31話:「魔王の右腕」
玉座の間での戦いに決着が付こうとした時、突如どこからともなく声が響いてきた
「誰だ、どこにいる!?」
声の正体を突き止めるべく大和はその声に向かって問いかける
その声はまるで澄み切った水のように澄んでおり聞くものを心地よくさせる声だった。
大和の問いに答えるように声の主は大和に語り掛ける
「探しても無駄さ、ここにはいないから」
声は聞こえど姿は見えずということか、ならばと大和は質問を変えることにした
「お前は誰だ?名前を言え!!」
大和のぶしつけな質問に対し声の主は素直に回答した
「お初にお目にかかる、神託の勇者よ
我が名はメフィスト、メフィストフェレスだ!」
その答えを聞くや否や突如、バタンという音が部屋に響き渡る
音のした方に視線を向けるとリナとエルノアの二人が膝をつきながら
その場にへたり込んでしまっていた。
「どうした?何があった!?」
大和の問いかけにかろうじて答えたのはリナだった。
「ヤマト様今メフィストフェレスとか言わなかったですか?」
「ああ確かにそう言ったがなんだ?知ってるのか??」
そう答えるとリナの顔がみるみる青ざめていき体も震えている様子だった
エルノアも同じく小動物のように体を震わせまるで捕食者に出会ったような感じだ。
大和が頭にクエスチョンマークを浮かべていた時、その疑問にリナが答えてくれた。
「メフィストフェレスという名を持つのは魔王の右腕、実質的な魔王軍のナンバー2です!!」
そう言いながら全身をぶるぶる震わせながら答えるリナ
それにしてもナンバー2か、ってか早すぎだろ!?
まだ物語は始まって間もないのにいきなりナンバー2出てくるかね!?
異世界に来て、勇者になって、ドラゴン仲間にして、王都を奪還、まだここまでしかやってねえぞ!!
と心の中で叫んだところで状況は何も変わらないのでとりあえずリアクションしておくか
「ほおーそれはそれはまたえらい大物が出てきたもんだな
まだ出てくるの早くないか?」
そう言うとメフィストは楽しげな声で答える
まるでその声はこの状況を楽しむ悪戯好きな子供のように
「僕は気が短くてね、我慢できなくて来てしまったよ」
「もっとあとの方がよかったんじゃないのか?
よく言うだろ?美味しいものは最後まで取っておくって」
「うーん、一理あるね」
とりあえず声の主が魔王の右腕でナンバー2の魔族と言うのは理解できた
魔王の幹部クラスがいるなら話は早い。そう思った大和はメフィストに提案した
「メフィストフェレスだっけ?」
「フィスって呼んでよ!」
そう無邪気な声で語り掛けてくる。
まあ相手が望んでいるのならここは乗っかっておくとするか
「じゃあフィス、この旧王都を返してもらえない?」
「なっなにを言ってるんですかヤマト様!!」
目を大きく見開き驚愕の声で大和に声を掛けるリナ
まだ体に力が入らないのか、膝をついたままの体勢で叫んでいる。
「うーん、それはちょっと困るかも。こっちだって必要だから支配してるしね」
「そりゃごもっともなんだけどさ、いずれフィス達は俺に倒されるんだから
今返すのも、倒されて奪われるのも同じだと思うよ?」
そう大和が答えると、一呼吸の沈黙ののちメフィストが無邪気な笑い声を上げた
「はははははは、それ本気で言ってるのかい?だとしたら君は相当変わってるね」
そう言いながら無邪気な笑い声を上げながら答えるメフィスト
それに対し大和は、淡々とした口調でただこう答えた
「俺はいつだって本気だぜ、魔王もお前も必ず倒すから」
「わかったわかった、今回は君に免じてこの王都は返すよ。
あと君の名を教えてくれないかい?」
「俺か?俺は小橋大和だ。大和でいいぜ!」
メフィストに向かって親指を立てた手を出す
大和の名前を覚えるとメフィストが大和に答える
「ヤマト、君とはまた会いたいな。今度は実際に」
「出来ればもっと終盤とかに出てきてくれよ
じゃないと楽しみがなくなるからな」
RPGでも魔王の右腕は終盤で出てくるのだ
今回もセオリー通りにしてほしいものだ
「でも早く会いたいから、暇を見つけて会いに行くよ。
じゃあヤマト、またどこかで会おう。バイバーーイ」
メフィストがそう答えると、ウルレギウスの周りを黒い影が覆い
その影の中にウルレギウスの体が吸い込まれていった
「神託の勇者よ、まだいずれどこかで会おう!」
「ああまたどこかでなウルレギウス!」
まるで戦友との別れの挨拶のように言葉を交わしたウルレギウスは
自身の体の周りを覆う黒い影の中に吸い込まれついには体全体が影で覆われた
そして、影が薄くなって消えていくと、ウルレギウスの姿は掻き消えてしまっていた。
ふうと軽くため息をついた大和は未だ床にへたり込んだ二人の女性の元に歩を進めた
二人の近くまできた大和はおどけたように肩を竦めて、二人に問いかけた
「大丈夫か?二人とも??」
先ほどの出来事がまるで幻想を見ていたのか、
はたまた夢だったかのような感覚に囚われていた彼女たちだったが
大和の声で現実の世界へと引き戻され、正気に戻ったようだった。
「はい私は大丈夫です。エルノアは?」
「えっ?あ、はい私も怪我はありません。」
二人がそう答えるとまるでさっきの出来事を
面白おかしいといった雰囲気で話す大和
「ていうかいきなりナンバー2出てきちゃったよ、ははっ。
リナ見たか?ナンバー2だぜナンバー2、どんだけだよ」
そう言いながら楽しそうに語る大和を見てリナが声を上げた。
「笑い事じゃないですよ!!生きてるのが不思議なくらいです!!」
「大丈夫だって、フィスも声だけしか出せなかったみたいだし
戦うことはなかったと思うぞ、それより・・・」
そう言うと大和はもう一人の美女に視線を向ける
先ほどようやく立ち上がった彼女を上から下まで舐めるように見ていると
どうやらその視線を自分の体を見て欲情している視線と勘違いしたのか
身をよじりながら自分を体を抱いて守りの姿勢を取っていた。
リナの方を視線を合わせず窺うと、彼女も欲情の視線と勘違いしているようで
頬を風船のように膨らませて、不服の表情を浮かべていた。
ここまでリナと知り合ってきたのでその態度の意味が「なんでその子に欲情してるんですか?
私と言う美女が目の前にいるじゃないですか!!」と物語っていることに気付いたが
とりあえずエルフの彼女の誤解を解くのが先決だと思った大和は
リナの視線を無視してエルノアに話しかけた。
「ああごめん、俺の元居た世界には奴隷がいなかったから。
少し物珍しい目で見てしまった。」
そう言うと大和は改めて彼女エルノアに自己紹介をする。
そして、その言葉で誤解が解けたエルノアもまた大和に自己紹介をした。
「ところで、エルノアさん。君はどうしてこの王城に捕まっていたんだい?」
リナはもともと攫われたのを見ていたからまだわかるのだが
なぜこの子は捕まっていたのかという疑問を抱いたため直接彼女に聞いてみたのだ。
「私もよくわからないのですが、屋敷に戻ったあと疲れたのか眠ってしまいまして。
目が覚めたときには、なぜか地下牢に閉じ込められていたのです。」
と冷静に話していたが、それって眠ってる間に誘拐されてませんか!?
そう突っ込もうかと思ったが、今は外にでることを優先するため
一先ず、三人は玉座の間を後にした。
帰っているときにモンスターや魔族は出てこなかった
どうやらウルレギウスがいなくなったことで城から逃げ出したみたいだ。
そのため帰り道は非常に楽だった。
外に出ると辺りはまだ漆黒に支配された闇が広がり
夜明けまでまだ幾ばくかの時がかかるようだった。
夜道は危ないからということで、リナと大和はエルノアを屋敷まで送ることにした。
彼女を屋敷に送り届けた後、宿に戻ることにした。
宿に帰る途中、リナが腕を組もうをしてきたのを
チョップで牽制しながら歩くというじゃれ合いがあった。
宿に着くと、どっと疲れが出たのかすぐに休むことにした。
自分の部屋に入ろうとした時なぜかリナまで同じ部屋に入ろうとするので
アイアンクローで顔を掴みながら、彼女の部屋に押し込んでやった。
ベッドにそのまま倒れ込むように横たわると
やはり疲れていたのだろう、すぐに深い眠りへと落ちていった・・・
こうして、本来の形とは違ったが旧王都を魔族の手から取り返すことに成功した大和
彼の勇者伝説にまた新たな1ページが追加された出来事であった。




