14話:「魔族襲来」
神殿の扉から脱兎のごとく出てきた人影
まるで何かから逃げるような足取りは軽快だ
無理矢理逃げてきた後ろめたさから
走りながら自分の後方を確認する大和
すると開け放たれた神殿の扉から
自分を追尾する人影を確認する
その姿を視認すると大和はその人物に向かって大声で話す
「なんでお前が追いかけてくるんだ!!」
「ヤマト様に何かあっては我々が困るのです!
どちらに行かれるのですか?」
「別にどこに行こうが俺の勝手だろ!!」
「そうはいきません!
あなたがただの人間であればそれもよかったでしょうが
あなたはこの世界の救世主【勇者様】なのです!!」
「だから俺は勇者じゃないっつてんだろうが!!」
「ご神託に間違いはございません!!
ヤマト様は誰が何と言おうと【勇者様】です!!」
走りながら大和が勇者か勇者でないか舌戦を繰り広げる
自分でもよく舌を噛まないなと思うくらいに饒舌に語っていた
その舌戦が思わぬ形で幕を閉じる
「きゃっ!!」
リナが転倒したのだ
走りながら大声で話していたのだ
今まで転倒しなかったのが不思議なくらいだ
その声を聞いて立ち止まって振り返る大和
彼女との距離はおよそ30メートルほどの距離があった
「なにを立ち止まっているんだ俺は?逃げるんだろ??」と
心の中で言葉を発する大和
そんなことを考えていると事態は突如急変した
それはまるで彼女が転倒したことがきっかけのようにも思えた
突如空に大きな影が出現する
その影はこの世のものとは思えない悪の波動を放ち
飲み込むものを全て地獄へと連れ去っていくかの如く蠢いていた
その影から急に魔獣にも似た大きな手が出現し
そのまま腕・胴体・手足という順番で姿を現した
体格は大きく大型の熊ほどの大きさはあった
その正体を理解すると同時に大和に焦りの色が浮かぶ
影から現れたものの正体それは【魔族】だ
魔族、悪魔や闇の力を所持する者の総称であり
その頂点に君臨するのは魔族の王【魔王】である
その魔に属するものが鋭い眼光を一人の人間に向ける
そして、その人間を視認すると
野獣がうなり声を上げるような声で魔族が口を開いた
「ふん、無力な人間が・・・」
「人間など無駄に数が増えるだけの下等種族だ
駆除しても駆除してもお前たち人間はウジ虫のように湧いてくる」
「だが駆除しなければ無駄に数を増やす」
「全く、下等種族の分際で愚かなものよ・・・」
「あっああ・・・」
あまりの出来事に地面にひれ伏したような状態で
固まってしまうリナ
かろうじて上半身は起こしているものの
その場から動けずにただ魔族をじっと見ている
「リ、リナ!!そこから逃げろ!逃げるんだ!!」
大和の声が届いていないと言わんばかりに
その場で固まってしまっている
誰だって目の前に化け物が現れればそうなってしまう
「くっ!」
苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべながら
自分の腰の剣に手を掛ける大和
だがここで迷いが生じた
それは二つの迷いからくるものだった
一つは目の前にいる魔族が自分以上の力を持っていた場合
リナを助けるどころか自分が返り討ちにあってしまうという迷い
この世界に来てまだ日が浅い大和は戦闘の経験もなく
自分がこの世界でどの程度の強さなのか確認できていないのだ
二つ目は仮に魔族を撃退あるいは倒してしまった場合
それこそ魔族を倒したということで【勇者認定】され
魔王討伐の使命は確実なものとなる
この二つの迷いからリナを助けるべきか助けないべきか
一瞬の迷いが出てしまったのだ
その一瞬という時間は魔族が次の行動に移るのには
十分すぎるほどの時間だった
「ふん、小娘まずはお前からだ絶望を知るがいい・・・」
「中級魔法 (セカンドマジック)フレア・ボム!!」
そう魔族は呪文を唱えると魔族の右手に魔力が集中し
バスケットボールほどの大きさの火の玉が出現した
「塵と砕けよ・・・」
そしてそのまま右手の火の玉を
リナ目掛けて放ったのだ
「やっやめろおおおお!!」
魔族の行動を理解して叫んだが時すでに遅し
大和が叫んだのは火の玉が打ち出された後だった
魔力によって推進力を得た火の玉は
そのまま目標物めがけ飛んでいく
命中すれば人の命など簡単に奪い去るだろう
「ああ・・・助け・・・」
顔を両手で庇いながら大和に向かって助けを求めようとしたが
目の前には火の玉が迫ってきていた
「リナああああああ!!」
間に合わないとわかっていても
走り出さずにはいられなかったのだろう
届かない手をリナに伸ばし
必死の形相で走り出す大和だったが
走り出すタイミングがあまりにも遅すぎた
そしてついに・・・
【ドカーーーン!!】
それは魔法名にもあるとおり
爆弾が爆発するかのごとき衝撃で
爆炎が包み込み同時に周辺の地形を大きく様変わりさせていた
その状況ではリナの生存率は皆無だろう
それを頭で理解した瞬間
体の力が抜け両膝をつきながら
リナに向かって出した手が徐々に力なく下がっていく
経過した時間は数秒なのにもかかわらず
それがスローモーションのようなあるいは
時間が止まったようにゆっくりと流れていくようだった
「俺の・・・せいだ・・・」
「俺がくだらないことで助けに行くのを迷ったから・・・」
そんなことを考えていると空気を読まない魔族の
嘲笑にも似た笑い声がこだまする
「ガハハハハハ、見事に死におったわ!」
「やはり人間は脆い生き物だ」
「そんな下等な人間が我ら魔族と共存するなどおこがましいわ!」
その言葉を聞いた瞬間大和の中で
何かが壊れていくのを感じた
「・・・れ・・」
「では次はこの町の神殿の神官共だな・・・」
「・・・まれ・・・」
「小賢しくも神殿などという忌々(いまいま)しい・・・」
「だまれ!だまれ!!だまれ!!!だまれええええええ!!!!」
魔族の言葉を遮り雷鳴が轟くような鋭い叫びが
辺り周辺を支配した
「そうだったもう一匹いたんだったな・・・」
「次はお前の番だ」
「ゆくぞ、己が無力を知れ!!」
「くーー!!」
憎悪と殺意が入り乱れた気を纏いながら大和が剣を抜く
その雰囲気を敏感に察知した魔族は
初めて正面で大和を見据える
両者の視線が交差し
戦いの火蓋が切って落とされると思った刹那
その視線に声が割って入った
「ヤマト様ーーーー!」
それは幻聴なのだろうか?
そう思いリナが爆死したであろう場所を見ると
そこには人影があった
「私は大丈夫ですーーー!!」
なんとリナは生きていたのだ
自分の無事を大和に教えるように
手を振って応えるリナ
「リっリナ!!」
「お前・・・生きてたのか!?」
安堵と驚愕の表情を浮かべながら
間の抜けた力のない声を発する大和
だがすぐにある疑問が頭を過ったため
リナに問いかける
「なんで無事なんだお前?」
「あんなの普通死ぬぞ、不死身か??」
「最初見たときから化け物染みてるとこがあったが
そういうことだったのか?」
「私を何だと思ってるんですか!!」
その言葉を受け即答
「変態ドM神官Mk-Ⅱ(マークツー)」
「神官という崇高な職に就くものが
変態なわけないじゃないですか!!」
「大体、まーくつーってなんですか?まーくつーって??」
「ドMは否定しないんだな」という声を
心の中で押し殺し今度は真面目に問う
「じゃあなんで生きてるんだ?」
「普通そこは【なんで助かったんだ?】じゃないんですか?」
「その言い方だと死んで欲しかったみたいに聞こえるじゃないですか!!」
「そんな重箱の隅をつつく物言いはやめて答えろよ!」
「あの人が助けてくれたんです!」
そう言ってリナが指さした方向には
見覚えのある人物の姿があった
緑の魔道服に身を包み
緑の髪を風に靡かせながら
杖を持ち斜に構えている人物
「大丈夫ですのヤマトさん」
そう今朝大和が出会った雑貨屋を営む魔導師
アングラーズ・マーリンが立っていた




