77話:「不思議な霧」
現在大和たち勇者一行はアース大陸最西端の港町である【ドグロブニク】へと向かうため
着実に馬車を走らせているところだ。
彼らがバルバロたちの町から出立してから早3日が経過している。
このままの速度で進んでいけばあと2、3日後には目的地に到着するはずだ。
「ヤマト様? この間の宴のことなのですが」
「うん? なんのことだ?」
あくまでもしらを切り続ける大和。
大和の悩殺笑顔で失神した翌日リナたちは宴のことはほとんど思えていなかった。
宴ということもあり多くの酒が振舞われた。
当然町を救ってくれた英雄である大和たちには飲みきれないほどの酒が
テーブルに並べられていたのだ。
ちなみにこの世界での飲酒をしても良いとされる年齢は15歳だと聞いた。
リナ17歳、マーリン約300歳、エルノア・・・・エルノア・・・・・・ってあれ?
そう言えばエルノアって何歳だったっけ?
ふとそんな疑問が頭の中に浮かんだため本人に直接聞いてみることにした。
「エルノア、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「お前って年はいくつだったっけ? 聞いてなかったよな?」
そう言うとエルノアの顔が少し曇ったが小さく呟くように答えた。
「26です・・・・・・」
そう言いながら体をもじもじとさせどこか恥ずかしそうに俯く。
大和はほんとうに興味本位で聞いただけだったので「そっか」とだけ答えておいた。
だがそれだけで済めばよかったのだがそうは問屋が卸さない。
「あれれ~、エルノアさんって結構おばさんなんですねえ~」
その明らかに冗談めいた口調でエルノアに話しかけたリナだが
それを挑発と受け取った彼女が眉間に皺を作りながら反論する。
「そうですね。 あなたのようにお子ちゃまではなく
大人の色気を身に着けた女性ということですよ・・・・」
そのエルノアの反論によって二人の間に戦いのゴングが打ち鳴らされた。
その後の展開はいつものように大和のチョップが二人の頭頂部に直撃し事態は収拾する。
かなり脱線してしまったが話をもとに戻そう。
宴の席ではかなりの酒が振舞われていたがために三人ともベロベロとはいかないまでも
かなり酒が入っていたのは間違いない。
だからこそあの時の大和の悩殺笑顔は夢だったと勘違いする結果となり
大和がこれ幸いとばかりにそれに乗っかる形でごまかしたのであった。
だがしかし、二人はごまかせたとしてももう一人の年上の女性には通用しなかったようで
馬車を操る大和の隣に彼女がやってきて二人に聞こえないように呟く。
「この間のヤマトさんの笑顔素敵でしたですのん・・・・
マーリンはちゃんと覚えてますのん!」
そう呟くと大和は目を見開いて彼女を見た。
そこにはどこかいたずらっ子のように笑う無邪気な顔と
年下の男を掌でコロコロと転がす大人の女性の顔が垣間見れた。
その時大和は彼女には隠し事ができないかもしれないと思い
今後の彼女との付き合いを想像して思わず苦笑いを浮かべるのであった。
バルバロたちの町から出立して3回目の昼食と休憩をとったのち
再び馬車を走らせる。 御者はリナが操っている。
しばらく進んでいると前方に広範囲にわたって霧とも靄とも呼ぶべきものが広がっていた。
それを見た大和たちは3日前に聞いたバルバロたちの言葉を思い出していた。
「道中お気を付けてください。 噂によるとこの先に人を惑わす霧が発生しているとのこと。
まあ勇者殿でしたら心配はいらないでしょうがね、はっはっはっはっ!!」
そんなセリフが頭の中に響き渡っている中、馬を操るリナが霧の手前で馬車を止める。
全員馬車から降りると改めて目の前の白いものを確認する。
「霧・・・・だよな?」
「霧ですね・・・・」
「霧です・・・・」
「霧ですのん・・・・」
「霧だっぴゃ・・・・」
ってか一匹増えているノームのことは華麗にスルーしつつ率直な感想を述べ合う4人。
その言葉の通り眼前に広がっているのはただの霧にしか見えないものだ。
ただそれは自然的に発生している気象現象とは違い何者かの意図した力が働き
その場に顕現した魔法的なものという感覚があった。
つまりこの霧は誰かが何かの目的で張り巡らせた
なにかしらの効果をもたらす魔法というのが大和の最初に感じたものだった。
どうやらそれは他の三人も同意見だったようでそれぞれ怪訝な表情を浮かべていた。
「ヤマト様これは誰かが作り出したものみたいですね。
見たところ罠というよりも守り、守護するという類の魔法みたいですけど
どうしましょうか? このまま突入しますか?」
神官の立場から解釈を述べたのはリナだった。
リナの言葉を肯定するようにマーリンが続いた。
「リナさんの言う通りこの感じは罠よりも障壁、シールドやバリアといった系統の魔法みたいですのん。」
最後にエルノアが自分の意見を述べた。
「ヤマトさまどうされますか? あなたの判断にあたしは従います。
この身も心も全てあなた様に委ねておりますればっ・・・・」
途中から変な戯言に変わったので意識を目の前の霧に向けることにした。
確かにリナとマーリンの言う通り罠よりも障壁の役割を担っている感じだが
一度中に踏み込んでしまうとこの魔法をかけた術者の術中に嵌る可能性が高い。
そのことを鑑みて大和は魔法による解除ができないか試みることにした。
「三人とも少し下がってくれ!」
大和の声に従い彼から数メートルの場所まで下がった三人。
ノームはお得意の精霊空間に隠れているので心配はない。
仲間の安全を確認すると大和はまずこの霧の正体を探るべく探知系の魔法を唱えた。
「超絶級魔法 (テラント・マジック) アドバンスマジック・ディテクション!!」
【アドバンスマジック・ディテクション】、探知系魔法の中でも最上クラスに位置する魔法であり
この魔法で探知できないものはマキシム級のみとされている。
魔法が発動され大和のウインドウに情報が表示される。
魔法名
【ファントム・ミスト】
階位
【ギガント級】
効果
【この魔法の効果範囲に入り込んだ敵は術者が作り出した幻術により阻まれ
霧の向こう側に行くことができなくなる足止め系魔法である。
術者の意思次第でこの空間に閉じ込めることも可能】
とのことだった。
「ギガント級か、思ったよりも強力な魔法のようだな・・・・よし!」
大和は意を決したようにファントム・ミストを打ち破るべく更なる呪文を唱えた。
「霧散せよ! 超級魔法 (ギガント・マジック) ソーサリー・ディスパース!!」
【ソーサリー・ディスパース】、解呪系魔法の一つで
主に持続的に効果を発揮する魔法に対して有効で。
対象の魔法を一つ解除するというものだ。
大和が唱えた呪文の効果によって霧が晴れていき
まるで最初から何もなかったかのように消えた無くなった。
「流石はヤマト様、お見事です!」
大げさに持ち上げてくるリナを軽く無視すると先に進むため馬車に戻ろうとした瞬間
大和の背後から巨大な岩の塊が飛来し、彼のすぐ横を通り過ぎていったかと思ったら
その先にある森の木をなぎ倒していきようやく止まった。
「なっなんだ!?」
突然の出来事に戸惑う大和。
状況確認のためすぐさま後ろを振り返り見ると
そこにはとんでもないものが待っていた。




