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初めてのVRMMO ~三十歳から始めるオンラインゲーム~  作者: こばやん2号
第一章 とりあえず、やってみた
4/26

4話「草原&林の惨状と、美女の誘惑?」

よければ、ブックマーク&評価をお願いします。



「なんだ、これは?」



 街の外へとやってきた俺は異様な光景を目の当たりにしていた。そこには見渡す限りの大草原が広がっており、イリスと最初にやった戦闘チュートリアルの草原を彷彿とさせる。青い空に髪に掛かる風がとても心地よく、なんだかそこで大の字に寝転んで昼寝したい気分になってくる。



「おい、てめぇ! そいつは今俺が倒そうと思ったのに、邪魔すんじゃねぇよ!!」


「なに言ってやがる! こういうのは早いもん勝ちっていうのが、常識だろうが!!」



 以前にも説明したと思うが、俺は製造系の工場を営む会社に勤務している。そこに務める同僚に、ゲームやアニメを趣味としている社員がいるんだが、ある夏の日の昼休み、食堂に設置されているテレビに有名な夏祭りのニュース映像が中継されていた。人でごった返しているその状況を見た時の彼の感想と、今のこの状況が一致している気がするので、彼の一言を借りて俺はこう呟いた。



「か、混沌カオスだ」



 言葉の意味はわからないのだが、何となく今の状況に合っている気がしたため、思わず呟いた。そこに広がっていたのは、数十、いや数百人はいるのではないかという大人数が、草原でおしくらまんじゅうのようにひしめき合っており、あのテレビで見た夏祭りの中継映像のように人でごった返していた。



「ちょ、ちょっとあんた! どこ触ってんのよ!?」


「ぐへへ、わりぃわりぃ、てっきりスフェリカルラビットが二匹いると勘違いしたぜ」


「ね、姉さん、人が多くて離れ離れになりそうだよ」


「いいえ、弟くん、私とあなたの愛を引き裂くことはできやしないわ。いずれ私たちは結婚するんだから」


「姉弟は結婚できないよ、姉さん……」


「こらー、ニコルソン! お前はまたそうやって敵に突っ込もうとするな!!」


「くそう、敵キャラが雑魚過ぎて死に戻れないぜ……」


「伯爵殿ー、ニコルソン殿ー、待って欲しいでござるよー」



 しばらく様子を窺っていたが、一向に人が減らない状況に嫌気が差してきた。当初の予定では、この草原に出現するスフェリカルラビットの討伐クエストをやるはずだったが、あまりに人口密度が多すぎるため、俺は早々にラビット討伐は諦めもう一つ受けていたクエスト【ハイルング草】を三本納品する方に切り替えることにした。



「……ここもかよ」



 ハイルング草が群生しているのは、街を出た草原を北西に少し進んだ先にある林の中だとギルドで聞いていたのだが、ここにも草原とはいかないまでも百人以上の人が地面に視線を向けて何かを探していた。目的は十中八九ハイルング草であり、こちらでも少なからず争いが起きていた。



 ちなみにハイルング草の使用用途だが、基本的な回復薬の調合素材として頻繁に使われる素材であり、あらゆる薬草の中で最も流通量の多いものであるにも関わらず、その需要の高さから素材として一定の価値があるものとして認知されている。しかしながら、流通量の多さと素材自体の希少価値はそれほど高くないので、駆け出し冒険者の小遣い稼ぎ程度のものとして長年に渡って取り扱われているということらしい。



「手を離せよ、これは俺が見つけたんだ!」


「なに言ってるのよ! あたしが先に採取したんだから、これはあたしのものよ!!」


「だから、あんた!! どこ触ってるって言ってんのよ!!」


「ぐへへ、すまんすまん、ハイルング草が生えてるかと思って勘違いしたぜ」


「なんで、あたいのおっぱいにそんなもんが生えてんのよ!! 逆に説明してくれないかな!?」



 とまあ、こんな感じでハイルング草の採取もあまりの人口密度に撤退せざるを得ない状況となってしまった。それから街に戻る道中もう一度草原の様子を見てみたが、相変わらずおしくらまんじゅう状態が絶賛継続中だったため、諦めて街へと帰還した。



「てか、これじゃあ、ただ街と草原と林を散歩してきただけなんだが……」



 自分が辿ってきた道筋を思い返していて、ふとそんなことを呟いてしまう。初めてVRMMOというものに触れて手探り状態が現在も継続中ではあるが、ゲームを開始してまだ一時間程度しか経過していない。その間にやったことといえばキャラクターの設定に戦闘チュートリアル、それに冒険者ギルドへの登録、これくらいである。



「あのぅ~、ちょっといいですかぁ~」



 次の行動をどうしようかと思案しながら街に帰還しようとしたその時、俺に声を掛けてきた人物がいた。金髪碧眼という純粋な日本人ではない髪と瞳を持った女性で、目鼻立ちも整っていてスタイルも良く、美女と言って差し支えない。しかしながら、流暢なしゃべり方は彼女という存在を日本人足らしめていた。



「俺に何か用ですか?」


「もし、良かったらぁ~、フレンド登録しませんかぁ~」



 フレンド登録、確か現実世界でいう所の名刺交換のようなもので、特定のプレイヤー同士で基本情報の交換をすることで交流できる機能だったはずだ。この【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】では、フレンド登録をすると登録した相手と個人チャットやメッセージのやり取りができたり、相手がログインしているかどうかの状況も知ることができたはずだ。



 だが、この時俺は彼女に対して違和感を抱いていた。いくらゲームの世界とはいえ、どこの誰とも知らない赤の他人にこうも簡単に接触してくるものだろうか?

 そして、何よりも俺が持っている勘が訴えかけてくるのだ。“この女はやべぇ奴だ”と。



 見た目はかなりの美人であることに間違いはないが、なぜだか彼女に関わると碌なことにならないという危機感にも似た感覚を覚えた。だからこそ、俺の答えはたった一つだ。



「申し訳ないですが、お断りさせていただきます」


「えっ……ど、どうしてですかぁ~?」


「それでは俺は用がありますので、これで」


「あっ……ちっ、お高くとまりやがって」



 俺は彼女の問いかけに答えることなく、すぐにその場を後にした。去り際に彼女が何か呟いたが、俺の耳には届かなかった。結果的に言えば、俺の取った行動は当然であると同時に最善であったということを後になって思い知らされることになる。後日彼女とフレンド登録した男性プレイヤーが公式掲示板に書き込んだ情報によると、彼女は気に入った男性プレイヤーに近づいてフレンド登録を申請し、その後ストーカーのように付き纏う粘着質な女だったらしい。そして、他の女性プレイヤーと話していると「あの女誰よ?」だの「わたしというものがありながら」などと叫びながらヒステリックを起こしたそうだ。



 その後、数多くの男性プレイヤーの証言と告発により幾度も運営から警告を受けたが、改善の余地が見受けられなかったため、一定期間アカウント停止処分を食らうことになり最終的に【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】の世界から強制退去処分になるのだが、それはまた別のお話である。







 モンスター討伐と採取を諦めた俺は、再び街へと戻ってきた。だが、当然戻ってきたところで何かやるべきこともなく、ただ目的もなく街をブラついていた。



「まさか、あんなに人がたくさんいるとは予想してなかったからなー」



 このことについては後になって知ることになるのだが、こういったゲームの配信開始直後の時期というのは行動できる範囲が狭いため、ほとんどのプレイヤーが同じ行動を取らざるを得ない。そのため、先ほど経験したような同じ場所に人がごった返す状態になることがままあるらしい。特にこういったオンラインゲームにおいては風物詩といっても過言ではないほどによく起こることなので、注意が必要だと公式掲示板でも注意喚起されていた。



「やることがないなら、さっさとログアウトすればいいだけの話なんだけど、それはそれで味気ないしな……」



 ちなみに【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】におけるログアウト方法は、メニュー画面にあるログアウトボタンを押すだけで可能だ。ただし、モンスターがいるエリアなど安全が確保されていない状態でログアウトすると、アバターの残像のようなものが残ってしまいその間無防備な状態を晒してしまう可能性がある。当然その状態で攻撃を受け続ければ死んでしまい、最期に立ち寄った宿または街の広場に強制転送という形で生き返ることになる。それを防ぐために、ログアウトする場所は安全が確保されている場所か、ログアウトできる施設である宿を利用することになる。



「取説では長時間のプレイは避け数時間ごとに一回休息を入れろとかあったけど、まだそんなに疲れるほどプレイしてないんだよな」



 なにもやることが無いこの状況にため息を吐きながら歩いていると、足の先で小石を蹴ってしまった。なんとなくその小石を拾ってみると、突然ウインドウが表示された。



 【ただの小石】:何の変哲もないただの小石、売っても二束三文にしかならない。


 【ランク】:1



 なんだ、ただの小石かとウインドウの情報を見た時はそう思ったのだが、ある一文が気になり再度読み返してみた。



「“二束三文”ということは、この小石って売れるんじゃないか?」



 初心者チュートリアルでもあったが、どうやらこのゲームはお金を稼がなければいけないみたいだから売れるものはなんでも売るべきだ。そうとなれば、今からやることは一つだろう。



「とりあえず、小石拾いでもやってみるか」



 当面の行動が、決まった瞬間であった。

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