終章
アーレンの王都の城壁の上、アルネリアとパウラは並んで桃の実を食べていた。
「さっき果物売りのおじさんに『この桃小さいね』って言ったら1個おまけしてくれた」
「相変わらず最低ですね。それにいつまでその変装続けるんですか」
パウラは、少年の服を着ているアルネリアに向かっていった。
一度味をしめたら少年の服はやめられない。……と、ことあるごとに変装をしては城を抜け出すアルネリアなのである。
「あ、ガリマーロさんだ」
アルネリアは、城の濠周りを騎士姿で歩くガリマーロに手を振った。
「それにしてもガリマーロさんは意外でしたね」
「お父さん大神官とか。思ったより超大物の息子で、たまげたね」
「見た目と違ってけっこう繊細だなーと思ってたけど」
「大神官の息子で魔法使えなかったら、立つ瀬ないよね。私だって国から逃げるよ」
「あと、ソレイヤールに残らなかったのもびっくり」
「そうそう。『ビルギッタを守ります』って言い出したときには腰抜けたよ」
「母上なんか守らなくても大丈夫だって言うのに。どんだけ騎士道好きなんだか」
少女たちの口からは、奔流のように言葉と笑い声があふれ出ている。
「それにしても、本当に気がつかなかったんですか、王太子殿下の件。ご自分だって王女なんだから、お妃様候補者になる可能性考えないとダメでしょ」
「いや~それがすっかり。姉上を斡旋する! と思ってたからそれしかなかったよ」
「ティリアーノさんなんか、『賢者が現れて真実の愛を教えて、魔法が解けたよ! 僕の占いの通りになったよ』って鼻膨らませてましたけどね」
「あんなの絶対適当に占っただけでしょ!」
パウラは、そっとアルネリアを肘でつついた。
「でも、お好きでしょ? 殿下のこと。私たちもおふたりはなんかいい感じだなーと思って見てたんですよ」
「ま、まあ……嫌いじゃない……かな」
アルネリアは、頬を染めてあからさまに顔を背けた。
「もう、素直じゃないんだから。食べること以外は」
笑っていたパウラが、不意に背筋を伸ばした。
また窓から白い煙が上がっている。ミーアからの合図だ。
「ユシドーラ様がお呼びのようですよ」
しかし、アルネリアはそこから動かなかった。
「いいよ、まだ。待たせておこう」
「いいんですか?」
アルネリアは黙って頷いた。
秋になったらアルネリアは16歳になる。そうしたら否応なく、面倒な大人の世界にいれられてしまうのだ。
こんなふうに、無邪気に話していられる時間もなくなるだろう。
気ままな行動も、とがめられるようにもなるだろう。
だから今だけは、大人でもなく子供でもない少女の時間を、かみしめていたい。
アルネリアが見上げた夏の空を、ヒバリが声高く鳴きながら飛んでいった。
了
物語はこれで終わります。
ここまでお付き合いありがとうございました。
これからも書きたいものを書いていきますので、また読んでいただけたら大変うれしいです。




