零滴『しずく』
『アシリレラ』とは、アイヌ語で『新しい風』という意味です。『アシリ』が新しいで『レラ』が風。
読んで頂いた人の中に、知らない土地で吹くような、心地良いそよ風が通り抜ければ幸いです。
『しずく』
ホムンクルス。
蒸留器に人の精液と血液を入れ、四十の朝陽を与えて腐敗させ、馬の胎内で育む生命体。
埃舞う部屋に並んだ蒸留器に、この世の終わりが沈殿している。
終わりを齎すのは、世界のためであり、全ての生命の救いのためである。
もし神がいるのなら、なぜこのような世界を作ったのか。ただ終わるだけがこの世界の定めなのか。
錬金術師は知りたくなった。もし、やがて終わる世界で、生き続ける意志だけが残り続けたらどうなるのか。全てを失ってでも生きる意志とは、その力とは何なのか。何のためにあるのか。
光を、広げたくなった。
それはたった一つの反抗心と好奇心。
錬金術師は蒸留器のふたを開け、そこに、世界樹から採ったハーブをひとひら加え入れた。
登場人物紹介
『アシリレラ』
とある断崖絶壁の屋敷に、たった一人で隔離されている、小柄でたおやかな亜麻色の長髪の少女。年齢は十五歳程。
穏やかな性格で争いは好まないが、時折頑固な一面を見せることもある。年齢に見合わずしっかり者で、家事も炊事も一通りこなす。
聡明で気立ても良いが、幼い頃から屋敷で暮らしているため世間の常識にはとことん疎い。
屋敷に定期的に運び込まれる様々な物資を用いて小物を作るなど、手先も器用である。
かつて一度だけ屋敷を訪れた詩人は彼女を『光の花弁の中に立つ、夢に見るような美人』と称したものの、容姿について誰かに触れられたのはそれっきりである。
普段から和装のような格好をしているが、オフショルダーであったり裾が膝上丈であったりと、好みに合わせてアレンジしている様子。
ある日、護衛として屋敷にやって来たエインと出会い、その日から彼女の運命は大きく変わってゆく。
エインとは程良い距離感の中仲睦まじく暮らしている。時々喧嘩もするが、それもいつしか、二人の仲をより強く結ぶための糧となっていった。
彼女の出生や定めについて知っているのは極一部で、政府は彼女を最重要護衛対象に指定している。