136話:「女神たちの井戸端会議」
「あっ、サリーさんまだ休憩取ってなかったですよね? 替わりますよ」
「あらそうかい? じゃあ少しばかり休ませてもらうわね」
そう言って受付場から離れ、外へと通じるドアに手を掛け町へと繰り出す。
ここはドライゴン帝国王都ガルヴァスにある老舗の宿【妖精の仮宿】という名の宿屋で
そこの宿で受付係を務める褐色肌の紫髪の妖艶な女性、名をサリーという。
「さてと・・・・・・」
そうぽつりと彼女が呟くとある場所に向かって歩き出した。
歩き出したと言っても何か目的の場所があるわけでもないが人気の少ない路地へと向かっているようだ。
そして、人の通りが完全に無くなったところで彼女はふと足を止め誰に話しかけるともなく口を開いた。
「あれが今回の勇者、コバシヤマトか・・・・・・・」
か細くしなやかな手を顎に当てながら思案顔で物思いに更ける。
そして、唐突にハイテンションで叫んだ。
「くうううううう、いい男だったぜええええええ!!!」
ガッツポーズを何度も上下に振りながら「イエス、イエス」と連呼する。
その姿は彼女の年齢とは不相応に子供じみていた。
すると突如として彼女の背後から鈴を転がしたような女性の声が響き渡った。
「天界にいないと思ったら、こんなところで何をしているのかしら? ヴィルヴァルディ?」
「あら~その声はディーネじゃないの」
先ほどの態度を無かったことにしたヴィルヴァルディは背後にいた彼女に向き直ると
腰に手を当て、身体を妖艶にくねらせながら話の続きをし始める。
「別に、ただちょっと今回の勇者はどんな子かと思って見に来ただけ。
何か問題でもあるのかしら~?」
自分は悪いことはしていないという含みのある言い方で彼女の問いに答える。
それに反論するかのようにディーネが返答する。
「勇者を見に来たことに関しては問題ないわ。 でも勝手にわたくしの子供の身体を使うのは
やめてくださるかしら?」
彼女がそう言うと褐色紫髪の女性の身体からヴィルヴァルディが現れた。
一時的にこのサリーという女性の身体を借りていたようだ。
まるで糸が切れた人形のようにサリーの身体が地面に横たわる。
彼女はその事について悪びれもせずにこう答えた。
「別に死ぬわけじゃないんだから少しくらいいいじゃな~い。
そんな細かい事ばかり気にしてると眉間に皺が寄って老けるわよ~?」
それが彼女の逆鱗に触れたのだろう、こめかみに怒筋を浮かばせながら引きつった笑顔で反論する。
「あらあらあなたこそ、その身体を細く見せるためのくねらせを止めたらどう?
そんな無駄な努力をするなら素直にダイエットでもすればいいのよ」
ディーネのこの一言を皮切りにして、まるで年端もいかない子供のような喧嘩に発展した。
お互いのほっぺを抓ったり、子供のような罵倒をしてみたりととてもじゃないが今の二人の様相から
誰もこの二人が女神だと思うものは皆無だろう。
そんな子供のケンカがしばらく続いた後、お互い疲れたのか肩で息をしながら息が整うのを待つ。
そして、息が整った後ディーネがヴィルヴァルディに警告をする。
「ともかく、なるべく勇者とは接触しないで頂戴、なんのための【戦争ゲーム】かわからなくなるわ」
「そんなこと言って、あのイケメン勇者を独り占めしたいだけなんじゃないの~?」
「そ、そんなことあるわけないじゃない! これでも善を司る女神なのよわたくしはっ!!」
「そう、それならいいけど~」
そのあと数秒の沈黙が流れた後、今度はヴィルヴァルディがディーネに話しかける。
「そう言えばディーネ、あなたも気づいてると思うけどこの世界にしばらく前から
変な気配を感じるのだけど何か心当たりはないかしら~?」
そう彼女が問いかけると、苦虫を噛みつぶした顔でヴィルヴァルディの問いを肯定する。
「ええ、もちろん気付いていたわ。 確証はないけど、十中八九別次元の世界の神ね。
しかも邪神、いえこの世界の言い方だと魔人というのが正確かしら」
そう言いながらディーネが難しい顔を浮かべながら腕を組む。
その姿勢により彼女の大きな膨らみが強調されなんとも艶めかしい。
だがヴィルヴァルディはそのことには一切触れずに彼女と同じように下乳の辺りに両腕を持ってくると
意図的にその両腕で自身の胸を持ち上げた。
ディーネとヴィルヴァルディの胸の大きさはさほど変わらないためこの光景を見た男はさぞ眼福だろう。
ヴィルヴァルディもまた顔を顰めるとこの先待っている面倒事を杞憂するかのようにディーネに問いかける。
「どうするべきかしら~? 放っておいたらロクでもないことをしそうだし
かと言ってまだ何もしていないのにちょっかいを掛けるのも、相手にこの世界に手を出す口実を与え兼ねないわよ~?」
そう言ってヴィルヴァルディが二つの果実をたゆんと揺らす。
しばらく思案したのちディーネは最善策を口にする。
「今はまだ様子を見ましょう。 何か動きがあればその時対処するという事で。
飽くまでも向こうが危害を加えてきたらというのを前提で動きましょ」
「正当防衛ってやつかしら~」
その問いにディーネは首を縦に振る。
その後お互いに気を付けてという言葉を交わし、二人ともどこかへと消えてしまった。
まるでそこに最初から何も存在していなかったかのように人通りの少ない路地には静寂が支配していた。
余談だが、ヴィルヴァルディが身体を借りていた褐色肌の女性サリーだがしばらくして気が付いた後、自分が一体なぜこの場所で倒れていたのか全く覚えておらず、怪訝な表情を浮かべたが体にどこも異常は見受けられなかったため気にせずに宿に戻っていったそうだ。




