飲み屋で絡まれたとかで通報を受けたし……。
「父ちゃんおかえりー」
珍しく息子が出迎えてくれた。
「ただいま。……今日は大丈夫だったのか?」
息子に尋ねたら、またキョトンとされた。
「何が? ……あ! 今日はすごかったんだぞ! 聞いてくれよ、俺、あのゴーレムに言葉を教えてたんだ!」
息子がキラキラした目で語ってくる。
……アレってホントにゴーレムだったのか……。
(終わり)