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神世界に生きる僕らが神を倒すまで  作者: ネギトロ
第一章 異世界転移編
14/29

筆記試験

 △ 西村 玲也


 この世界に来てから3年の時を経た。


 強化プログラムも終わり、日本にいた時と比べればありえないほどに体が軽い。


 今日はその集大成、つまり王立クレアシオン学園の入学試験の日だ。今は自室でリュックに必要なものを詰めている。


 クレアシオン学園は実技が最難関と言われるほどだ。だがその中の施設の評判は他の高校と比べても抜きん出ていて、毎年優秀な生徒を排出している。

 そのため多くの生徒が毎年受験するので倍率は高いが、魔法適性や固有スキルを持つ2人なら大丈夫だろう、というのがオリバーさんの見解だ。


 そういうわけで俺はそこまで心配や緊張はしていない。何もオリバーさんに言われたからだけではない。

 自分でも大丈夫だと思えるほどには成長していると思っている。なんて言ったって試験勉強3年間だ。もうやめたいと何度思ったことか。

 それでも投げ出さなかったのは大輔がいたことが大きい。あいつが頑張ってるのを見ると負けたくないし、俺も頑張ろうって思えた。1人なら絶対に無理だったな。


 俺は当時のことを思い出して、少しだけしみじみとする。

 するとガチャというドアノブが回る音がした。


「れいやぁー、準備終わったかー?」


 言い終わるより先に大輔が部屋に入ってくる。今まで頑張ってきた、そして今日共に闘う仲間であり、ライバルだ。


「入る時はノックしてくれよ」

「いいじゃねぇか、どうせ鍵かかってねぇんだから」

「いや、そう言われるとそうなんだけど」


 俺も言ってみたかっただけなところはある。この家の人はみんなちゃんと入る時はノックをするのだ。

 ベタな展開がこいつとしか出来ないのがなんとも悲しい現実だ。


「もうそろ出るぞ」

「おっけー、俺も準備出来た」


 オリバーさんに買って貰ったリュックを背負い、俺たちは部屋を出る。

 玄関に行くと皆が見送るために集まってくれていた。


「2人とも忘れ物はない?お弁当はちゃんと持ったかしら?えーと、あとハンカチも忘れずにね、それと」

「だ、大丈夫です。ちゃんと持ちましたから」

「そうだよエミリー、そんなに心配しなくても。2人はしっかりしているのだから」

「で、でもぉ~、もしもってことも」

「大丈夫っすよ、エミリーさん!俺たちならちゃんとやってきますって!」


 エミリーさんの心配を吹き飛ばすように大輔は目の前で拳を握った。


「ほら、私たちが心配させていては元も子もない。落ち着いて」

「そ、そうね。2人とも、緊張するとは思うけど、悔いのないようにね」

「はい!ありがとうございます。精一杯やってきます!」


 俺たちより緊張しているエミリーさんを見ていたら、残っていた緊張もどこかに飛んで行ってしまった。

 自分より焦っている人を見ると逆に冷静になれるあれだな。


 と、そこへメイドの3人も声をかけてくれる。


「レイヤ様、ダイスケ様、自分の力を信じて頑張ってくださいね」

「はい!フランさんもお弁当ありがとうございます!」

「うふふ、2人の大好きなものばかり入っていますよ」

「マジすか!?よっしゃああ!!」


 こいつ年齢と一緒に脳まで退化してないよな。


「あははっ!ダイスケったらはしゃぎ過ぎですよー」

「だってフランさんのハンバーグっすよ!?あー早く昼休みにならねぇかなー」

「弁当のことで頭いっぱいになって、覚えたこと忘れないでくださいよー」


 くすくすとアメリアさんは楽しそうに笑う。


「……とても試験前とは思えませんけど、これくらいが大輔様にはちょうど良いのかも知れませんね」

「あはは、騒がしくてすみません。アメリアさんもクロエさんも稽古ありがとうございました。一から教えるのは大変だったと思いますけど、本当に感謝しています」

「もー、かしこまるのはやめてくださいよー。私たちがしたくてしたことなんですからー」

「……私も教えるのはとても楽しかったです。2人は確実に強くなっていますから、きっと受かります」

「ちゃんと伝えておかないとって思ったんですよ」


 ウィストン夫妻はもちろんだが、メイドの3人がいなければ俺たちはここまで成長できなかったと確かに言える。それほどまでにこの3年間で彼女達の存在は大きかった。


「いつか2人にも勝って見せます!」

「はいはい、まずは試験に受かってからですよー」


 そんなことよりと軽く流されてしまった。

 いつか2人を越えられる、そんな日が来るのかな。


「それじゃあ、行ってきます!」


 皆に温かく見送られて俺たちは玄関を出た。











 クレアシオン学園は町の中心部にある。初めてこの町に来た時に見た、高い建物がある当たりだ。

 歩くと何時間もかかってしまうため、こういう時のために日本で言うところの跨座型のモノレールのような乗り物、ルースファーにあちらこちらで乗れるようになっている。

 ちなみにこの乗り物は魔法で動いており、運転手がいないオート操縦らしい。


 この世界はたまに電気の代わりを魔法で補っていることがある。今乗っているものもそうだ。こちらはガイドがおり、魔法によって上や下の階に行くことが出来る。手動のエレベーターみたいなものだ。これに乗ってルースファーの乗り場へと向かう。ちなみに名前はボービンだ。ちょっとかわいくなったな。


 そうこうしているうちに俺たちを乗せたボービンは、ルースファー乗り場に到着した。

 ウィストン家の屋敷は中心部から離れたところにあるため、ここは始発しかない。止まっているルースファーに乗るとそう時間もかからず出発した。


「すげぇ、結構たけぇぞ」

「ほんとだ…モノレールの2倍くらいありそう」

「俺はあんま乗んねぇからわかんねぇや」

「真面目に考えなくていいよ、適当だから」


 軽く揺られながらしばらく乗っていると乗客も増えて、中は満員近くになってくる。

 この中にも今日クレアシオン学園を受験するライバルがいるんだろう。参考書っぽいものを読んでる人もチラホラ見える。


 試験は1日かけて行われるが、今日以外にもあと2日間行われており、受験生はその3日間のうちどれか一日だけ決めて受けることが出来る。今日いる受験生だけがライバルではないというわけだ。

 3日間全部合わせて試験の合否は決まるので、どの日でも変わらないようだが、それだけ受ける人数が多いと少し不安になってくる。


 やがて最寄りまで到着すると雪崩のように人が出ていく。俺たちも流れに身を任せるままに、ルースファーから降りた。


「この町、こんなに人いたのかってくらい乗ってたな」

「まあ車両も少ないし、受験だからね。今日が特別だとは思うけど」

「これから毎日これだと思うとやる気が失せた」

「受かったら寮生活でしょ。さっ、早く行こう、間に合わなくなっちゃう」


 乗り場からは徒歩で向かう。この当たりは近代化都市と言える街並みに変わっている。

 10分ほど歩くと学園が見えてきた。その見た目は近代化都市に似合ったデザインになっていて、色合いはシルバーだ。


「ファンタジーの世界って感じだな」

「日本にあったら間違いなく浮くね。えっと、受付は……あった、あれだな」


 正門を入ってすぐ左に並んでいる列を発見した。おそらくあれが受験者の列だろう。

 受験票など使う書類を出していく。


「すいません、今日受験する西村です」

「はい、確認致します。西村様ですね、お待ちしておりました。最初の筆記試験は3階のB教室になります」

「分かりました」


 俺は大輔を待って校舎の中に入っていく。

 窓の外から見えた光景は、本当に学校か?というくらいの施設が建ち並んでいた。


「すっげぇな、マジで。建てんのにいくらすんだよ」

「それな、随分きれいだし最近建てたんかな」


 建物はメッキが剥がれていたり錆びることなく、太陽の光を反射させて輝いている。


「受かったらあそこに入れると思うとなんかわくわくするな」

「確かにね、あっそういえば、大輔の部屋はどこ?」

「ん?俺は3階のB教室だぞ」

「なんだ同じか」

「なんだとはなんだよ!一緒の方が気が楽なんだからいいじゃねぇか」

「だって……カンニングする気だろ?」

「するわけねぇだろ!」

「あははは、ごめんって」


 話してる間に3階に着く。B教室は廊下の奥から2番目のようだ。


「ふぅ、よし入るか」

「おう」


 俺は深呼吸してからドアを開ける。大きい音もたたず、スムーズに動いた。


 中は既に多くの生徒が机に座り参考書などを読んでいたり、問題を解いていた。

 静寂の中で走らせるペンの音が妙に響いて、それが一層ピリピリと緊張感を漂わせている。


「明るすぎじゃね?」

「こ、声が大きいって」


 大輔の声に反応した近くの数人に、すみませんと頭を下げつつ、自分達の番号の席に向かう。

 だが、大輔の言いたくなる気持ちも分かる。受験生の髪色があまりにもカラフルなのだ。赤に青、金髪に灰色、ピンクまでいる。黒や茶色の受験生と半々ってところだ。


 なるほど、これがこの世界の普通なのか。こんなところで新しい発見があるとは思わなかったな。


 俺は指定の席に座るとカバンから参考書を取り出す。表紙がボロボロになり、紙が破れかけているところもある。こいつを使うのも最後になると思うと、少しだけ物悲しい気分になった。


 それから30分ほどしてから、3人のスーツを着た男の人が入ってきた。


「これから問題用紙と回答用紙を配ります。机の上には必要なものだけ残し、それ以外のものはカバンの中にしまってください」


 1人が教壇に立ち、2人が試験用紙を配る。これは異世界でも同じようだ。


「途中退出は基本は認められませんが、体調が悪くなったり、問題用紙等に不備があった場合は静かに挙手してください。物を落とした場合も同様です」


 この感じ……なんだか懐かしいな。


「それでは、始めてください」


 試験官の合図とともに、カツカツとシャーペンの音がまばらに響く。


 俺たちの第一関門が、今始まった。

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