12話「パーティ結成と森の恵み」
商業区から一転して公共区へとやって来た。目的は言わずもがな冒険者ギルドだ。
ギルド内に入ると、プレイヤーの姿がちらほらありクエストが貼られているードを確認したり、テーブルと椅子が設置されている休憩所スペースで話し合いをしていたりと様々だ。
そんなプレイヤーの姿を尻目に、俺は貼られているクエストを確認しようとボードに向かっている最中にとある三人組の姿を視認する。
「だから、もう一回。もう一回挑戦してみようぜ?」
「どうせまた同じだって。ゴブリンにボコボコにされて死に戻るだけだよ」
「ここは大人しく草原でポイント稼いでレベルを上げるか、二つ目の街を目指した方がいいと思うんだけど」
そこにいたのは、俺がこのゲームを開始して二日目、ギルドを後にしようとした時にすれ違った男一人女二人という編成のリア充さんのグループだった。なにやら男が女二人と何かで揉めているらしく、険悪とはいかないまでも雰囲気が刺々しい。
(まあ、触らぬ神に祟りなしって言うしな、関わらないのが無難だな)
そう頭の中で思いながら、女二人の後ろを通ろうとした時に事件が起こった。
「じゃあ、どうしたらもう一回森に行ってくれるんだ?」
「そうね、あと一人臨時のパーティメンバーがいれば行ってもいいかな」
「だったら、彼にお願いしようよ」
「うぇ!?」
まさに絶妙なタイミングだった。俺が彼女たちの後ろを通ろうとした瞬間、女の一人が俺の腕を取り自分の隣に引き込む様に腕を組んできたのだ。彼女が身に着けている紺のローブから体のラインは隠れていたのだが、彼女の持つ女性的な二つの膨らみは隠しきれていないようで組まれた腕に幸せな感触が伝わってくる。このままその感触を楽しんでいたいという欲望をかなぐり捨て、断腸の思いで彼女の腕を振り払い抗議の声を上げた。
「ちょっと、いきなりなんですか?」
「あ、ごめんなさい。ちょうど私たちの後ろをあなたが通ったからつい」
「アン、さすがにそれはないんじゃないかな?」
「てへぺろ☆」
「……」
どうやら、俺の腕を取ったのは半ば条件反射的なものだったようで他意はなかったようだが、だからといっていきなりそんなことをされればやられた人間は堪ったものではない。俺の無言の重圧と、呆れたように見つめるジト目に自分のしでかした行動を反省したのか、首を竦めながら彼女が謝ってきた。
「おう、俺の仲間がすまない。俺はサトル、こっちのおっぱいの小さい方がシズクで、デカイ方がアンだ」
「ちょっとぉー、なによその下品な紹介の仕方は!」
「まるで私たちのアイデンティティーが、おっぱいだけだと言ってるみたいに聞こえるんだけど?」
「い、いやっ、そういう訳じゃなくてだな」
「「ちょっとそこに正座しなさい!!」」
そこから、有無を言わせず正座させられたサトルは、約三分に渡って彼女たちの説教を受ける羽目になってしまった。説教の時間が三分と短かったのは、俺が三人の成り行きを黙って見ていた時間であり、「用がないなら、もう行ってもいいですか?」という俺の言葉で我に返ったためだ。その後、彼女たち二人から謝罪の言葉を受けつつ、用件を聞くことにした。
「実は、この街の北にある森を三人で攻略していたんだけど、森に出現するモンスターが強くて太刀打ちできなかったの。それでも死に戻ったあと二回挑戦して、四回目の挑戦をしようってサトルが言い出したから、三回やって駄目だったんだから諦めようって言ってるところだったの」
「それで、どうすればもう一回行ってくれるのかってシズク聞いたら、あと一人臨時のパーティメンバーがいればもう一回挑戦してもいいよって話が決まったところに」
「俺がたまたま君たちの後ろを通ったということですか?」
俺の答えに二人はこくりと頷く。
彼女たちの言い分を聞いて、俺は考えをまとめるため思案に耽る。まず、彼女たちの言った北にある森というのは、十中八九俺がゴブリンにボコられた森のことだろう。実のところ、俺も北の森に関してはある程度レベルが上がれば再挑戦するつもりでいた。だが、そのための準備をしようとした矢先に「ステーキクレクレ事件」に巻き込まれてしまい、この約一週間ステーキの調理ばかりでまともな活動ができずにいたのだ。しかし、そのお陰というべきなのかは甚だ疑問だが、稼ごうと思っていたポイントが溜まり予定とは違ったが、ある程度のレベルを上げることに成功していた。
加えて、再挑戦する際に気を付けるべきことはなにかと思った時、再び死に戻ってしまうということだった。そのリスクを回避するにはどうすればいいのかと考えた時に思いついたのが、他のプレイヤーと協力して北の森を攻略するという結論だった。しかしながら、今まで単独行動を取ってきた俺に親しいプレイヤーはおらず、どうすればいいのかと思っていたところに彼らに出会ったのだ。
「実のところ、俺も北にある森は一度行ってみたんですが、見事にボコボコにされてしまいまして再挑戦の機会を窺っていたんですよね」
「え、それじゃあ」
「もしよければ、ご一緒させてもらってもいいですか?」
俺がそう言うと、三人とも笑顔になり「やったー」と言いながらガッツポーズを取った。そんな姿に微笑ましさを感じながらも、自分がまだ自己紹介していなかったことに気付き慌てて名乗った。
「申し遅れましたが、俺はイールといいます。職業は魔法使いです。もしかしたら足手まといになるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「サトルが紹介してくれたけど、シズクよ。よろしくね」
「アンよ。よろしく」
「じゃあ、さっそくパーティ申請送っとくから承認よろしくな」
サトルがそう言った直後、メニュー画面に「パーティ申請を受け付けますか?」というウインドウが表示される。どうやらこれで一時的にパーティとして認識されるようだ。パーティ加入後、北の森関連のクエストをいくつか受けると、そのまま森へ向かうことになった。
こうして、リア充三人組(?)であるサトルたちと臨時のパーティを組むこととなった。
善は急げとばかりに北の森へとやって来た俺たちは、すぐにゴブリンたちに遭遇した。あの緑色の忌々しい奴の顔を見るとあのときのトラウマが蘇りそうになったが、俺以外にプレイヤーがいるお陰なのかそれとも俺自身が強くなったからなのかはわからないが、難なく撃破することに成功する。
「やったー、倒せたね!」
「メンバーが一人加わるだけでこうも違うのね」
「いやいや、イールがすげぇんだと思うぞ。実際イールが戦ったらほぼ一撃だったじゃないか」
そうなのだ。いきなりの奇襲に多少驚きはしたものの、新しく新調した装備の試運転も兼ねて軽く戦ったのだが、思いのほかすんなりと倒すことに成功していた。この時初めて知ったことがいくつかあるのだが、どうやら俺のような物理攻撃主体に戦う魔法使いはいないらしく、俺がゴブリンに突進して行くと彼らに驚かれてしまった。初遭遇からの戦闘終了時にいろいろと質問されたので、正直に答えたらなんだか呆れた視線を向けられた。
「それにしても、魔法使いなのにサトルよりも前衛らしいってどんだけなのよ」
「ほんとよねー、いっそのことサトルとリーダー交代しちゃう?」
「ちょっ、なんで俺が追い出されそうになってんだよ! リーダーは俺だろ!?」
「だって……ねぇ」
「ねぇ……」
「あははは」
和気藹々とした雰囲気で北の森を慎重に攻略していく。二回目の攻略のためどこになにがあるのかわからなかったが、今回四回目の攻略となる彼らがいるため大体の地形を把握することができた。そして、前回訪れた時と違う点がもう一つあってなんと素材が手に入ったのだ。どうやらこの森で素材を集めるためには【採取】のスキルが必要になってくるらしく、そのために前回は何も見つけることができなかったのだが、今回はいろいろと手に入れることができたのだ。ちなみに手に入れた素材はこちら。
【デトクス草】:解毒薬の材料となる薬草。そのまま使用すれば30%の確率で毒状態が治る。 ランク:3
【レムングマッシュルーム】:麻痺解毒薬の材料となるキノコ。そのまま使用すると麻痺状態となり動けなくなる。 ランク:3
【スリラーエリンギ】:様々な効果をもたらしてくれるエリンギ。食用。 ランク:3
【レッドラズベリー】:甘酸っぱい味のする赤い果実。森などで採集できる。食用。 ランク:4
「今回はいろんな素材が手に入ったな」
「これも【採取】持ちのイール君のお陰ね」
「イールくん様様だね」
「喜んでいただけたようで、なによりです」
その後も森での採集とたまに出現するゴブリンを倒しながら森を進んで行く。しばらく歩いていると、少し開けた場所を見つけたのでそこで休憩することになった。腹が少し減っていたので、自分用に調理しておいたステーキを食べようとしたら物凄い視線を三人から向けられた。お近づきのしるしにステーキを進呈すると、三人ともぺろりと平らげてしまった。結局それだけでは足りなかったため追加でステーキを出してやり、最終的に三人とも計三枚ずつステーキを堪能した。
「まさか、イール君があの【ステーキ料理人】だったとはね」
「ホントにびっくりしちゃったよ」
「ステーキ美味かったよ。ありがとう」
シズクの口から【ステーキ料理人】という言葉が出たため問い質すと、どうやらステーキを振舞ったプレイヤーが掲示板で話題を呼んでおり、その通り名として呼ばれている名がステーキ料理人ということらしい。こちらとしては、このゲームで最初に作った料理がたまたまステーキだっただけなのだが、そこは気にしたら負けなのだろうと結論付け深く考えないことにした。
それから、ステーキの代金としてお金ではなく今回採集した素材の内クエストで必要な分を除いた素材全てを俺が貰えることとなった。別にタダで構わないと言ったのだが、「タダより高いものはない」と断固拒否されてしまった。
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