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俺は主人公にはなれない  作者: 鬼ヶ島ヤマキ
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episode1 二章「はじめの一歩」


――――――「う……うぅ……」


リクは重い体をそっと起き上がらせた。


「はぁ〜zzzイテテ……俺は一体なにを……って……ん?……」


リクの右手には微かな温もりを感じ、何か柔らかく幸せな感覚があった。

リクはゆっくりと幸せを感じる右手に目をやると、その手は一緒に暗闇に落ちたと思われる少女の胸部に添えてあった。


「うわあああああ!!!」


とっさに声がでてしまいリクは無意識に土下座をしていた。

しかし彼女は起きる気配がなく、ぐっすり眠りに着いている。

「ふぅ」っとひと息着くとリクは、目の前に広がるアニメでしか見たことのないファンタジーな世界に意識を奪われていた。


「す……すげぇ……これが本当の……異世界……」


しかし、どうやらリクが転移した場所はハズレだったようだ。

時刻はだいたい午後5時くらいだろうか日が沈み始め、空がオレンジ色に輝いている。


ここら一体は草原で巨木が五十メートルごとに一本生えている。

遠くには街が見えた。しかしその距離は大したもんで歩いていくと、2日は掛かりそうであった。


けれどそんな気の遠くなることを考えながら、今目の前に広がる美しい世界を全神経を通して身体中に染み渡らせていた。


しかし、そんなリクをよそに少々妙な声が聞こえてきた。


「今日の収穫はどうだった?何かいいもん取れんだろうな?」


「いやー今回はダメだったわ、仕掛けた罠にも掛かってなかったわ」


(人なのか?)


リクは岩陰に隠れ、声が聞こえた方をそっと覗いた。

すると、リクとゴブリンはジャストタイミングで目が合った。


「「あ」」


リクと目のあったゴブリンは同時に声を漏らし、しばらく沈黙が続いたが、


「しょ……しょく……」


何を言おうとしたか察したリクはその場から瞬時に離れた。


「食料だぁぁぁ!!」


「やっぱりかぁ!!」


飢えたゴブリンはヨダレを垂らしながら片手に持っている棍棒を構え、容赦なく襲いかかってきた。


「待ちやがれ糞ガキー!!」


リクは少女を抱え、猛烈に走り出した。

ゴブリンも用意していたであろう夕食を放ったらかしにして、リクを追いかけていた。


しかしそんな恐怖の時間も長くは続かなかった。

後ろにゴブリンの姿が見当たらないのだ。

(毎日の走り込みは伊達じゃなかったな……)

リクはクタクタで歩く気力もなく彼女を抱えるので精一杯だった。

リクは近くにあった洞窟に隠れ、疲れきった体を癒すことにした。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「つっかれたー!!」


リクは洞窟の中で溜まっていたストレスを声に出して発散した。

すると隣に眠っていた赤毛の少女が目を覚ました。

「ふぁ〜zzz」


「起きたか?体は大丈夫か?」


「どうしたんれすか?〜zzz」


起きたばかりの少女は、目を掻きながら疑問に疑問をぶつけてきた。


「俺たち異世界に来ちゃったらしいぞ?」


「異世界?そーなんですか〜それは大変ですね〜」


「大変ですねーじゃねぇよ!!お前までこっちの世界に来ていいのかよ!」


「ふぇ?私?私は〜……ってうぇぇぇ!?」


少女は突如大声をあげ、その声は洞窟中に響き渡った。


「なんで!?あたしまで!?」


「知らねぇよ!つーかお前、あの変な喋り方どこいったんだよ」


「喋り方?そんなものどうでも……ってあれ、なんだか頭がボーっと……」


少女は急にフラフラと倒れかけ、リクは少女の体を支えた。


「おい!大丈夫か?」


「はい、だ……大丈夫です……うぅぅぅ……」


少女は小さな唸り声をあげ、震えていた。

すると突如少女の瞳が輝きだし、青く澄んだその瞳からは異様な人影のようなものが見えた。


「な……なんだこれは!?」


リクが恐る恐る覗いてみると、鎧を着用している言ってしまえば魔王のような人物がこちらを見ていた。


「おい、誰だお前は」


「異世界人よ……我はサタン……元魔王だ……」


リクはその発言に嫌な予感しかしなかった。

なぜならこういった魔王などと言うやつが出てくると、ろくでもないことが起きると知っているからだ。


「で?その『元』魔王様がなんのようだ?」


「この世界を救って欲しい……」


「やっぱりかよ……まるでラノベだな」

(いや待てよ?よーく考えたらこの展開、近くに美少女……まさか俺……ラノベ主人公にでもなっちゃったわけ!?)


「ラノ……べ?聞いた事がないな」


リクが思わず漏らした言葉に戸惑う、自称『元』魔王。

戸惑う魔王をみてリクが曲げた話を元に戻す。


「いやなんでもない、で?こんな綺麗な世界がなぜ救いを求めている?」

(実際なんとなく分かってはいるが)


「戸惑いを見せないのだな……」


「いやいや、そりゃ少しは戸惑うよ?けど俺が察するに、今お前が話そうとしている話は俺にとってもこの世界にとっても少なからず大切だと思っただけだ」


「そ、そうか……珍しいやつだな」


やけに飲みこみのはやいリクにまたもや魔王は戸惑いを見せた。


「そんで?さっきの話詳しく聞かせて貰おうじゃねぇか」


「そうだな……実は、ほんの数年前まで、この世界は平和だった。しかし去年、魔王が我サタンからサンドレアスという男に変わってから世の中は一変した。以前結んでいた人間と魔人族の者達との共存条約も王により撤回され、人間を殺そうと企んでいた一部の魔人族が一斉に攻撃を仕掛けた。それに人間も対抗し戦争に発展した。さらに新魔王の幹部達は自分を神だと人間に信じ込ませ、洗脳された人間達は宗教を作り度々騒動を起こしていったのだ。最終的に犠牲者は増え続け防壁が建てられる街もでき、世界は狂い洗脳されてしまったのだ。」


「なるほどな、だがそんな荒れ狂った世界を異世界人である俺に、どう変えろと言うんだ?」


「それはだな……我にも正直わからない。魔王を倒したところで実際なにも変わらないだろう」


「は?お前何言ってんだ?方法がないのにどうやって変えろと……」


「いや、きっとお前ならできる。できるはずなのだ。お前にはその素質がある。辛い経験をしてきたお前にはな……」


「お前がなんで俺の過去を……うっ」


リクが話そうとした途端、少女の瞳がとても強く発光しリクの目を眩ませた。


「くっそなんなんだよ……」


「こうして話していられるのも時間の問題……お前に一つ力をやろう」


「力だと?」


「化身だ……しかしその化身は罪人の化身だ。」


「罪人?その化身はどんな罪を犯したんだ?」


「裏切りだ……」


そう告げると少女の瞳が暗く消えていくのがみえた


「まっ……待て!」

(説明不足すぎんだろおい)


自称『元』魔王はリクに妙な力を与え消えていった。

輝いていた少女の青い瞳は徐々に暗くなりもとに戻った。

(ったく俺にどうしろってんだよ、いきなり俺に世界を救えだなんて……やっぱ俺ラノベ主人公になったのか!?……って、んなわけないか)

リクはクタクタでその晩、ぐっすりと眠った。



リクの朝は早い。

5時半に起きランニングと軽い筋トレを行っている。

そのため異世界での今日もリクの朝は早かった……


「ふぁ〜zzz日差しが強いな……」


メラメラと光を放つ太陽は今にもこの世界を食べてしまいそうだ。

リクはベッドがないことに不思議な感覚を覚えながら体を起こした。


「そうか……俺……異世界に来たのか……」


「ふぁ〜おはようございます。」


「おう起きたか、体どこも悪くないか?」

(あれ?このやりとり昨日もあったよな?)


「はい、全然大丈夫です」


彼らは昨日の夕方と全く同じやりとりをし、背伸びをした。

(しっかし昨日のあれは……いや彼女に話すのはよそう、また倒れられても困るし)

リクは一つの些細な疑問にきずく。


「お前……名前なんだっけ?」


「私の名前……忘れました。」


「は?」


リクは声を漏らし驚き少々戸惑いを見せたがファンタジー『あるある』だと、自分に言い聞かせ、何となく仮説を立てた。

(きっと暗闇に落ちた際に何らかの現象によって記憶が消えたのだろう)

これがあってないとしても恐らく近い理由だろうと考えた。


「へ……へぇー」


「あんまり驚かないんですね」


「いや、驚いてるよ!?驚いてるけど……」


リクにとっては異世界ファンタジーあるあるすぎて驚きたくても上手くリアクションがとれなかった。


「まぁよし!ならなんて呼べばいい?」


「ウーン……」


少女は細い指を自分の頬に当ていかにも、私考えてます!みたいポーズをとった。


「あなたが名前をつけてください!」


少女は満面の笑みで命名を求めてくる。


「ろくな名前付けられないぞ?俺、それでもいいのか?」


「はい!」


「本当に?」


「はい!」


「うーんそーだなー」

(いや、これ絶対あとで後悔するやつだゲームでキャラ名つけるのとか苦手なんだよなぁ)


リクは深く悩み続け、しばらくして……


「うし、お前の名前は……チルだ」


「チルですか……理由とかあります?」


瞳を輝かせいかにも理由の欲しそうな顔をしてこちらを見つめている。


「あ……あるぞ!」


「本当に!?やったぁ、教えてください!」


適度に着いた胸を揺らしながらぴょんぴょんと上下に飛び、喜びを体全体で表している。


(なんだ、こいつ可愛いい……)


「そーだなーチル……あ、チャイルドを英語表記にしてチルドにして……最初の二文字でチル……だ……」


「それバカにしてません?私が子供っぽいって」


「そそそ……そんなことない!俺は真面目に付けたつもりだ……」


「そーなんですか……ありがとうございます!チル私の名前……大事にしますね!」


「お、おう」

(チョロくてよかった!チョロくて本当によかった!)


リクは一安心し、心のなかで(もう二度とこんなことしたくない)とフラグを立てるようなことを思ってしまった。


その後リクとチルは、身支度をすませ街を目指し歩き出した。


「よし!じゃあ早速街を目指して出発だぁ!」


「は、はい!街に行くなんて聞いてませんでしたけど……」


「あぁ、ごめん……」


こうして街を目指して二人の冒険は始まった。




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