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150話:「舞踏会と夜の謀(はかりごと)」


 「へえー、こりゃすげえな……」


 ドライゴン帝国王都ガルヴァス王城、その一区画である舞踏会などを開くための場所に大和たちはいた。

 ビルド大陸でも有数の大国であるドライゴン帝国王城舞踏会会場ともなればその規模は想像に難くない。

 広さは二十五メートルプールを三面並べたほど広大な物であり、十数メートルの高さもある天井には

その会場に相応ふさわしい豪華なシャンデリアが6つ吊り下げられており、シャンデリア一つだけで豪邸が建つほどの高価なものだという話を聞かされた。


 「あたしたちには縁のない場所ですね、ヤマト様……」


 「わたしのような奴隷がこんなところにいてもよいのでしょうか」


 「なんかすごく居心地が悪いですのん」


 「主、食事はどこにあるのですかな?」


 「流石は大国の舞踏会ですね。 これほど規模の大きいものは初めてです」


 リナ、エルノア、マーリン、フレイヤ、マチルダの順にそれぞれが思い思いの感想を述べていく。

 俺自身も内心では緊張していたが、何とかそれを態度に出すのだけは防げていた。


 (何が宴だ、これじゃあどこぞの貴族の舞踏会じゃないか……)


 会場には俺たちの他にこの宴に招待されたであろう貴族たちが遠巻きにこちらを値踏みするかのように見ている。

 男性はタキシード、女性は腰から下のスカートの股下部分が床に付くくらいあるパーティードレスに身を包んでいる。

 どちらも中世ヨーロッパの雰囲気がありそれも相まって大和たちの場違い感が出てしまっていた。


 ちなみに大和が勇者として身に着けている服装も戦闘に重きを置いたものではあるがこういった格式ばった場所でも着ていけるほどしっかりとした造りになっている。

 一方女性陣はアリシアが城を案内した後に大和とは別の部屋に連れていかれたあとそのまま会場での再会となったのだが身に着けている服装はこの場に相応しいほど豪華なものだった。

 貴族たちが身に着けているパーティードレスと同じなのだが、リナたちの見た目の美しさも相まって優雅さと可憐さは引けを取っていない。

 

 「ヤマト様、どうかしましたか?」


 「えっ、ああ、いや……」


 俺はこのあと口に出す言葉を出すかどうか迷ったが、たまにはこういうのもいいかと考え

彼女たちに素直な感想を述べた。


 「皆がいつもと違う格好だからさ、その……すごく綺麗だ」


 「っ!?」


 俺がそういう歯の浮いた言葉を言うのが意外だったのだろう、その言葉を聞いた途端、全員が息を詰まらせる。

 だがそれも一瞬の出来事で、今では笑顔という大輪の花を咲かせたり、恥ずかしさのあまり俯いてしまっていたりしている。

 そんな中ささやかながらの抵抗として「いきなりそんなこと言うなんてヤマト様はズルいです……」とリナが口を尖らせて言っていたが顔がニヤけていたため本音ではすごくうれしいという事は伝わってきた。


 「ヤマト殿、パーティー会場へようこそなのじゃ」


 そこへパーティードレスに身を包んだアリシアとマリースがやってきた。

 二人ともこういう場には慣れているのか違和感なくドレスを着こなしている。

 俺が「綺麗ですね」とリナたちと同じように褒めると二人とも俯いてしまった。

 こんな歯の浮くようなセリフは何回も言われ慣れているから言っても大丈夫かと思ったが

どうやらそうではなかったらしい。


 ――この時の大和は知らなかった、彼の誉め言葉に彼女たちが俯いたのは

そのセリフを言ったのが“彼”だったからということに……。


 そんなやり取りのあと二人は招待された貴族たちとの会談があるようでしばらく戻ってこなかった。

 俺に声を掛けようとしてきた貴族のご婦人方やお嬢様方は勇者親衛隊(俺の仲間たち)の手によって一蹴されていく光景を俺は見ないようにしていた。

 勇者親衛隊とは言わずもがなリナたちのことであったが貴族とあまり関わり合いになりたくない俺にとって

彼女たちの行為は正直助かった。 


 (このパーティーが終わったら彼女たちに何かプレゼントでもしようかな?)


 宴もたけなわというところで突如パーティー会場に音楽が流れる。

 見れば会場の隅っこにいるオーケストラが優雅な出で立ちでヴァイオリンやチェロなどの

弦楽器、クラリネットやサックスなどの管楽器などを演奏している。

 この世界にこういった楽器類が存在していたことに関心を覚えた俺だったが同時に嫌な予感がした。

 その予感が的中したことを俺は即座に察知する。

 振り返るとまるで物欲しそうな目をした五人の女性がこちらを見ていた。

 どうやらオーケストラが演奏しているのは三拍子を基調とした円舞曲、平たく言えばワルツだ。

 その曲がかかると同時に誰ともなく貴族の男女が自然な形でペアを組みワルツに合わせて会場中央の空白スペースで踊り始めていた。

 どうやら中央部分は踊るための舞台として空間を空けていたようだ。


 「ヤ、ヤマト様、あたしと踊ってくださいませんか?」


 「ヤマトさま、わたしと踊ってくださいませ」


 「マーリンもヤマトさんと踊りたいですのん」


 「主、一曲付き合ってもらえぬだろうか?」


 「旦那様、私もお願いします!」


 さて、どうしたものか……。

 実際の所彼女たちと踊るという事自体はやぶさかではない。

 だが元の世界で一般人だった俺はダンス、踊りというものには縁遠く、全くと言っていいほど踊れない。

 そんな状態で踊れば転倒などといった恥ずかしいことになるのは目に見えていた。

 かと言って目の前の期待に満ちた彼女たちの眼差しを無下に扱うのも忍びなくもあり実にもどかしい状況だ。

 そんなことを考えていると何者かが俺の手を引っ張り貴族たちが踊っているところに連れていこうとする。


 「ヤマト殿、さあ妾と一緒に踊るのじゃ」


 「えっ、ちょちょっとアリシアちゃん、俺踊ったことないから無理だよ」


 「大丈夫じゃ妾に任せておけ!」


 そんな彼女に押し切られる形で俺は踊ることになったのだが取り残されたリナたちは

羨ましいといった感情を押し殺すこともなくアリシアに向けていた。

 こうなったら破れかぶれだと言わんばかりに開き直った俺はアリシアのぶっつけ本番の

ダンスレッスンを受けることにしたのだった。





 「はあ~、つっ、疲れた……」


 パーティーが終わり、俺たち勇者一行にそれぞれあてがわれた部屋のベッドにうつぶせに倒れ込んだ俺はなんとか乗り切ったなという達成感と共に今日のパーティーのことを思い出す。

 アリシアに半ば強制的にダンスに参加させられたが結果としては無難に終えることができた。

 踊り始めた最初は足がもつれていたが、アリシアの丁寧で分かり易い教え方が功を奏し、曲の終盤では

彼女をリードできるほどにまでになっていた。


 (これは俺が持ってるスキルの影響かな? それとも勇者補正や主人公補正で何でもできちゃいますっていう

ご都合主義からくるものなのか? どっちにしても“チート乙”的な展開だな……)


 アリシアと踊っただけで大和の疲労はここまでにはならなかっただろうがそれで済むほど大和は最早常人ではない。

 あのあとリナたちからダンスの誘いがあり全員踊り終えたと思ったら今度は貴族のお嬢様方からの熱烈な誘いを受け結局何十回とワルツを踊らされることになってしまった。

 最も一番の被害者は何十回とワルツを演奏し続けたオーケストラの皆さんだったということは大和も理解していたのでそれに比べれば大したことはないと自分に言い聞かせた。


 そんなことを考えながらベッドに横になりそのまま意識を手放そうとした刹那せつな――。


 ――コン、コン。


 突然大和がいる部屋のドアがノックされる。

 もう夜も更けたこの遅い時間に来客の予定はない。

 パーティーが終わった後は休んでも構わないとマリースも言っていたので

公的な用事での来客ではなく私的な用事で来たという事は推察できる。

 どんな用なのかは話を聞かねばわからない事なので俺は意を決してドアを開けた。


 「夜分遅くにすまぬヤマト殿、その……部屋に入ってもよいかの?」


 「アリシアちゃん、どうしたのこんな夜更けに?」


 パーティーが終わった後に風呂に入り薄着のネグリジェを着たアリシアがそこに立っていた。

 薄着のネグリジェからは純白の下着が見えその柔らかな生地に包まれたこれまた柔らかな肢体したいは十五とは思えないほどの色香をかもし出している。

 風呂上りのせいなのか湿った艶のある金髪と桃色に上気した肌は大和でなくとも欲情するには十分なものだ。

 石鹸の香りなのかはたまた女性特有のものなのか定かではないがフローラルな香りが大和の鼻腔をくすぐる。

 一歩間違えればそのまま獣の如く襲い掛かり彼女の身体を骨の髄まで貪りつくしてしまいそうになるが

そこは絶対的な理性を持ってなんとか踏みとどまることに大和は成功する。


 (そういえば、俺風呂入ってなかったな……アリシアの用が済んだら入るか)


 そんな暢気なことを考えながらアリシアを部屋に招き入れる。

 すると彼女は部屋に入るなりドアを閉めるといきなりネグリジェを脱ぎ捨て下着だけの姿になる。

 

 「んっ……」


 「あのー、アリシアちゃん? なに、なにをやっているんだい?」


 「――いてください」


 「へっ?」


 「妾を抱いてくださいまし!!」


 「ふぁっ!?」


 いきなりの『抱いてくれ宣言』に俺の思考は一時停止する。

 まさか一国を統治している皇帝がまさかこのような行動に出るとは思っていなかったため

アリシアが何を言っているのか最初は理解できなかった。

 そして、彼女の言葉が頭の中に浸透し、理解した瞬間に即座に反論する。


 「いやいやいやいやいや、なにを言ってるんだいアリシアちゃん!

 いきなり来て抱いてくれとかどういう意味か分かってやってるの」


 「無論じゃ、妾はいや、わたしはあなたの“もの”になりたいのです……」


 「何でいきなりこんなことを、今まで普通だったじゃないか」


 「正直に話すと、実はわたしは最初にあなたのことを知ったとき、自分の下僕にしようと

そう思っていました」


 (えっ下僕、下僕って言ったのかこの子?)


 「ですが冒険者の手から救ってもらったあの時、すでにわたしはあなたに心惹かれていた。

 愛してしまっていたのです。 ですからお願いします、わたしを抱いてください!!」


 それはあまりにもつたなく、あまりにも純粋な一途な思いであった。

 アリシア自身まさか自分がこれほど大和のことを好きになるとは思いもしなかった。

 だが恋とは突然に起こるものでそれは例え神であろうと予測は付かないものだ。

 今目の前にいるのはドライゴン帝国皇帝アリシア・ティル・ドライゴンとしてではなく

一人の女の子として大和に自らの恋慕をぶつけていると彼自身察してしまった。

 だからこそ大和はそんな真正面からのアリシアと同じように真正面から向き合う必要があると思い

真剣な眼差しで彼女を見据えた。

 そして、一歩一歩アリシアに近づいていくと彼女の華奢な肩にやさしく手を乗せできるだけやさしい口調で話し出した。


 「アリシアちゃんの気持ちは素直に嬉しいありがとう。 でも君の気持に応えることはできない」


 「なぜですか……わたしが皇帝だからですか?」


 「それは関係ないよ、ただ。 そうだな、俺が勇者だからさ」


 「勇者だから?」


 「そっ、俺は勇者だから魔王を討伐する使命がある。 そしてその使命が終わればこの世界からいなくなってしまう存在なんだ。

 今ここでアリシアちゃんが俺と関係を持ってしまったら俺がこの世界からいなくなった時にきっと後悔する。

 だからごめんなさい……」


 「ひっく、うぅぅぅ~」


 大和に自分の思いを拒絶されたことにショックを受けるアリシア。

 いくら皇帝と言っても彼女は十五歳の少女なのだ。

 人として未熟な部分はまだまだ多く、学ぶべきことはたくさんあるのだ。

 大和は綺麗な瞳に大粒の涙を流すアリシアの体をそっと抱きしめた。

 そして、耳元で優しく囁く。


 「こんな俺を好きになってくれてありがとう、でもアリシアちゃんには俺なんかよりもっと相応しい相手が

きっと見つかるから、君は美人でスタイルもいいし、なによりこんなに可愛らしいじゃないか。

 だからきっと俺よりもいい人ができるさ」


 「ヤマト殿……フフ、勇者というのはお人好しらしいな……」


 「あがっ」


 先ほどまでのアリシアの口調とは明らかに違い暗く敵意の満ちた声とともに大和の身体に衝撃が走った。

 見ると彼の体には短剣が突き刺さっていたのだった。


 「おっお前はアリシアちゃんじゃないな、一体何者だ?」


 「フフフフフ、わたしは魔神メルウェム様に忠誠を近いし魔人が一人、勇者コバシヤマト

悪いけどここで死んでもらうわ」


 突如現れた魔人に短剣を突き立てられた大和、果たして彼は無事なのか……。

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