125話:「大和、市場を満喫する」
大和たち一行を襲った邪教徒の襲撃から翌日、大和たちは結局できなかった
観光をするためジェノンの町のメインストリートを真っすぐ進んでいた。
勇者の人気は相変わらずで今日も大和の周りには多くの人だかりができていた。
町長の計らいで護衛の人数を20人ほどに増やしてくれたお陰か護衛を掻い潜ってくる
人は誰一人としていなかった。
「ここが市場か」
まるでアリの大群が獲物を巣に持ち帰るかのような長蛇の列が
大和の後方に伸びており、護衛の女性達が四苦八苦していた。
彼女たちには気の毒だが、これも仕事と思って我慢してもらおう。
余談だが、最初に警護に付いていた護衛たちは取り調べと事情聴取のため
一晩だけ牢に入れられたが、次の日には大和の恩情もあり罰金のペナルティのみで釈放されていた。
この世界に来て様々な町の市場を見るたびに同じ感想が頭に思い浮かんでくる。
“賑わっている”と。
市場には主に野菜や果物などを陳列した八百屋のような屋台が立ち並び
たまに軽食などを提供する、俗にファーストフード店のような店も軒を連ねており
行き交う人の喧騒と店の店員の客引きの声がその場に響き渡っていた。
本来ならゆっくりと店を見て回りたいところなのだが、先ほどから自分の後ろで
列を成している巨大な人の塊を見てしまうとおちおち買い物もできないと肩を落としていたが
リナたちはそんな状況下でもなんだか楽しそうに市場の品々を見て回っていた。
特に楽しそうだったのがマチルダで店にある品を手にとっては感嘆の声を上げており
店員から勧められ必要のないものを買わされそうになるのを一緒にいるリナが丁重に断るという
シーンが繰り返されていた。
意外だったのがリナが思っていたほど面倒見がいい奴だったということか。
また一つ彼女の一面を知ることができただけでここに来た甲斐があったと大和は心の中で密かに思った。
他のメンバーもそれぞれに店の品物を見て楽しんでいる様子だった。
ちなみにマーリンとフレイヤは他の女の子よりも長い時を生きているのか大和の隣を一緒に歩いており
落ち着いた様子で市場を見ていた。
「はぁ・・・・・・」
いろんな店があることに心躍らせつつ視線を巡らせると、エルノアがとある店の前で
感嘆の声を漏らしながら店の品を見ていた。
見るとその店は装飾品、つまりアクセサリー関連を主に取り扱う店らしく
本物なのかは定かではないが宝石のような石がはめ込まれている光り輝くアクセサリーが
置かれており、髪飾りやピアス、ネックレス、腕輪やチョーカーなど多種多様な装飾品があり
見ているだけでも飽きさせない。
「とても、綺麗ですね・・・・・・」
「何か気に入った物があったのか?」
声を掛けると肩をピクリと震わせながらこちらを見てくるがすぐに視線を品物に戻すと
その中から彼女の瞳の色と同じ空色の髪飾りを手に取りそれを大事そうにかざして元の場所に戻した。
観察力に優れた大和がそれを見逃すはずがなく店員に先ほどエルノアが手に取った髪飾りを指をさして言った。
「この髪飾りください」
「毎度あり500ゼリルになりやす」
「えっ? ヤマトさまその・・・・・・」
店員に金を支払うと、大和はそれを手に取りエルノアの頭に付けてやる。
何か言いたげな表情をしていたが大和がよく似合ってると言うと頬をピンクに染めながら
身体をもじもじとくねらせる。
「あ、ありがとうございます! 一生の宝物にします!!」
いや、そんな大袈裟なと心の中で突っ込んでいると後ろから視線を感じる。
振り返ると他の4人の女の子たちが指を咥える勢いで羨ましそうな顔をしていたので
好きなものを選べとそれぞれにアクセサリーを買ってやった。
エルノア同様、満開の花が咲いたような笑顔を向けられ少しむず痒い気持ちになるが
こんなことで彼女たちが喜んでくれるなら買ってよかったと大和は思った。
その後、軽食屋台で買った何かの肉の串焼きをみんなで食べながら市場を満喫し
ジェノンの町でも評判だという食事処で昼食を食べた後、満足した一行は意気揚々と自室に帰るのだった。
余談だが、勇者が市場にいるという噂が町中に広がってしまったため人ごみをかき分け帰ってきた時には
茜空が町全体を覆うほどの時刻になってしまった。




