夢の中
「こいつが今回の適応者か。なかなか面白そうなやつじゃねぇか」
「ええ、そうでしょう?私のお気に入りなの。成長が楽しみだわ」
「ほう。お前が気に入るたぁ、益々期待が持てるじゃねぇか」
なんだ?声が聞こえる……でも大輔の声じゃないし、一体誰だろう。てか、俺何してたっけ?
「この子が3人目だけれど、見て、面白いものを持っているのよ」
「ほう!これは確かに面白い」
艶めかしい声をした女性が声を弾ませてそう言うと、野太い声の男性がくつくつと愉快そうに笑う。
適応者?3人目?いったい何の話をしてる?くそ、辺りが真っ白で何も見えない
自分の体に力を入れてみてもまるで石にされたかのように動かない。見えている世界は白一色で他には何もなさそうに思える。
だいたい、部屋なのかはわからないが、こんなに白い場所なんて今までで一度も見たことがない……ん?白い部屋?
思い出した!確か俺は大輔とカラオケに来てて、それで白い光に包まれたんだった。
「だがこんなにも都合のいいことがあるのか?裏であいつがなにかしたんじゃないのか?」
「その可能性はないと思うわ。あの人は何か作るといったことをしないもの」
「それもそうか。なんにせよ、これで希望が出てきたな」
野太い声の男性は、行き詰った研究に光が見えたときのように、深く息を吐いた。
「………も………もなんの話してるのー?」
「ん?………か。たった今3人目の転移が成功してな」
「ほんとー!?……もみたーい!」
子供っぽい声の女の子がバタバタと走る音が聞こえてくる。
また新しい声がしたな。これで3人目か?いったい何人いるんだよ。
こっちのことが見えてるんなら少しは話しかけたり、この状況を説明してくれてもいいもんだけど
何も見えない状況に言い様のない不安が押し寄せてくるも一先ずこちらを害する気はなさそうなので、ほっと胸をなで下ろした。
「へぇー、この子かー。あれ?でも転移した子は二人いるみたいだけどー?」
「ああ。最初は1人だけ転移させようと思ったんだがな。もう1人の方も少しだけ適応力が見られたんで、もしかしたら3人目の方から力を分けれんじゃねぇかと思って一緒に連れてきた」
「適応者が2人もー?すごいねぇー」
野太い声の男性の言葉に子供っぽい声の女の子が何やらはしゃいでいるらしい様子だが、俺は別のところが引っかかっていた。
2人?ってことは大輔もここにいるのか?適応者が何に適応してるのかは分からないけど、もしかしたら3人目が大輔の方でもう一人が俺の可能性もあるのか。ったく、ほんとに説明がほしいな。
あまりの状況の不明さに軽く苛立っていると、先程の艶めかしい声をした女性が口を開く。
「2人とも。話はそれくらいにしてそろそろ目を覚まさせてあげてくれないかしら」
「そうだな。じゃあ一先ず俺様がメインで行くぞ」
「少し残念ではあるけれど仕方ないわね。それで構わないわ」
「……もいいよー!でも、後で変わってねー」
子供っぽい女の子の声が聞こえたのとほぼ同時に、白一色だった視界が徐々に暗くなっていく。やがて真っ黒に染まると、もはや目を開けているのかも分からなかった。
目を覚まさせるってことはここはやっぱり夢なのか?あいつらの話から察するにこれから目を覚ますみたいだけど。全部俺の妄想で起きたら自宅のベットでしたーなんてオチだったってことはないかなぁ。ないよなぁ…さっきまでカラオケしてたし。
希望的観測をしてみるも、さすがにこれが全て妄想なわけがないとすぐに自分の中で首を振る。
起きたら知ってる場所だといいんだけど…いや、でも普通に何事もなくカラオケボックスで起きる可能性もあるよな。うん、それだ。よく考えたらカラオケボックスで寝たんだとしたらそこで起きるのは当たり前じゃないか。なんだ、全然不安になることないな。
心の中でうんうんと1人で納得していると、凄まじい眠気が襲ってくる。もう意識を保てそうにない。俺は深い眠りにつくようにそのまま意識を手放した。
「強くなれよ、玲也」
最後にそう、聞こえた気がした。