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9話「低身長乳デカ少女と薬草採集」

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「誰だ、どこにいる?」



 俺は思わずそう口に出してしまった。というのも、俺に声を掛けてきた声の主の姿を視認できなかったからだ。現在、俺は出来上がった料理を給仕係の人に受け取るカウンターのようなところから声の主を見つけるべく視線を巡らせていた。だが、今のところ発見には至っていない。



「どこを探してるの。ここだよ、ここ」


「うん?」



 声のした方に視線を向けると、そこには少女がいた。身長はかなり低く、そのために厨房側からは姿が見えなかったようだ。桃色の綺麗な髪と、黄色い瞳を持ち顔立ちもプレイヤーだからかかなり整っている。そして、なによりも特徴的といってもいいのは、彼女の身長に対して明らかに不釣り合いな胸部だ。まるで、彼女の体の肉がそこに集約しているかのような大きさに、思わず視線がそこに向かってしまう。



「……デカいな、何カップだ?」


「Fだよ」


「って聞こえてたのか、というかそこ答えんでよろしい」



 不意に前かがみになった彼女の胸がぷるんと揺れ動く。そんな目のやり場に困る状態と彼女のあっけらかんとした態度に、敬語も忘れて返答してしまったことに少し反省をしつつも、彼女の答えに思わず考えを巡らせる。百五十センチ前半くらいの小柄な体型の少女の胸にしては、かなりの大きさなのだ。だが、すぐにこれがゲームの世界であるということに思い至る。

 この【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】は、現実世界の容姿でもプレイ可能だが、使用するアバターをカスタマイズすることが可能だ。流石に性別自体を変更することはできないが、例えば背を高くしたり体型を変えるということは出来てしまう。



「ちょっと、どこ見てんのエッチ!」


「そんな凶悪なもの(デカ乳)を持ってるあなたの方に非があると思いますが?」


「うっ……」



 どうやら思い当たる節があるのだろう。俺の反論を聞いた彼女が言葉に詰まる。だが、すぐに頭を振って気を持ち直すと、この話は終わりとばかりに話題を変えてきた。



「そ、そんなことよりも今はステーキだ。あたしにも作ってくれないかな? もちろん、お金は払うから」


「まあ、いいですけど」


「ホント!? やったぁー!」



 てな具合で、いきなりの乱入者はあったものの、二人に先ほど作ったステーキを振舞った。ここでわかったことがあるのだが、【料理】のスキルを獲得したことによって【料理レシピ】というリストの一覧に【スフェリカルラビットのステーキ】が追加されたらしく、リストを選択するだけですぐに完成されたステーキが出てくるようになっていた。なんとも便利な機能だな。



 それから、ステーキを堪能した二人から「美味しかった」という感想をいただきその場はお開きになるかと思いきや、ステーキの匂いに釣られたのか、はたまた彼女が騒いでいるのを聞きつけてきたのかは分からないが、他のプレイヤーにもステーキを振舞うことになってしまったことを付け加えておく。



「じゃあ、俺はこれで失礼します」


「おう兄ちゃん、ステーキ美味かったぞ」


「ああ、ステーキありがとう。それから、名乗ってなかったけど、あたしの名前はローザだよ」


「イールです。それじゃあ、またどこかで」



 そう言って、俺はトランジスターグラマーのローザと別れた。とてとてと走り去っていく彼女は、どこぞのマスコットキャラクターのような可愛さがあったが、彼女が胸部に飼っている(?)凶悪なもの( デカ乳)のお陰で、その場に居合わせた男性プレイヤー達が前かがみになる事態が発生するという珍事が起きたことを付け加えておく。ちなみにローザたちが食べたステーキは一枚300ゴルの値段で提供したが、最終的にローザが食べたステーキは五枚だった。他のプレイヤーたちもそれなりにステーキを注文してくれたため、現在の所持金は10000ゴルを超えていた。



 この出来事がきっかけで、ちょっとした騒ぎになることを、この時の俺は知る由もなかったのであった……。







「次は薬草採集のクエストを終わらせようかな」



 ローザと別れた後、残ったスフェリカルラビットの肉をステーキに加工する作業を終え、その足で薬草が自生する林へとやってきた。林に到着するまでに、少々スフェリカルラビットの肉を確保するためラビット狩りをやったお陰で、ポイントもそれなりに溜まった。初日は大勢のプレイヤーでひしめき合っていたこの林も、今では数名がちらほらいるくらいにまで減っていた。このゲームが始まってからの三日間、公式掲示板の情報によれば現在最も攻略が進んでいるプレイヤーは、二つ目の街に到達して三つ目の街に向かうための経験値稼ぎをしているとのことだ。なんでも、三つ目の街にたどり着くためには通常のモンスターよりも強力なボスを倒さなければならないらしく、確実に勝てるよう自身の強化を図っているとのことだった。



 まあ、攻略組でもない俺には関係のないことだが、自分が行き詰まった時の参考にすることがあるかもしれないので、精々攻略を頑張って欲しいところだ。そんな他力本願な思いを抱きつつ、林に自生している薬草を採取していく。



「今回は簡単に見つけることができたな」



 前回北の森に赴いた時には見つからなかった薬草も見つかり、これで薬草クエストも何とか攻略できそうだ。けっこう、ケッコウ、コケコッ――ケフン、なんでもないです。そして、嬉しい誤算だったのが目的のハイルング草の他にも、食用や素材用として使用されるキノコ類も見つけることができ、さらに料理の幅が広がった。



『特定条件を満たしたため、スキル【採取】が取得可能になりました』


「お、また新しいスキルか」



 しばらく薬草を集めていると、【採取】というスキルが取得可能になった。前回取得した【料理】スキルと同様に取得するために必要なSPは50ポイントだったが、ここに来るまでに狩っていたスフェリカルラビットで得たポイントで修得することができた。ちなみに【採取】の詳細はこんな感じだ。




 【採取Lv1】:薬草やキノコなどを採集する際に、入手できる個数が増える。また、採集時に素材が見つかりやすくなる。




「そういえば、【料理】のスキルって確認してなかったな。見てみるか」



 前回手に入れたスキルの内容を確認していないことに気付いた俺は、採取スキルと合わせて料理スキルの内容も確認することにした。




 【料理Lv1】:調理時に、料理等級に若干の補正が掛かる。また、調理の難しい食材を扱いやすくなる。




 この二つのスキルについての情報としては、【火魔法】のような呪文名を唱えるなどの特定の行動を起こした時に発動するスキルではなく、常時発動し続けるタイプのものらしい。スキル以外にも【アーツ】と呼ばれる固有技のようなものが存在しており、例えば【火魔法】スキルのアーツは【フレイムアロー】であり、他にもスキルレベルを上げることで新たなアーツを修得できる。



「何はともあれ、もう少し採取しておくか」



 こういった採取するという単調作業は、俺個人としては好きな部類のものなのでもくもくと採取していく。新たに獲得した【採取】スキルによって、素材を発見する頻度も上がったため効率はかなり良くなった。



「こんなもんかな」



 そこから、林の素材をひたすら採集すること一時間、クエストで指定されていた【ハイルング草】をはじめ様々な素材を入手することができた。ほくほく顔で街へと帰ろうとしたその時、見覚えのある三人組がいた。



「おい伯爵ぅ~、採集なんかやってないでモンスターと戦いに行こうぜ」


「なに言ってるんだよ、ニコルソン! まだここに来て三分も経ってねぇだろ!? それに、さっき死に戻ってきたやつが戦いを語るんじゃない!」


「だって、暇なんだよ。こんな子供のおつかいみたいなこと早く切り上げて、さっさと死にに――モンスターを討伐しようぜ」


「お前も薬草採集手伝えばいいだろうが! それにお前、また死ぬ気だろ!? なんでそうお前は死にたがるんだ。死んだら何もかも終わりなんだぞ!?」


「ち、ち、ち、戦いとは、いかに美しく死ぬかなのだよ」


「いつも無様にやられてるお前がそれを言うんじゃねええええええええ!!」


「伯爵殿、ニコルソン殿、見てくだされ! こんなにたくさん採れたでござるよ!!」



 コントだ……彼らのやり取りを見てまず浮かんだ感想がそれだった。その後も真面目に採集をしている二人に対し、モンスターを狩りに行こうとせっついているニコルソンだったが、それを辛辣な態度で怒鳴りつける伯爵をござる口調のプレイヤーが宥めるという構図がしばらく続いた。このまま成り行きを見ていたかったが、いつまでも見ていると怪しまれるということとこちらはこちらでやるべきことがあるため、後ろ髪を引かれる思いではあったが、その場を後にした。



 街に帰還している道中、目についたスフェリカルラビットを狩りながら再び街へと舞い戻ってきた。その後も目についた小石を拾いながら冒険者ギルドを目指して歩を進める。【採取】スキルのお陰で一度に入手できる小石の数が増えたため、そこそこな数の小石を入手できた。








「はい、確かに【ハイルング草】三本を確認しましたので、これでクエストは完了です。お疲れ様でした」



 冒険者ギルドへとやって来た俺は、受付嬢にクエストの報告をした。ここまで来るのに三日も掛かってしまったが、今はクエストが完了しただけでもよしとしよう。クエスト完了の手続きのために受付嬢に渡していたギルドカードを受け取る。報告も終わったので、ログアウトするためギルドを後にしようとしたが、ここで受付嬢の女性に呼び止められる。



「お待ちくださいイールさん、少々お伝えしたいことがあります」


「何か?」


「これで最初にやるべきクエストを攻略しましたので、イールさんの冒険者ランクが2に上がりました。おめでとうございます!」


「は、はあ、ありがとうございます」



 いきなりのランクアップ宣言に多少呆気にとられたが、この二つのクエストは冒険者の資質を見るための試験のようなものだと言っていたので、おそらくクリアできれば誰でもランクアップできるのだろう。



 それから、ランク2で受けられるクエストの説明を聞き終わると、すぐに冒険者ギルドを後にした。今日は平日ということもあり、明日も仕事があるので短いログインではあったが、宿に戻ってログアウトした。

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[一言] ニコルソン 戦いとは、散ることの美学なんて邪道だぁぁぁ~ と、耳元で叫びたいww 危ない人にしか見えないからww
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