第2話
第2話
広間に残された私たちは王と話し合っていた。
「ねぇ、王様? あんな人数の冒険者たちにいっても良かったの? それこそ西方の天才か南国の救世主に頼んだ方が良かったんじゃ無い? どっちも金剛級の冒険者で、私たちみたいに国が抱えてるんだし」
玉座の前に立ち、王と話し合う。王は自分のひげを触りながらため息をついた。
「話を通そうとしたんだ。だが取り合ってくれなくてな。仕方なくこの大陸の冒険者達だけにしたのだ。元々交流は薄かった。こうなるのも目に見えていた」
諦めたように言う王に対し呆れてしまう。
「西のアカギはともかく南のレンカ公国なら話くらいは聞いてくれるはずじゃないのか?俺の名前を出せば通ると思うが」
公国の王と旧知の仲らしいキールが疑問を投げかける。
「本人じゃないと信用できないし、復興の途中だから暇はないと断られた。」
王はうなだれる。
「復興途中なら仕方ないわね。できる限りの支援をして早く話を聞いてもらわないと。」
「そう、そこでだ。金の部分は我々がどうにかするので、お前達にはアカギに行ってもらいたい。」
耳を疑う言葉が聞こえた気がした。アカギに行く? 私たちが?
「アカギでは4ヶ月後に建国50周年記念魔導祭典が行われるらしい。国内外から多くの冒険者の参加が認められているようだから、それに参加し王に話をつけてきてほしい。」
うわ。めんどうくさいやつだ。私が人族に攻撃できないのを忘れているのか?
「だが、一つ困ったことがあってな」
「困ったこと? 何かしら?」
「実はな、本来国交を結ぶはずの国とは転移陣の交換を行うのだが、前回行った時に魔力が十分に補充されず、置いてこれなかったのだ」
は?転移陣を置いていない?
「それはつまり私たちに陸路と海路でいけってこと⁉︎」
「非常に申し訳ないがそういうことになる」
うわ……最悪だ、馬車嫌いなのに。
「なに、長くても2ヶ月ほどの道のりだ。君の生きてきた時間と比べたら一瞬のようなものだろう。それに港にはちゃんと転移陣がある、この大陸で馬車に乗る必要はない」
そこじゃないんだよ。このやろう。
「そうは言ってもこの中央大陸から西北大陸までは魔海洋を通らなくちゃいけないのだけど、今のこの国にそれをできる船と船員がいるの?」
先の『人界防衛戦』の時に人間界では多くの有能な人材が亡くなった。それには冒険者だけでなく技術者も含まれている。一番被害の大きかった中央大陸では総人口の約2割、破壊された国は2つ、町は数十にも及んでいた。
「それについては心配ない。船は魔導船を使わせるし、ドワーフの船員にエルフの航海士もつけよう。どちらもこの国有数の技術者だ。加えてそなたたちの好きな人員を連れて行くといい」
なるほど。それは妥当かな。
「そうね。じゃあ、私たち神の護衛のメンバーとあの双子を連れて行きたいのだけれど、それは大丈夫かしら?」
「ちょっとアイラ! 私たちはともかく、あの子たちを連れて行くのは難しいんじゃない?」
隣にいたユイが声を張った。
「姉さん。大丈夫よ。あの子たちは強いし、そろそろ力の使い方を知らなくちゃいけない。ちょうどいい機会だと思う」
「そうかもしれないけど……」
そういうとユイは黙ってしまった。あの子たちのためだ仕方ない。
「そうだな。人選は先ほどお前の好きにさせると言ったから連れて行くといい」
王からの承諾も得たことだし早速行くか。っとその前に……。
「王様。人選ついでにアレ返してもらえない? 私の神創器」
それ言った途端国王の顔色が変わった。
「なぜだ? あれはこの国の象徴に等しい。それに、そなたならなくてもほとんどの魔物は圧倒できるだろう? どうしてアレに固執する」
怒気を露わにして睨みつけてくる。何だ、そんな顔もできるのか。
「いえ、やっぱりいいわ。無くても私が負けることはないもの。じゃあ出発は3日後にするけどいいかしら?」
「任せよう」
国王はうなずき、いつもの表情を取り戻した。
「みんな、まずは部屋にいきましょう」
声をかけ3人を引っ張って行く。まずは話し合いだ。神創器がないとなると話は変わってくる。
キールの手を引き広間から出て行った。
客間――
私は絢爛な装飾の施されたソファーに腰掛け、西方大陸からの土産品のお茶類を飲んでいた。
「おい、アイラ。神創器なくてもいいのかよ。アレがなくちゃ本気出せねぇんだろ?」
神創器。この世に10本しかない神の創りし人智を超えた武器。それが私の本当の武器。『人界防衛戦』の後に救
世の象徴として城の地下神殿に祀られている。
「まぁ大丈夫じゃない? 魔法だけでも十分戦えるわけだし、それにみんながいるもの。まず危険なことはないわ」
ゆったりと座りながら答える。みんながいる。それだけで危険などあるわけがない。みんな金剛級の冒険者だから。
「でも、やっぱりあの子たちを連れて行くのは気が引けるんだけど、考え直さない? カイトも何か言ってあげて」
諦めてないのか。姉さんは頑固なところあるからなぁ。
「俺はアイラの決定に従う。そこに変わりはない」
「もう……」
それを聞いてユイは嘆息する。
「姉さんには悪いけど、あの子たちの成長のためにも必要だし、どのくらいの危険性があるのかも知っておきたい。だから、今回は私に免じて……ね?」
「全く、わかったわ。何があっても私が治してあげるよ」
ユイの手を握り諭す。ユイは深いため息を吐きながらしょうがないというように承諾した。
「じゃあ、これからあの子たちのもとに行こう! 善は急げってね」
「今からか? もう夕方になるぞ。明日のほうがいいんじゃないか?」
キールが静止しようとする。
「だからこそよ。ご飯はみんなで食べたほうが美味しいもの!」
皆に支度させるように促し、自分も荷物をまとめる。あの子たちは『人界防衛戦』には参加していないから会うのは2ヶ月ぶりくらいか。元気にしてるかな。
数分後準備が終わり部屋を出た。あの子たちがいるのは王室お抱えの教会の修道院だ。魔力制御が拙いその子たちにはうってつけの場所らしい。
「じゃあ行きましょう」
王宮から出ると門番が敬礼をしてきた。この国の兵士は敬礼が好きだな。
「教会はここから15分くらいだな。途中で何か買って行くか?」
キールが提案する。こいつにしては悪くない提案だ。
「そうね。教会じゃ食べられないものでも買っていきましょう」
少し歩くと繁華街に出た。丁度いい。ここで買っていこうか。
キールたちを待たせ、串焼きの売っている出店の店主に話しかける。
「すみません。カリューの串を6つください。空間収納あるからそのままで」
「はいよ! 銅貨12枚だ……っと嬢ちゃん可愛いからおまけで10枚にしとくよ!」
気前の良い店主だ。感謝を込めて笑顔を作る。
「ありがとう」
出店を後にしキールたちのもとに戻る。
「何買ったんだ?」
キールが聞いてくる。
「串焼き。空間収納に入れたわ。みんなの分も買ってある」
答えてから歩き出す。この1ヶ月間何があったかを道中話し合っていると、思いの外早く教会についた。
「いつ見ても目がチカチカする建物ね。魔力結晶でできた建物なんてこれだけなんじゃないかしら」
魔力結晶は、特殊な鉱石に高濃度の魔力を集中させることで作り出せるもので、圧倒的な硬度と魔力耐性を持つ。それと自発光することもできる。
「今更だけど、突然押しかける形だから追い返されるかもしれねぇぞ?」
「そこは大丈夫よ。この教会に貸があるから」
自慢げに言って門をノックする。少し経って幼い少女のものと思われる声が聞こえた。そして門が開くと、そこには十代前半と思われる少女がいた。
「こんばんは。私はアイラって言うんだけど、ここの修道長呼んでくれる?」
少女はうなずくと奥の方へ走っていった。程なくして修道長と思われる女性が出てきた。
「これはこれは、アイラ様。よくぞおいでくれました。本日はどのような御用で?」
「久しぶりね、ヴァイネ。今日はここに預けたあの子たちに用があってきたの。あわせてもらえるかしら?」
そう言うとヴァイネはすぐに私たちを迎え入れてくれた。
「あの子たちはこの部屋です。きっと喜ばれるでしょう」
ヴァイネはそう言うと去っていった。
「じゃあ、みんな入るわよ」
合図をして扉を開ける。するとそこには10歳程度の金髪の少年少女二人が座って遊んでいた。