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初めてのVRMMO ~三十歳から始めるオンラインゲーム~  作者: こばやん2号
第三章 装備新調と初めてのパーティ
14/26

14話「新たな力と決着」



 まず初めにやるべきことは、メニュー画面の強化の項目を表示させ現在の状況を把握することなのだが、その前に――。



「三人とも、よく聞いてくれ。俺は今から新しい力を手に入れるため、メニュー画面を操作するから手が離せない。すまないが、その間奴を引き付けておいてくれ」


「わかった、別にあれを倒してしまっても構わないのだろう?」


「……? まあ、できるなら構わないが、できるのか?」



 自信満々に宣言するサトルを見て素直に倒せるのかどうか聞き返す。こちらとしては、どんな手段であれ熊を倒せればいいので、モンスターにトドメを刺す手柄は別にどうでもいい。そんなことを俺が考えていると、サトルの後ろにいた女の子たちが彼に接近する。そして、二人とも片足を上げるとその足をサトルの尻目掛け繰り出した。



「ぶべっ」


「はいはーい、サトルの言うことは流してくれて構わないから」


「そうね気にしなくていいわよ。……まったく、素人にそのネタが通用するわけないじゃないの」



 二人に蹴られたことで、まるでカエルの潰れたような声を漏らしながら、サトルは顔から地面に突っ伏した。そんなことはお構いなしとばかりに、彼の言葉をうやむやにしようと二人が俺にフォローの言葉を掛けてくる。……まあ、倒せるのなら最初からやってるだろうし、きっと彼なりにこの場を和ませようとしてくれたのだろう。もっとも、今この状況で和みは必要ないのだが。



 こんな状況の中にあっても、熊が襲ってくることはなかった。こちらを脅威と判断したのか、はたまたダメージの蓄積で動こうとしなかったのかそれは定かではないが、そのお陰で三人に指示を出すことに成功したのでよしとする。



 復活したサトルと共にシズクとアンは俺の指示に従い熊に向かっていく。三人とも俺の操作が終わるまでの時間稼ぎをする腹積もりらしく、無茶な立ち回りをせず牽制しながらの見事な連携で熊の攻撃をいなしている。そんな三人を頼もしく感じながら、俺はメニュー画面に目を落とした。



(今溜まってるSPは354か、よしギリギリいけるぞ!)



 俺がやろうとしていること、それはスキルのレベルアップだ。サトルたちと一緒に北の森でゴブリンを狩り続けた結果、気付けばそれだけのポイントが溜まっていたのだ。それに加え、俺のところに連日やってくる「ステーキクレクレ」の連中のために調理した分の残りのポイントも含まれている。このポイントを使って【火魔法】のレベルを2から3に上げ、ゴブリンを杖で殴っているうちに取得可能になった【殴打術】も手に入れておいた。



 掲示板の情報によると、どうやらこの【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】の育成に掛かる経験値は、他のMMORPG系のゲームと比べコストパフォーマンスが悪いらしく、その最たるものと言っていいのがスキルのレベルだ。



 基本的なスキルを取得するのにSPが50ポイント掛かり、その後レベル1から2に100ポイント、レベル2から3に至っては300ポイントも掛かってしまう。SPの獲得基準が初期フィールドの草原に登場するスフェリカルラビット一匹につき2ポイントだということを考えるのであれば、火魔法のレベルを2から3に上げるのに必要なSPを稼ぐのにスフェリカルラビットを百五十匹も狩らなくてはならない計算になる。



(よし、これでいいはずだ)



 足止めをしてくれているサトルたちのためにも、すぐにSPを消費して【火魔法】をレベル3に上げ、【殴打術】を取得する。はやる気持ちを抑え、新たに手に入れた力の詳細を確認する。



【火魔法Lv3】:フレイムアロー、ファイヤーボール、フレイムテンペスト、フレイムジャベリン



【殴打術Lv1】:ストライクスマッシュ



《フレイムテンペスト》



 火の奔流が敵を包み込み、広範囲に渡って焼き尽くす 消費MP 40



《フレイムジャベリン》



 槍の形に変化した無数の火を敵目掛け投げつける。 消費MP 25



《ストライクスマッシュ》



 攻撃が必ずクリティカルヒットになり、与えるダメージがX倍になる。 消費MP 8


 ※Xは殴打術のレベル×0.1+1倍である。



 とりあえず、ある程度の能力を把握したところで実行に移る。サトルたちが奮闘してくれているとはいえ、もう限界に近づいてきており「イール、まだなのか!?」という叫び声が耳に届いた。



(ぶっつけ本番になってしまうが、やるしかない)



 これでダメなら諦めようという気持ちで、サトルたちのもとへと歩みを進める。まずは、奴の動きを封じるため今まであまり使ってこなかった魔法を使用する。



「【バインド】!」



 【阻害魔法】を取得した際に最初に覚える魔法で、一定時間相手の動きを封じ込める効果がある。スキルレベルが上昇すればするほど拘束時間が長くなるが、今のレベルでは持って三秒が限界だ。だが、その三秒が今の俺にとってはとても貴重なものであるのは間違いない。



「全員下がれ!!」



 まずは労いの言葉を掛けるべきだろうが、時間が無いため少し乱暴な言い方になってしまった。だが、三人とも今の状況を理解しているため、そのことに目くじらを立てることなく速やかにその場を離れる。三人がその場から退いたのを確認すると、すぐさま杖を構え魔法の詠唱に入る。



「『我が盟約に従い、火の奔流よ、顕現せよ。そして、目の前の敵を焼き尽くせ』! 【フレイムテンペスト】!!」



 詠唱が成功し、杖の先から火の奔流が放出される。激しく燃え盛る火は、未だ身動きの取れない熊に無慈悲にも襲い掛かった。



「ガァアァァアアアアアア!!」



 火は、奴の毛と皮を焼き尽くし辺りに肉の焼ける匂いが漂う。それだけに留まらず、火の奔流は熊がいた辺り一帯を焼け野原へと変えてしまった。圧倒的な攻撃にさしもの熊も地に伏してしまった。



「や、やったー!」


「イール、やったじゃないか!!」



 俺の魔法によって熊が倒されたのを見たシズクとサトルが飛び跳ねるように喜ぶ。アンも飛び跳ねてはいないが、安堵の微笑みを浮かべているところを見るに喜んでいるのだろう。



 だが、俺は理解していた。あの程度の攻撃で熊という体力オバケがやられないことを……。



「三人とも、まだ終わっていない」


「え?」


「それって……」


「まさか」



 俺の言葉が真実だと証明するかのように、地に伏したはずの熊がむくりと起き上がる。そして、耳が痛くなるような大咆哮を上げると、そのままの勢いで突進してきた。この時、奴のステータスを確認すると【狂乱】という状態になっていることが判明した。【狂乱】とは、取説の説明によればボス戦においてボスの残り体力が一定数を下回るとその状態に移行し、攻撃力と素早さが上昇して防御力が低下する状態になるというものらしい。



「やはり、倒しきれなかったか」


「どどど、どうすんだよイール!?」


「っ!? 三人とも逃げるんだ!」

 


 狂乱状態となった熊の俊敏な動きは速く、地面を蹴り跳躍したかと思った瞬間、両腕を地面に叩きつけた。その衝撃と振動が俺たちを襲い、いとも簡単に吹き飛ばされる。その衝撃は凄まじく、七割近くあった俺たちのHPが一割以下にまで持っていかれてしまった。



 だが、俺たちにとって幸運だったのは、熊の直接攻撃をくらわなかったことだろう。もしも奴の攻撃を直でくらっていれば、ほぼ間違いなく死んでいた。



「グォォォオオオオオ!!」


「うっ……まだだ!」



 動きの鈍った体に鞭打って立ち上がる。だが、敵がそれを待ってくれるわけもなく、再び突進しようと身を低くした。ここで俺は最後の賭けに出るべく詠唱を開始する。



「『火よ、全てを蹂躙せし無数の刃となりて、我が敵を討て』! 【フレイムジャベリン】!!」



 俺の詠唱が完了したのとほぼ同時に、熊が突進してくる。すると、俺の頭上に三十以上の短槍の形をした火が出現した。俺が杖を振り下ろすと、その意志に従うように熊がいる方へと殺到する。突如現れた無数の火の槍に一瞬怯んだ熊は、こちらに突進してきていたことが裏目に出てしまい槍の弾幕に晒されてしまった。



(ここだ! ここで突撃するんだ!!)



 先に放った【フレイムテンペスト】によって残りの熊のHPは三割にまで減っており、【フレイムジャベリン】によって残りのHPは確実に減少していた。だが、俺自身それだけでやつがくたばるとは思えず、ダメ押しの一撃を与えるため敢えて突撃したのだ。



 従来の魔法使いであれば、【フレイムテンペスト】を放った時点でHPの残りが一割五分になり、今やつが受けている【フレイムジャベリン】で残りのHPが0になっていただろう。だが、サトルたちから聞いた話では、APを振り分ける際に大抵の場合自分の職業に影響するステータスを強化するらしい。俺の場合、本来魔力とMPにそのAPを振り分けるところを、攻撃力や防御力などの魔法使いの弱点ともいえる耐久や物理を補うために使っているため、並みの魔法使いよりも魔力の数値が低い。加えて、魔法使いが取得するべきスキル【魔力強化】ではなく【身体能力向上】を取得してしまっていることも、【フレイムジャベリン】で止めを刺しきれない要因となってしまっていた。



「うおおおおおおお!!」



 今にも倒れてしまいそうな体をなんとか動かし、熊へと肉薄する。そして、フレイムジャベリンをくらい身震いしている隙を狙って、最後のカードを切った。



「トドメだ! 【ストライクスマッシュ】!!」



 それは、例えるなら野球のフルスイングのようなモーションだ。杖をバットに見立てて、隙だらけの熊の頭部を躊躇いなく打ち付けた。頭部に杖がめり込むと、確かな手ごたえと同時にやつの頭蓋骨が砕ける感触が伝わってくる。この時点で熊のHPが0になっていなければ、やつの反撃で俺たちは全滅するだろう。



(どうだ……どうだ!!)



「……」



 その沈黙が永遠に感じられるほど長く感じてしまうほど、長い沈黙が続く。そして、熊が四つん這いの状態から二足で立ち上がった。



「だめか……」



 熊の動きを見て、HPを0にできなかったと諦めたその時、やつに動きがあった。



「ガアアアアアアアアア」



 それは、言うなれば断末魔の叫びのように聞こえた。よく見てみると、熊のHPを示すメーターが灰色になっていた。それが示すのは、即ちHPの残りが0になったという証でもあった。そこから堰を切ったように、熊の体が光の粒子へと変わっていきやがて消滅してしまった。



(勝った……のか?)



 未だに自分が勝ったことを疑いつつも、次の瞬間それが確信へと変わるメッセージが表示される。



『【フォレストワイルドベアー】を倒した。XPを1500ポイント手に入れた。JPを500ポイント手に入れた。SPを300手に入れた。MVP報酬としてAP20ポイントを手に入れた』



 そのメッセージを受けて、ようやく戦いに勝利した実感が湧いてくる。……そうか、勝てたのならそれでいい。そう思い俺がその場にへたり込んだと同時に頭の中にアナウンスが流れた。



『お知らせいたします。エリアボス【フォレストワイルドベアー】が初討伐された記念として、MVPプレイヤーに【熊殺しベアーキラー】の称号が与えられます。それに加え、初めて称号を獲得したプレイヤーに与えらえる称号【先駆者パイオニア】も与えられます。尚、このアナウンスは全てのプレイヤーに通知されるものですのであしからず』



 ……どうやら俺は【熊殺し】になったらしい。

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