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初めてのVRMMO ~三十歳から始めるオンラインゲーム~  作者: こばやん2号
第一章 とりあえず、やってみた
3/26

3話「ちょっとした絡みがあった後で冒険者ギルドへ行く」

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「ここはどこだ?」



 周囲を都会に来たばかりの田舎者よろしく、きょろきょろと見回しながら俺はそう独りごちる。イリスとの戦闘チュートリアルを終えた瞬間、草原からいきなりヨーロッパ風の石レンガで建設された街のど真ん中にやってくれば、誰でも同じ反応を示すことだろう。



 それでも、これが現実ではなくゲームの世界だということを認識することで、何とかパニックにならずに済んだことは俺にとっては僥倖だっただろう。街の広場の中心にはよく待ち合わせなどで使われそうな目立つ噴水があって、そこには多くの人でごった返していた。



「お、ホントに若返ってるな、なんか懐かしいぞ」



 とりあえず、自分の姿がどうなっているのか確認するために、俺は噴水に映る自分の顔をのぞき込む。そこには確かに十代の頃の自分の姿があり、なんとなく昔を思い出して苦笑いを浮かべてしまう。しばらく自分の姿を眺めていたが、いつまでもそうしていてもこの状況は変わらないので、街の散策をしてみようと適当に歩き出した。



 しばらく街を歩いていて少しだけわかったことがある。それは、似たような服装の人間がたくさん歩いているということだ。具体的には茶色い麻のようなズボンと、同じような材質で作られたシャツのようなボロい服だった。それからしばらくして、俺も同じ服を着ていたことに気が付いたため、その服を着ている人間が自分と同じようにこの【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】を、プレイする権利を獲得したプレイヤーであると理解するのにそう時間は掛からなかった。



 この【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】、のちにAFOと呼称されるこのゲームのテストプレイヤーを募集する告知がされたのは、今から約十か月前までに遡る。その時点で試作段階の九割以上を完成させていた開発元の会社は、AFOの試運転も兼ねて抽選で千人のテストプレイヤーを大々的に募集した。



 採用枠に対し、数十万件という異常ともいえる応募総数だったが、開発元の会社は予期せぬ事態に真摯に対応した。そのお陰なのか、俺もこうして千枠という狭き門を突破してこのAFOの世界にやってこれたのはラッキーだった。



 そんなことを考えていたこともあって、注意力が散漫になっていたらしい。対面から歩いて来た人と、肩がぶつかってしまった。



「いてぇな! てめぇどこ見て歩いてるんだ。目付いてんのか!?」


「すみません。考え事をしていたもので、気付きませんでした」



 ぶつかったのはこちら側ということもあって、俺は素直に謝罪の言葉を口にする。だが、相手の男はどうやらそれで許してくれなかったみたいで土下座を要求してきた。



「本当に申し訳ないってんなら、“誠意”ってやつを見せてもらおうじゃねぇか“誠意”ってやつをな!」



 この手の言葉を口にする人間はドラマや漫画なんかでよくいるが、決まって悪役だったりするんだよな。俺がどうしようか困惑していると、突如として男の後ろから肩を叩く人物が現れた。



「……誰だ、てめぇは?」


「申し訳ありませんが、先ほどのやり取りを見させていただきました。彼はもう謝罪の言葉を口にしておりますので、これ以上はハラスメント行為となります」


「はぁ、てめぇ何ほざいてやがんだ!? 俺が許してねぇんだ。きっちり土下座で謝ってもらわねぇと、俺の気が済まねぇんだよ!!」


「……どういたしますか?」



 いきなりこちらに話を振られて驚いている俺に向かって、男に話し掛けてきた男性が続きを口にする。



「これ以上の行為はこのゲームの規約違反“ハラスメント行為”に相当しますが、申請報告いたしますか?」



 それはこのゲームを始める前に読んだ取説の中に記載されていた内容で、“迷惑行為を受けた場合による申請報告”というものが存在していた。プレーヤーまたはゲームプレイ中における不具合によって何らかの不利益が生じた場合、それに対して異議申し立てができるという制度だ。大概の場合プレイヤー同士のいざこざなどで申請されることが多いらしく、今回の場合もそれに該当していた。



「こちらとしては、もうすでに謝罪はしたのでこれ以上なにかすることはありません。もしこれ以上そちらの人がごねるなら、申請報告します」



 その言葉を聞いた彼は、男に視線を戻すと「いかがいたしますか?」という含みのある視線を向けてくる。その静かだが威圧とも取れるような目線にあてられたのか「お、覚えてろよ」という月並みなセリフを残して人ごみへと消えていった。



「初日に妙な人に絡まれて大変でしたね」


「現実の世界でも妙な人はたくさんいますからお気になさらず。それよりも助けていただき感謝します」



 男性は先ほどまでとは打って変わって、柔らかい笑みを浮かべると「それが仕事ですから。それでは、これで失礼いたします」と口にしてその場を去っていった。あとでわかったことだが、どうやら彼はこの世界に数人とも数十人とも存在している“ゲームマスター”と呼ばれるものらしく、このゲームのトラブルを解決するご意見番のような役割を持つ人物だった。余談だが、俺に絡んできた男は別のプレイヤーと似たような騒動を起こして申請報告によってテストプレイヤーの権利を剥奪されたらしい。所謂【アカウントBAN】というやつらしいのだが、この世界においても理性的な行動を取らなければ排除されることが分かっただけでも、今回の騒動に巻き込まれたのは無駄ではなかったと思う。









「うーん、それにしてもこれからどうすればいいんだろうか?」



 この世界にやってきて速攻で絡まれてしまった俺だったが、気を取り直して街の中を目的もなく散策していた。だが、この手のゲームをプレイしてこなかった俺にとって、セオリーと呼ばれる行動に精通していないのだ。何処に行けばいいとか、何をすればいいということがまったくわかっていないというよりも知らないのだ。



「うん、これは?」



 そんな思いが通じたのか、メニュー画面に“初心者チュートリアル”と呼ばれるものが浮かんできたため、俺は迷わず詳細を確認した。その内容は、どうもこのゲームではお金を稼ぐことで戦闘を有利に進めることができる装備や、ゲームをプレイしていく中で必要な消耗品などを購入することができるらしく、何をおいてもまずはお金を稼ぐということをしなければならないようだ。



 そして、そのお金稼ぎを効率的にできる場所があり、その名も【冒険者ギルド】という名前らしい。他に目的もないため、とりあえず指示に従って冒険者ギルドへと向かうことにした。



「ここが【冒険者ギルド】とやらか?」



 たどり着いた先にあったのは、少しボロい印象を受ける木造の建物だった。看板には剣と盾のマークが描かれていて、どことなく戦いをイメージさせられる。中に入ると、案外広い造りになっていてその広さに少しだけ驚いた。どうやら酒場と併設されているらしく、右手にはテーブルと椅子の組み合わせが十数組設置されている。自分と同じ目的の人間がいるのだろうか、ここもかなりの人で溢れかえっていた。



「とりあえず、受付だな」



 誰にともなく呟いた俺は、今もなお多くの人が並んでいるカウンターのような場所へと足を向けた。しばらく列に並ぶ事十五分ほど、ようやく自分の番が回ってきた。



「冒険者ギルドへようこそ、新規の登録でしょうか?」


「はい、そうです」


「では、こちらから必要事項を入力してください」



 そう言って、受付嬢のお姉さんが指し示す先にウインドウが表示される。彼女の指示に従って項目を埋めていく。入力が完了すると、「しばらくお待ちください」と彼女が一言口にして、事務作業のようなことをやり始めた。ものの数分と経たずに作業が完了し、俺の手元に一枚のカードを差し出してきた。




【名前】:イール


【職業】:魔法使い


【ランク】:1


【依頼達成数】:0


【冒険者ポイント】:0




「こちらが、冒険者ギルドの加入員を示す証明書であるギルドカードとなります。ちなみにギルドカードを紛失した場合の再発行手数料は、10000ゴルとなっておりますのでご注意ください」



 どうやらこの世界での通貨は【ゴル】というらしい、そういえばステータス画面にも所持金の表示が【G】となっていたな。



 俺はギルドカードを受け取り礼を言ってその場を後にしようとしたのだが、それを受付嬢の言葉が止めた。なんでも、初心者でも攻略が簡単な【クエスト】と呼ばれる依頼があるらしく、俺はその中から【スフェリカルラビット五匹の討伐】と【ハイルング草三本の納品】のクエストを受けることにした。



 今回受けたクエストに期限はないが、高難度のものになれば達成するまでに期限が設けられているらしい。ちなみに冒険者のランクは1から始まって、最終的に999まである。ランクは【冒険者ポイント】を一定数集めると自動的に上がっていき、高ランクになればなるほど、難しいクエストを受けられる仕組みになっている。ちなみにクエストに失敗したときのペナルティなどはないが、高難度クエストの場合受けるために契約金を支払わなければならないので、失敗するとその契約金が戻ってこないため、注意が必要だと教えられた。



「それでは、頑張ってください」


「ありがとう」



 俺は受付嬢に再度お礼を言うと、今度こそ冒険者ギルドを後にした。まずは討伐クエスト【スフェリカルラビット】の討伐をやってみよう。

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