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8話「肉が手に入ったので、調理してみた」

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『【イール】のレベルが4に上がった。【魔法使い】のレベルが3に上がった。APを12ポイント獲得した』



 ポイントを振り分けると、メッセージログが表示される。APとは、各レベルを上昇させることで入手できるポイントであり、使用することで各パラメータを強化できる。



「どれを強化しようかな?」



 初めて経験することなのでどこに振り分けたらいいのかわからなかったが、とりあえず日々勉強のため読んでいる取説を参考にすると、魔法使いにとって重要なパラメータといっても過言ではないのがMPと魔力と精神力らしい。しかしながら、HPと攻撃力と防御力が低く肉弾戦には向いていないという弱点も存在する。選択肢としては、長所を伸ばすか短所を補うかのどちらかになると考えた俺はしばらく思案する。



「決めた、こうしよう」



 そう呟くと、俺は今回手に入れたポイントを振り分けていく。どうやら一回の強化に必要なAPは3ポイントかららしいので、今回は四回強化ができた。そして、最終的なステータスはこうなった。




【名前】:イール(レベル4)


【職業】:魔法使い(レベル3)



【ステータス】


HP:51(+5)


MP:34


攻撃力:19(+1)


防御力:13(+1)


素早さ:12(+1)


魔力:19


精神力:13


器用さ:9


幸運:5



スキル:【火魔法Lv1】、【阻害魔法Lv1】、【身体能力向上Lv1】




 結局、弱点を補うということでHPに一回、攻撃力に二回、防御力に一回APを使用した。MPと魔力と精神力に振り分け、得意分野を伸ばすことも考えたがそれよりも弱点を克服する方がいいという結論に至ったからだ。



 後で分かったことなのだが、他のプレイヤーは長所を伸ばす方を選択しており、それを知る頃には時すでに遅しな状態となってしまうことになる。



「ひとまず、今回のポイント振り分けはオッケーかな」



 能力の強化が終わったところで、今回の戦闘で手に入れた【スフェリカルラビットの肉】というアイテムが気になったので俺は部屋を後にした。ちなみに宿の部屋は見た目的には数部屋しかないが、実際は空間別に分かれていて個別の部屋として振り分けられているので、よほどのことがない限り満室にはならないらしい。



「あのー、すいません」


「はい、なんでしょうか」


「宿の厨房をお借りすることはできますか?」



 部屋を出た後、すぐに宿の店員に厨房を借りられないか聞いてみる。現在利用している宿は、テーブルと椅子のセットが十数組設置されたスペースがあり、酒場兼食事処として利用することができる。そこの厨房を借りられないかと考えたのだ。



「多分大丈夫だと思いますよ。一応、聞いてみますけど」


「お願いします」



 という具合で、俺の要望はあっさりと受け入れられた。酒場の奥にある厨房は特に変わったものはなく、木製の調理台にまな板と玉ねぎやじゃがいもの入った籠が置かれている。



「では、調理を開始したいと思いやす」



 宿の厨房にやって来た目的、それは至ってシンプル。スフェリカルラビットの肉を調理して食べることだ。取説の内容によれば、このゲームには腹の減り具合を示す【満腹度】と喉の渇きを示す【枯渇度】というものが存在する。満腹度が0になるとHPが徐々に減少してしまい、枯渇度が0になればMPが徐々に減少していくという状態になるらしい。だからこそ、プレイヤーは満腹度と枯渇度を0にしないように常に気を配る必要があるのだ。



 この仮想現実には五感が備わっているため、当然のことだが味覚が存在する。ゲームの仕様である満腹度や枯渇度を抜きにしても、この世界の食べ物の味がどんなものなのかに興味があるというのも目的の一つだったりする。こう見えても、俺は食いしん坊なのだ!



「まずは竃に火を入れなきゃな」



 当然だが、こんな前時代的な竃を使うのは初めてのことなので、火を熾すまで多少というかかなり苦労したが、なんとか竃に火を入れることに成功する。とりあえず、スフェリカルラビットの肉の味を確かめるべく、最初はシンプルに塩焼きにしてみることにした。



 調理するためのフライパンを厨房から借り、油を敷き熱していく。頃合いを見計らって、あらかじめまな板で切り分けておいたラビットの肉を熱したフライパンに投入する。“じゅうじゅう”という音を立てて肉が焼けていく光景は、何とも食欲をそそられるものだが、少し獣臭さも混じっており、これは下ごしらえの段階で臭み取りを行う必要があるみたいだ。



「とりあえず、こんなもんか」



 一通り火が通ったら塩を肉の表面と裏面の両方に振りかける。火からフライパンを上げ皿に盛りつければ、このゲーム初の料理の完成だ。ちなみに調理前と調理後の肉の情報はこんな感じだ。




《調理前》



 【スフェリカルラビットの肉】:エアストテール近郊に生息するウサギ型の魔物から取れる肉。生息数が多いため、それほど珍しいものではない。


 【ランク】:2





《調理後》



 【スフェリカルラビットのステーキ】:何の下処理もされていない状態の塩のみの味付けで調理されたステーキ。獣臭さと筋の硬さが前面に押し出された野性味あふれる一品。


 【ランク】:2


 【料理等級】:十等級




 ここで初めて見た【料理等級】というものに興味が沸いたので調べてみた。どうやら、“調理”という行為を行った時にできた料理に付けられる評価のようなもので、最低で十等級、最高で一等級まであるらしい。



『特定条件を満たしたため、スキル【料理】が取得可能になりました』


「これは?」



 ステーキを完成させたと同時にメッセージが表示される。何か条件を満たしたようで【料理】のスキルを獲得したようだ。



「取得するのにSPが50も掛かるのかよ……」



 さっそく新しく手に入れたスキルを取得しようとしたのだが、必要なSPが50とかなり高いのだ。それだけ、手に入れた時のメリットが大きいと思うので、今持っているSPのほとんどをつぎ込んで【料理】のスキルを取得した。



「スキルも手に入れたことだし、調理したステーキの実食といくか」



 そう意気込み、先ほど調理したステーキを口で噛み切ろうとしたが、とても噛み切れるような代物ではなかった。そして、何よりも獣臭さが口の中一杯に広がってとても食べられたものではない。



「ぺっ、ぺっ、不味い、不味すぎる」



 何がいけなかったのか改めて考えていると、宿の料理担当の男が声を掛けてきた。こちらが予想していた通り、スフェリカルラビットの肉は、筋が多く獣独特の臭みも持っているため、調理する前に臭み取りの下処理をしなければいけないらしい。



「しゃあねぇ、今回は特別に臭み取り用のハーブを分けてやるよ」


「本当ですか、助かります」



 さっそく分けてもらったハーブを使い、二度目の調理に取り掛かることにする。まずは肉を柔らかくするために包丁のみねの部分でまんべんなく肉を叩いていく。こうすることで、肉の筋繊維を切断し調理した時に硬くなるのを軽減する効果があるのだ。一通り叩いたあとは、肉の筋繊維の方向に対し垂直に包丁で切り込みを入れていく。この方法も、肉を叩くのと同じように肉を柔らかくする方法の一つだったりする。

 そして、切り込みを入れた後は、分けてもらったハーブを使って臭みを取り除いていく。ハーブなどの香草を使った臭み取りの他にも、酒や果物などと一緒に漬け込んだりする方法なんかも存在する。



「あとは、両面に塩を適量振って焼くだけだな」



 塩を肉に使うタイミングは、焼く前がいいとか後の方がいいとかいろいろ言われているが、先ほど焼いた後で塩を使ったので今回は焼く前に使ってみることにした。ちなみに俺が知っている肉を美味しく食べる条件は、焼く前の肉が常温であるという事、肉の厚みに応じて塩の量を変える事、塩を掛けるタイミングは焼く直前にする事の三つだ。とはいっても、これは先ほども言ったが人によって様々なので、参考程度のものだということを付け加えておく。



「よし、完成だな」



 最初に調理したときとは異なり、現時点でできる限りの下処理を行ったが、どうやらその効果は絶大だったようだ。では、その結果をとくとご覧あれ。




 【スフェリカルラビットのステーキ(香草)】:肉の臭みを消す処理と柔らかくする処理がされているステーキ。獣臭さや筋の硬さが軽減された一品。


 【ランク】:2


 【料理等級】:六等級




 やったぜ! 料理等級が十から六にまで上がっている。だが、これだけの手間を掛けてもまだ六等級止まりということは、まだまだ改善の余地があるということらしい。



『【スフェリカルラビットのステーキ(香草)】を手に入れた。XPを1ポイント手に入れた。SPを1ポイント手に入れた』


「おお、戦闘以外でもポイントって手に入るんだな」



 これで戦闘以外のポイントを入手する方法が見つかったので、前みたいにプレイヤーが多すぎて何もできなくなるようなことにならずに済みそうだ。

 何はともあれ、まずは出来上がったステーキを実食することにした。



「はむっ」



 先ほどとは違い、ステーキを噛むと抵抗なく噛み切ることができた。それと同時に口の中一杯に旨味成分である肉汁が広がっていく。臭み取りで使ったハーブがいいアクセントとなっていてステーキとしての品質がかなり向上している。とどのつまり、何が言いたいのかといえばこの一言に尽きる。



「美味い!!」



 思わずそう叫んでしまうほどに今回のステーキは美味かった。これでホントに六等級なのかと問いただしたいくらいの出来といっても過言ではない。



「……なぁ兄ちゃん、俺にも作ってくれねぇかな? もちろん金は払うからよ」


「ああ、お金はいいですよ。この厨房の使用料とハーブを分けてもらった代金とでチャラってことで」


「そうか、それじゃあ頼むわ」


「じゃあついでに、あたしの分も作ってください」



 厨房を貸してくれた男性とそんなやり取りをしていると、突如として酒場の方から声を掛けられた。

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