66話:「魔の洞窟に向かって」
【魔の洞窟】そこはそう呼ばれていた。
大和たちが5つ目の拠点で魔物退治の依頼を引き受け
その洞窟に住み着いた魔物を討伐するため馬車で向かっていた。
「ヤマトさま少しよろしいでしょうか?」
唐突にエルノアが問いかけてくる。
何だと答え先を促す。
「あのヤマトさまはこういう面倒事はあまりお好きではないのに
今回どうして魔物退治を引き受けたのですか?」
「ああそれ私もおかしいと思ってたんですよね
どうしてですか?」
常日頃から大和を観察しているのか、彼の性質をよく理解している二人。
だがその慧眼は見事と言うほかないだろう。
確かに大和はこういった面倒臭い事は忌み嫌っている。
ただでさえ勇者として魔王討伐という面倒臭い事を
やらされているのにもかかわらずこの上さらに面倒なことをやらされるのだ。
大和の正直な感想としては「超ダルいんですけどぉーー!」と言ったところだ。
だが大和は元の世界では一端の営業サラリーマンだった男だ。
社会人として、なにより営業の必要最低限のスキル【空気を読む】ことができる男なのだ。
大和の中での理想の勇者像というものがありそれは【困っている人は見過ごせない】というものだ。
魔物に苦しめられている人がいるのであれば黙ってそれを助ける
それが大和の中での理想の勇者像であり万人が勇者に抱くイメージだと思っている。
本心では面倒臭いと思いながらも周りの空気を読んで自ら魔物討伐を買って出たのだ。
人々が持つ勇者のイメージを壊さないようにするというただ一点のためだけに。
だがそんなことをこの二人に正直に話せば間違いなく変な目で見られる。
それは大和としては心外極まりない。
変な奴に変な目で見られるなど言語道断なのだ。
大和は二人に悟られないように体のいい言い訳をすることにした。
「それはあれだ、俺も日々勇者としての自覚に目覚めたというか
一応これでも勇者なわけだし、目の前に困ってる人がいたら普通助けるじゃん?
それにあんな状態を見過ごしてこのまま次の拠点になんて行ったら寝覚めも悪いしさ
ここは勇者として彼らを助けることにしたのだよ!!」
「ホントは面倒臭いけど」という後に続く言葉は飲み込んだ。
「流石はヤマトさんですのん! それでこそご神託の勇者様ですのん!!」
大和の言葉を聞いて目をキラキラさせるマーリン。
そしてリナとエルノアを見ると同じように尊敬の眼差しを向けていた。
ごめんなさい、ぶっちゃけホントは面倒臭いです。
できることなら行きたくないです。 などという言葉は心に沈め大和たちは先を急いだ。
目的地となる【魔の洞窟】はバルバロたちの町から北東に十数キロほど進んだ場所にあり
大和たちの馬車で道なりに進んで半日程度の時間を要する。
道なりと言っても大和が元居た世界のようにコンクリートで舗装された道ではなく
凸凹が激しい『道』と呼称するには些か整備が行き届いていない獣道だ。
それでも目的地まで真っすぐ伸びている道は目印としての役割は果たすので
この道から逸れない限りは迷うことはないだろう。
その後2時間ほどでこぼこ道と格闘しつつ襲ってくるモンスターを
リナたちに戦わせ戦闘の経験を積ませた。
彼女たちから手伝ってくれと懇願されたがこれは彼女たちの成長のためと思い
心を鬼にして「だが断る!!」ときっぱりと言ってやった。
決して、戦うのが面倒とかそう言うんじゃないんだからね!!
とにもかくにもお昼時になったのでここで昼食と大和たちと馬の休憩がてら一旦馬車を止めた。
ここ10日ほどの旅でそれぞれの役割分担が確立していた。
まずリナは料理担当でバッグから食材と調理器具を取り出すと
手間のかかる順から調理の下ごしらえを始める。
エルノアは馬の世話担当で、馬の食事の藁を与えたり
馬用のブラシを使って毛づくろいなどをしそれが終わるとリナの手伝いをする。
マーリンと大和は二人が料理をしている間に
食事をするための場所の確保をし食器や火おこしなどを行う。
それが終わるとマーリンはリナたちに参加して三人で料理をすることになり
大和は料理ができるまでモンスターの襲撃の警戒をするだけというのが
この短い旅の期間で出来上がったそれぞれの役割分担だった。
大和はアイテムボックスからちょっとしたテーブルと四人分の椅子を取り出した後
その椅子の一つに腰かけながら寛いでいた。
もちろんただ寛ぐのではなく周囲の警戒は怠ってはいない。
彼の持つ感知魔法の一つを使って周囲500メートル以内のモンスターを
感知できるようにしてある。
敵が足元から襲ってこない限りはその感知魔法に引っかかるという寸法だ。
しばらく寛いでいると料理が出来上がりテーブルに次々と料理が運ばれてくる。
大和にとって幸運だったのがリナ・エルノア・マーリンこの三人の女の子は
全員料理ができるというところだろう。
その点については大和は三人のことを認めていた。
そして料理が運ばれてくると決まって大和の隣に座るのは誰かという
どうでもいいくだらない争いが勃発する。
それが毎回続くため大和が取った策として
三本の細い木の枝を見た目が同じになるよう加工し一本だけ短くしたものを
くじとして引かせ、短い棒を引いた人が当たりということにしていた。
俗に言う【割り箸くじ】のようなものである。
今回短い棒を引いたのはリナだった。
自分が当たりを引いたと認識すると彼女は腹の底から雄たけびを上げる。
「よおおおっしゃあああああ!!!」
たかが隣に座る権利を賭けたものに
よくそこまで気合を入れられるものだと呆れる大和だったが
三人が楽しそうならこれもまたありなのだろうと自分を納得させた。
大和の隣に座る権利を獲得したリナは
彼女の定番の顔、いわゆる【だらしのない顔】を浮かべながら椅子に座り
大和の隣でもじもじと体をくねらせながら彼を見つめている。
大和は自分の食欲が明らかに衰退していくのを感じながらも
なんとか腹を満たすという人間が生きていくうえでしなければならない生存行為を行う。
それと同時にリナに鉄拳制裁のチョップをお見舞いし粛正した。
「何するんですか!?」
「お前のその顔を見てると食欲がなくなってくるんだよっ!!」
これもまたいつもの光景なのでエルノアとマーリンは
大和の言うことにただ頷くだけであった。
食事を終えるとしばらく休憩したのち食器などを片付けると
改めて目的地に向けて馬車を走らせた。
それから4時間後に目的地の【魔の洞窟】に到着した。
だが辺りはすでに夕暮れ時ということもあり今日はこのままテントを張って
明日の朝一番に洞窟に向かうことになった。




