25話「アップデートの確認後、無人販売機使ってみた」
※アップデートのお知らせ※
【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】を御愛好いただき誠にありがとうございます。本日火曜日0時よりアップデートが完了しましたので、内容をお知らせいたします。アップデート内容は以下の通りとなっておりますので、ご確認ください。
1、【無人販売機】の実装
直接やり取りをせずにアイテムの売買を行うことができる【無人販売機】を実装しました。その他にもちょっとしたメッセージを残せるメッセージボードや、購入制限機能など多岐に渡る形態でのアイテム売買が可能です。
2、キャラレベル&職業レベルの上限を50から75に引き上げ
今までの最大レベルの上限が50から75になりました。
3、NPCクエストの追加
隠しクエストとしての要素を持ったクエスト【NPCクエスト】の公開とそれに伴った新たなNPCクエストが追加されました。
4、転移ポータルの追加
特定の条件を満たすと、街から街に瞬時に移動が可能となる【転移ポータル】が使用可能となります。
以上が今回のアップデートの内容になりますが、具体的な詳細に関してお答えできない場合もございますので、ご理解とご了承いただきますようよろしくお願いいたします。
ローザとNPCクエストを攻略してから数日が経過し、全てのプレイヤーが待ち望んでいたアップデートが実施された。二十四時間という長期的なメンテナンスだったため、掲示板でかなりの不満が出ていたようだが、俺的にはそれほど長いと感じることはなかった。
「今回はアップデートの内容を確認していこうか」
メンテナンス明けから初となるログインを行い、泊まっている宿部屋で開口一番そう宣言する。とりあえず、新しく追加された【無人販売機】とやらを使ってみたいのでメニュー画面から詳細を確認していく。
いろいろと確認していくと、どうやらこの無人販売機は現実世界でいうところの自動販売機のようなものであるということがわかった。具体的には、不要なアイテムや装備または自分で生産したものを販売できる簡易の店舗で、特徴としてはその名の通り客と直接やり取りすることなく売買ができる。
それ以外にも、一度に購入できる個数を制限したり時間を指定することで特定の時間帯の価格を割り引いたりという機能も付いている。
「ふむふむ、なかなか機能が充実しているようだな」
今手元にあるアイテムの中でプレイヤーに売れるものがあるとすれば、やはり料理だろう。アップデートが実施されるまでの数日間、俺がやっていたことといえば料理の生産とポイント稼ぎのモンスター討伐の二つだ。ポイント自体はまだ使用していないので、キリのいいところで使っていこうと考えている。
次に気になる追加要素と言えば、【転移ポータル】だ。特定の条件と表記されているのだが、詳細が全く表示されていないためプレイヤーの皆さんに頑張ってもらいたいところだ。……え? 自分で探さないのかって? うん、探さないですけど何か?
「とりあえず、今日は無人販売機の設置をするところから始めよう」
メンテナンス明けの最初の方針が決まったところで、俺は宿を出た。そのまま、まっすぐ目的の場所へと進んで行くこと数分後、最早見慣れたといっても過言ではないくらいに通っている建物が見えてくる。
建物内に入ると、テーブルと数脚の椅子が十数組ほど設置されていてその内のいくつかにはプレイヤーの姿がちらほらと見受けられる。もうお分かりだろうが、ここはかつて埃を被っていたローピンさんが経営する食堂だ。ウィクネス病という病に伏していた彼だったが、今は再び食堂を再開するまでに回復していた。そして、ウエイターとして働いているローピンさんの息子であるディッシュの姿もあった。入ってきたのが俺だと分かると、顔を輝かせてこちらに走り寄ってくる。
「イールお兄ちゃん、いらっしゃい。今日も料理を作るの?」
開口一番そう問いかけてくるディッシュに俺は首を縦に振って肯定する。だが、今回はそれだけではないのだが、料理もするので概ね正しいと言えるだろう。
「とりあえず、厨房に入らせてもらうな」
「ちょっと待ったぁー!!」
振り返らなくても誰だが分かってしまうことに辟易としながらも、一応知り合いなので無視するわけにもいかず内心でため息を吐きながらゆっくりと振り返る。
「今日は何だ?」
「そんなの決まってるでしょ! ハイ!!」
俺の問い掛けに彼女は両手一杯の金貨を差し出してくる。AFOの唯一無二の通貨であるゴルだ。あれから事あるごとに彼女は俺のところにやって来ては俺に料理を要求してくるようになった。言い忘れていたが、彼女とは言うまでもなくローザだ。
まあ、要求といってもこうしてちゃんとゴルでの取引をしているので、実質的にはプレイヤー同士の料理の売買になるのだが、こちらの有無を言わせずこうやってゴルだけを突き出してくるあたり強制的な取引になっているのは俺の勘違いではないだろう。……まあ、俺としてはお金が増えているので有難いといえば有難いんだが。
「ちょっと待ってくれ、今日はこっちで買ってくれないか?」
「む?」
俺の言葉に訝しげな表情を浮かべながら小首を傾げるローザ。その姿だけを見れば愛らしいのだが、本性を知っている俺からすればそのギャップに若干引き気味だ。
だが、両腕を前へ倣えよろしく突き出していることで、彼女の持つ女性的な二つの果実が強調されてしまっている。その光景に他のプレイヤーの視線(主に男)が集中していた。中には「破壊的なエロさだ」だの「一度でいいから触ってみてぇ」だのという男の欲望丸出しの言葉が聞こえてくる。それを聞いた女性プレイヤーからは「サイテー」だの「これだから男ってやつは」だの「いっそもげればいい」といった言葉もまた俺の耳へと届いていた。
「えっと、ここでいいかな。ローピンさん、ここに無人販売機設置してもいいですか?」
「ああ、これは先生。ええ、もちろんいいですとも!!」
「その先生ってのはやめてくださいよ」
「何をおっしゃる! 私に料理人としての新たな道を示してくれたお方を先生と呼ばずしてなんと呼ぶのですか!!」
そう高らかに宣言したローピンさんの顔は実に清々しかった。この数日ローピンさんの食堂で料理を作らせてもらっているのだが、彼もまた一料理人として俺の作った料理に興味が沸いたらしく俺の調理をよく見学していた。そのあまりの熱心さに「よかったら作り方を教えましょうか?」と声を掛けると、食い気味に「是非、お願いします!!」と言ってきたため、いつも現実世界でやっている基本的な料理の方法を教えると、どうやら目から鱗が落ちる思いだったらしくいつの間にか俺のことを先生と呼ぶようになっていたのだ。
兎にも角にも、彼の料理に対する情熱に苦笑いを浮かべながらも無人販売機設置の許可を貰ったので、さっそく設置してみることにした。
「えーと、ここに設置をして……オッケー。で、一人当たりの購入制限は商品一つにつき三個までと……」
メニュー画面から、無人販売機の項目を選ぶと設置する場所を指定してくださいと出たので、設置の許可をもらった場所を選択する。「出品する商品を選んでください」とメッセージが表示されたので、適当に商品を選択していく。ちなみにこの数日間で新しい料理を三品作ったのでそれもラインナップに追加しておく。ちなみに商品の一覧はこんな感じだ。
【商品一覧】
・お子様ランチ 1個 600ゴル
・ホットケーキ 1個 200ゴル
・ハンバーグ 1個 250ゴル
・スフェリカルラビットのステーキ 1個 300ゴル
・スフェリカルラビットの唐揚げ(5個で1セット) 1個 150ゴル
・塩おにぎり 1個 60ゴル
・焼きおにぎり 1個 75ゴル
・ゲイルウルフのボーンステーキ 1個 280ゴル
現在の料理の相場がいまいちわかっていないので、この値段が安いのか高いのかはわからないが、少なくとも原価を大幅に上回っているためどれを買ってくれても確実に黒字になる。今後の需要も考慮して気持ち高めに設定したつもりだが、原価の数倍という値段設定に少し戸惑っていた。
一人のプレイヤーが独占しないように、一回の購入で選択できる個数は一人三個までとさせてもらった。ちなみに、一度購入してから再び購入できるようになるまで六時間ほど時間を置かないといけないため、再び並ぶプレイヤーは出てこないはずだ。おにぎりはもっと購入できる数を増やしてもいいかもしれないが、何分初めての試みなので様子見として全商品三個までとさせてもらった。
「よし、これで設置完了っと」
各項目を設定し終わると、指定した場所に食券購買機のようなものが出現した。どうやらこれが無人販売機らしく、ファンタジー風なAFOにはあまりにハイテクノロジー過ぎて場違い感が半端ない。
「……まあ、いいか。よし、じゃあここから買ってく――」
そう言いながら、俺が振り向くとそこにはすでに列ができていた。どうやら、その場にいた全てのプレイヤーが俺が無人販売機を設置したのを見るや購入のためすぐに列を作ったようだ。
「ニシシー」
「……まあ、どうぞ」
当然ながら先頭にいるのはローザだ。得意気な顔で笑い掛けてくる顔に若干苛立ちを覚え、頭にチョップを落としたいという衝動を寸でのところで抑えることに成功した俺は、邪魔にならないようにその場を離れた。
後日談だが、俺が無人販売機を設置したという情報が掲示板に広がり連日プレイヤーが押し寄せることとなってしまい、在庫の補充に対応するためさらに数日間料理を作り続ける羽目になってしまった。……どうしてこうなったのだろう? 俺はただ、無人販売機を使ってみたかっただけなのに……。
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