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7話「森でボコられ死に戻る。その三日後・・・」

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 森の中に入ると、木々の香りが鼻をくすぐった。これといって危険な様子もなかったが、ここで気を抜くのは危険と判断し、いつでも逃げられるようゆっくりとした足取りで進んで行く。



「森といえばキノコだな」



 そう呟いた俺は、さっそくキノコを探すべく行動を開始する。現実世界でもキノコ狩りのため森に入る人もいるので、“森といえばキノコ”という安直な考えに至ったわけだが……。



「ない」



 キノコ捜索を開始して数分だが、まだキノコのキの字もお目に掛かれていない。俺の探し方が悪いのか、それともこの森にキノコが少ないのかはわからないが、全く見当たらない。そこからさらに十分ほど経過したが、結局キノコを見つけることはできなかった。



「無駄足に終わってしまったな……うん?」



 そろそろ街に戻ろうかと考え始めたその時、茂みがかさこそと音を立てそこから何かが飛び出してきた。体長約一メートル前後の小人のような体躯に緑色の肌をしており、頭髪は皆無に等しい。ぼろぼろの布の服に何かの動物の皮で作られたこしみのを身に着けており、手には木で作られた武骨な形の棍棒が握られている。



「何だこのちっこい奴は、モンスターか?」


「ギィィ」



 俺の言葉に牙を剥き出しにして威嚇してくるので、モンスターであると判断してさっそく戦闘を開始する。こちらが戦闘態勢に入ったとほぼ同時に突っ込んできたそいつは、手に持った棍棒を振りかざしながら大きく跳躍した。小さな体に反して、その跳躍は俺の頭上まで届くほど高かった。大跳躍からの振り下ろした棍棒が、俺の頭部に襲い掛かろうとしていた。だがしかし、それを食らってやるほど俺は鈍間のろまではないので、後ろに飛び退くことで奴の攻撃を回避することに成功した。



「コブリン。こいつが、あのゴブリンか」



 戦闘が開始されたことで、敵情報が表示される。どうやらこいつの名前は【ゴブリン】というらしい。



 自分の攻撃を避けられたことに対して苛立っているのか、「ギィギィ」と地団駄を踏みながら憤慨している。だが、そんな隙を見逃してやるほど、俺も余裕があるわけではないので攻撃に転じる。下半身に力を入れ、地面を蹴ってゴブリンの懐に侵入すると、そこに右のアッパーを突き入れてやった。



「ギィッ!?」


「どうだ、まいったか」



 だが、残念ながらそれで終了という訳にはいかず体勢を立て直されてしまう。だが、この時俺は知らなかった。ゴブリンというモンスターが群れで行動する種族であるということに。



「な、なんだ?」



 一進一退の攻防がしばらく続いたが、突然奴の背後の茂みが揺れた。茂みから現れたのは、奴の仲間らしい数匹のゴブリンだった。だが、それだけであれば逃走という手段を取れたかもしれなかったが、残念なことに背後の茂みからもゴブリンが姿を現し、俺は挟み撃ちに合う形になってしまう。



「こりゃ逃げられんな」


「ギギギギギ、ギィー」



 そんな俺の姿を、最初に戦ったゴブリンがあざ笑うかのように歪んだ笑みを浮かべる。そして、俺に向かって棍棒を突き出すと他のゴブリンたちが一斉に襲い掛かった。



「ぐはっ、うおっ、うへっ」



 まさにタコ殴りとはこのことで、ゴブリンの攻撃を一方的に食らってしまう。仮想現実とはいえ、五感の全てを感じることができるため、多少痛みを感じるようになっている。まだまだ駆け出しの俺が、十匹ほどのゴブリンたちを相手にするのは分が悪く、最終的にはHPがゼロとなり力尽きてしまった。地面に倒れ伏し、薄れゆく意識の中で見た最期の光景は、最初に戦ったゴブリンが俺に向かって棍棒を振り下ろす姿だった。









「うん? ここは……」



 気が付くとそこは【エアストテール】の街の中央部にある広場だった。相も変わらず人の往来が多く、プレイヤーやNPCと様々な人が行き交っていた。



「そうか、俺はあのゴブリン共にやられたんだったな」



 ようやく自分の置かれた状況を把握した俺は、死ぬ間際に見たあのゴブリンの嘲笑を思い出し憤りの感情を募らせる。



「くそう、あのゴブリンめ!」



 しばらく負けた悔しさに浸っていたが、いつまでもそうしていると時間の無駄なので、気を取り直して一旦ログアウトするため宿へと帰還することにした。ログアウトする直前、ゴブリンと戦っている最中さいちゅう自分が魔法使いであるのにもかかわらず魔法を使っていないことに気付いてしまい、間抜けな叫び声を上げてしまったことを付け加えておく。



 今回初めてダメージを受ける行為と死に戻りを経験したが、やはりゲームとはいえ死ぬのは嫌な気分になるな。この仮想現実では、感じる痛みに対しての強弱がある程度抑えられているようで、ゴブリンの攻撃を受けた時も抓られたくらいの痛みだった。本来であれば卒倒しそうなほどの強烈な痛みが襲ってくるはずなのだが、そんなこともなく戻ってきた今も痛みは一切感じない。それでも、棍棒で殴られた時の衝撃と感触は現実世界とほとんど遜色がないといっても過言ではないため、今後は慎重な行動を心がけよう。



 ちなみに、死んでしまったことに対する罰として何かしらのペナルティが科せられるということはなかったが、後で取説を読んでみると「現状の試作段階のバージョンでは死に対してのペナルティはないが、今後のアップデート次第ではその限りではない」という一文が記載されていた。



 そんな出来事があったものの、初めてのVRMMOとの出会いから三日が経過し、ようやく草原にいるプレイヤーのおしくらまんじゅう状態が解消され始めてきていた。



「おし、ようやくクエストに取り掛かれるな!」



 この三日間、ひたすらに草原の様子見と街の石拾いを繰り返しており、ほとんどといっていいほど進展がなかった。それでも、この三日の作業が実を結び手持ちの所持金は5000ゴルを超えていた。既にクエストを攻略しているプレイヤーにとってこの金額は何でもない額だったが、未だにクエストを攻略していないプレイヤーからすれば異常ともいえる所持金額であった。



 何はともあれ、さっそく遅れていた目的を果たすべく草原へと赴くことにする。



 草原にやってくると、プレイヤーの数は初日と比べまばらになっていて、かなりの余裕が出てきていた。今回で実質三回目の戦闘なので死なないようにだけ注意してさっそく行動を開始する。



「お、いたいた」



 そこには、最初にイリスとの戦闘チュートリアルでも戦った【スフェリカルラビット】がいた。まだこちらには気付いていないようで、俺に背を向けて草を食べている。球体のような体に付いた小さい尻尾をふりふりと振っている姿は、何とも愛くるしいとは思うが、こっちは三日も待たされているので容赦はしない。



「では、先手必勝ってことで⦅フレイムアロー⦆!!」



 前回の失敗を考慮して、今回は初手から魔法を使ってみた。呪文名を口にすると、俺の前方に四十センチほどの火でできた矢が現れる。そして、目標に一直線に飛んでいくと、スフェリカルラビットの尻部分に突き刺さった。



「ぎゅぴいぃぃぃ」


「……痛そう」



 フレイムアローが突き刺さると、断末魔の叫びを上げながら光の粒子となって消滅する。その死に様がなんとも痛々しいものに思えてしまい、思わず口に出てしまった。ここでステータスをチェックしてみると、20あったMPが17に下がっていた。どうやら、フレイムアローを使うにはMPを消費してしまうようだな。使い過ぎには注意しないといけないようだ。



 その後も順調にスフェリカルラビットを討伐していき、一時間半が経過したところで戦利品のチェックをすることにした。今回の戦果は以下の通りだ。




 スフェリカルラビット討伐数:26匹


 獲得ポイント:XP52、JP30、SP52


 入手アイテム:スフェリカルラビットの肉18個、スフェリカルラビットの皮9枚




「とりあえず、今回はこれくらいにして一旦街に戻るか」



 もう少し狩ってもよかったのだが、少しプレイヤーで混雑し始めてきたため一旦中断することにした。



 街に戻ると、すぐに宿へ直行して部屋を借りた。20ゴルを支払い受付の人に言われた部屋に入ると、設置してあったベッドに腰を下ろす。部屋の内装は至ってシンプルで、丸い木製のテーブル&二脚の椅子のセットと、簡素な造りのベッドだけだった。



 宿で部屋を借りてログアウトした場合、再ログインはその部屋からとなる。そして、ベッドで眠ればHPとMPを回復することができる。時間を有効に使えるよう考慮されているのか、眠っている時間の経過は一瞬なため、気付いたら何時間も経っていたということがないので安心だ。



「そういえば、手に入れたポイントを使ってなかったな」



 この【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】の育成システムは、ポイント振り分け制を採用している。通常のゲームの場合、手に入れた経験値は自動的に処理され、一定のポイントまで溜まると勝手にレベルが上がっていく仕様だが、このゲームでは少し違う。手に入れたポイントは、ストックされ溜まっていく。そこまでは今までのゲームと変わらないが、それではレベルは上がっていかない。溜まったポイントを、それぞれのポイントに対応した項目につぎ込んでいき一定数を超えればレベルが上がるといった仕様だ。



「ここを押せばいいんだよな?」



 拙い操作でメニュー画面を操作し、手に入れたポイントを使って強化していく。XPは操作しているキャラクター自身のレベルに、JPは取得している職業のレベルに、SPは獲得したスキルのレベルにそれぞれ使用することができる。慣れない作業に四苦八苦しながらも、なんとか強化が完了したため改めてステータスを確認してみた。




【名前】:イール(レベル4)


【職業】:魔法使い(レベル3)



【ステータス】


HP:42(+4)


MP:34


攻撃力:13(+1)


防御力:10(+1)


素早さ:12(+1)


魔力:19


精神力:13


器用さ:9


幸運:5



スキル:【火魔法Lv1】、【阻害魔法Lv1】、【身体能力向上Lv1】




 とまあ、こんな感じだ。使ったポイントはXPが40、JPが25、SPが0だ。全体的に能力値が上昇したが、まだまだ始めたばかりなのでもっと精進が必要だ。ちなみにSPが0なのはスキルレベルを上げるために必要なポイント数が多かったためだ。キャラレベルと職業レベルの必要ポイント数は最初が10で次が15、その次が25といった具合だったのでレベルが上がったが、スキルレベルを上げるために必要な最初のポイントは、なんと100だったのだ。



『【イール】のレベルが4に上がった。【魔法使い】のレベルが3に上がった。APを12ポイント獲得した』




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― 新着の感想 ―
[良い点] のんびりするのにはいいのでは無いかなと言う感じのゲームですね~ [気になる点] 思うに、出て、クエストがどうにもならないのが分かった割には、周りのNPCに話しかけて情報を集めたり、訓練が出…
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