117話:「動き出す闇」
そこはとある屋敷の一室だった。
外は陽の光が燦燦と照らす光明がある昼とは異なり
静寂が支配する漆黒が広がる夜の刻限。
蝋燭の炎が照らし出した先に一人の男の姿があった。
幅広のテーブルに両肘を付き、組んだ両手の上に顎を乗せた格好で男がぽつりと呟く。
「あれが神託の勇者コバシヤマトですか・・・・・・」
誰に問いかけるわけでもない呟きだったがその呟きに返答する声があった。
「噂通りの美形のようだな」
「ふん、この世界では不憫な顔よな」
最初に呟いた男の他にも人影がありそれぞれが意見を述べる。
どの人影も深くフードを被っており、その顔は窺い知れない。
そして、組んだ手に顎を乗せていた男が壁際に控えていた部下に視線を向けると
部下は部屋の扉を開ける。
するとそこには60代の頭の頭頂部が少し寂しくなった老人が数人の男たちに
拘束されながら部屋に入ってくる。
「これは一体どうゆうことじゃ、弟よ!!」
自分の対応に不服を申し立てたのはビルド大陸最初の港町ジェノンの町長ウミガスキーであった。
町長の視線には先ほどから手を組んでいた男の姿があった。
「どうもこうもないですよ兄者」
男は50代中盤といった所だろうか、ウミガスキーを少し若くした容貌をしており
実年齢よりも少し若く見える。
黒髪をオールバックにまとめ上げており、目つきもかなり鋭い。
この男の名はウミガイヤー、表向きはジェノンの町でも最大の勢力を誇る貿易商を営む傍ら
裏では密輸品や公の場では取引できないいわくつきの品物を売買する闇商人という一面も持ち合わせている。
そんな男が自分と血を分けた実の兄に蔑むような眼差しをもって答える。
「あの計画を進める時が来たのですよ。 そのためには勇者の存在は我々にとって
障害となる、今のうちに排除しておこうと思いましてね」
その目には感情など一切籠っていない、まるで無機質な何かであるかのように淡々とした口調で彼は答える。
彼の発言にウミガスキーは目を見開き驚愕するとすぐさま反論する。
「そんなことが許されるわけがなかろう。 勇者様はこの世界の希望、救世主なのじゃ。
そのお方を敵に回すということがどういうことかわからないほど馬鹿ではあるまい!」
そんな必死の反論も歯牙にもかけず、まるでここにいない誰かに向かって話すように口を開く。
「全てはあのお方の悲願を達成するため。 そのためには勇者を手に掛けることに躊躇いなどあろうものか」
「あのお方とは誰の事じゃ、まさか魔王か!?」
空を見据えていたウミガイヤーが町長の言葉にハッとすると再び視線を合わせながら答える。
「そのような小物とあのお方を同列に扱ってもらっては困るな。
ともかく勇者暗殺の計画を知られたからには兄者をこのまま返すわけにはいかない。
しばらく大人しくしていてもらおうか」
そう言いながら部下に顎で合図を送ると、そのまま町長を羽交い絞めにして
部屋から強制連行されて行く。 連れて行かれそうになりながらも町長はウミガイヤーに向かって叫ぶ。
「待て、待つのじゃウミガイヤー、まだ話は終わっとらんぞ!
離せ離すのじゃ、ウミガイヤー、ウミガイヤー!!」
兄の言葉など耳に届かないとばかりに視線を再び空に向け誰に話すでもなくウミガイヤーは呟く。
「全てはあのお方のため、待っていてください」
人知れず新たに悪の火種がメラメラとその火の勢いを増してゆく。
新天地に来た大和一行は新たな厄介事に巻き込まれつつあった。




