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85話:「3頭の野獣」

丁度大和が宿の確保が終わった頃、宿の扉が壊れそうな勢いで開かれた。

扉の真横で談笑していた男性冒険者に扉が襲い掛かりそのまま床に倒れ込む。

仲間を傷つけられた連れの冒険者が仲間の仇を取ろうと扉を開けた人物を睨みつけるが

その敵意は一瞬にして鎮火してしまう。


理由は至ってシンプル、扉から現れた3人の女性冒険者が原因だ。

身に纏っている殺意にも似たオーラが彼の冒険者としての危険管理能力に訴えかけてくる。

『関われば死あるのみ』だと・・・・


3人の女性は受付カウンターにいる美青年を視認すると足並みを揃えて彼に近づく。

よくあるラブコメの展開ならばその後青年が女性たちにボコボコにされるという予想をするだろう。

だが彼女たちが敵意を向けているのは彼ではなかった。


彼女たちは彼と親しそう―――と言っても実際はただ話していただけだが―――にする女性を睨み付ける。

そして、どんな獰猛な獣でも尻尾を巻いて逃げ出しそうな女性とは思えないほどの低い声で威嚇した。


「わたしのヤマト様に手を出すとはいい度胸ですね・・・・」

「リナさん、この方あたしのナイフの錆になりたいようですよ・・・・」

「二人ともどくですのん、マーリンのとっておきの爆発魔法で・・・・」


3人が彼と話していた女性に殺意を向ける。

言葉には出してないが「私の獲物おとこに手を出すな!」という裏の言葉を含ませながら。


3人の野獣に睨まれた受付の女性は全身を振るわせながら戦々恐々(せんせんきょうきょう)としていた。

あまりの恐ろしさに彼女は自分の下半身に湿り気を帯びていくのを感じ取る。

怒り狂う野獣をおとなしくさせたのは受付の女性と話していた美青年だった。


「いい加減にしろっ!!」


そう言い放つと同時に3人、もとい3頭の野獣の頭に彼のチョップがさく裂する。

背後からの突然の不意打ちに対処しきれず、3人は悶絶しながら頭の天辺を押さえ込む。

予想だにしない出来事に受付の女性が目を白黒させていると。

そんな彼女に大和はお得意の営業スマイルを顔に張り付け柔らかな口調で答える。


「仲間がお見苦しいところをお見せして大変申し訳ありません。

 どうやらあなたの可憐さに彼女たちが嫉妬してしまったようだ・・・・」


その言葉を聞いた彼女の顔はこれまでになく赤くなり

まるで10代の少女に戻ったかのように両手を頬に当て俯く。


大和はそんな彼女に微笑みかけると、彼女が用意してくれた部屋の鍵を受け取り

この町の拠点となる部屋がある階段を登っていく。

階段の途中に気絶した男性冒険者がいたが華麗にスルーして上の階に行こうと思ったが

何かに気付いて数段階段を降りると悶絶している3人の仲間に声を掛ける。


「いい加減そんなところにいないで行くぞ!」


そう言うと彼女たちはまだ鈍痛が響く頭を押さえふらつきながら立ち上がると

まるで動死体ゾンビのようにうな垂れながら大和のあとを追いかけた。

その光景を奇異な目で見つめていた受付の女性は彼らが階上に行ったのを見計らって大きなため息を付いたのだった。






大和たちが2階に行くと数メートルほどの廊下が目に飛び込んできた。

そして、それぞれ左右に2つずつ合計4つのドアがあり。

ドアには201号室から204号室と表記されていた。


大和はそこで一度止まり受付の女性から受け取った鍵を観察する。

するとその2つの鍵には201と202という数字が彫り込んであった。

彼は「ふっ」と笑うと201号室の鍵をエルノアに投げる。

彼女が鍵を落としそうになりながらも寸でのところで受け取ると彼女たちに宣言する。


「いいかお前らの部屋は201号室、俺は202号室だ。

 わかっているだろうが、夜這いなどという無駄なことはするんじゃないぞ!」


彼女たちの日頃の行いを見ているため今回は事前に釘を刺しておく。

そんな彼の言葉に不承不承ふしょうぶしょうに頷く3人。

そして、彼女たちは自分たちにあてがわれた部屋に入室し

大和がそれを確認したあと自分も部屋に入っていった。


部屋は2人部屋のようで簡素な造りのベッドが2つに丸いテーブルに椅子

掃除が丁寧なのか塵一つなかった。

大和は両開きの窓を全開し外の空気を部屋の中に入れる。

海に近いため部屋に入り込む風に些か磯の香りが含まれているようだった。

その空気を鼻から目一杯吸い込むと大きくそれを口から吐き出す。


外の風情ある町並みを見下ろしながら新たな地にやってきたという期待と不安を胸に

彼はこの町での活動を開始するのであった。

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