113話:「異世界【ラマル】の歴史と帝国の影」
時は遥か昔、まだ宇宙の理ができて間もない空虚の時代、一人の神がとある世界を創造した。
彼はその世界を【ラマル】と名付け、世界を構築してゆく。
一時はその神の庇護の下で管理されていた世界だったが、神は次の世界を創造するための
使命を帯びた身であるが故に1つの世界だけを管理し続けることはできなかった。
神はその世界を管理するため二人の女神を創造する。
一人は善を司る女神、名をディーネ。 そしてもう一人は悪を司る女神ヴィルヴァルディ。
神は二人の女神にその世界の管理を命じるとまだ見ぬ世界を創造すべく旅立った。
世界の管理を任された二人は最初は仲良く管理していたが善の女神ディーネが
生物創造の力を行使し、人類や動物を創造したことに興味を持った悪の女神ヴィルヴァルディ。
彼女はディーネとは逆に魔に属する魔族や魔物・魔獣を創造する。
悪の女神が生み出した魔族や魔物によって人類や動物が蹂躙され始めた頃
善の女神ディーネは異世界から勇者を召喚する。
勇者は人類と協力し魔族と魔物を撃退することに成功するが
自ら作り出した創造物が負けたことに怒り狂ったヴィルヴァルディが
ディーネと同じく異世界から魔王を召喚した。
魔王と勇者の戦いは数年の激闘の末辛うじて勇者の勝利に終わったが
それで全て片付いたわけではなかった。
その後五百年周期でディーネとヴィルヴァルディは勇者召喚と魔王召喚を繰り返し
互いが創造した物を駒として使用し行う代行戦争、通称【戦争ゲーム】が開幕することとなる。
数万年という長き時の中で戦争ゲームは繰り返されていった。
そして第187期戦争ゲーム、新たに異世界から召喚された魔王によって再び戦いが勃発した。
人類は連合軍を結成し抵抗したが、なす術なく敗北し世界は恐怖と混乱に陥り魔族が支配する世界となった。
魔王と人類の戦いから三年後、事態を重く見た女神ディーネは勇者召喚を行使する。
新たに召喚された勇者と世界を支配した魔王との戦いが再び起ころうとしていた。
「コバシヤマト、それが勇者の名か?」
その言葉はビルド大陸中央部ドライゴン帝国王都ガルヴァスにある王城、
その謁見の間にて豪華な装飾の施された玉座に座する人物が跪いた臣下に問いかけたものだ。
「はい、間違いございません。 かのご神託の勇者がこの世に現れたということです。」
それは大和たちがサマエルと戦うことになるドグロブニクに向け旧王都フランプールから
出発して間もなくの頃だった。
この頃から世界の人々が大和の存在を勇者の降臨を認識し始めた時期であり
アース大陸の隣、ビルド大陸にも勇者降臨の知らせがもたらされていたのだ。
「ふーん」
玉座に座した人物は右の肘掛けに肘を付き握った拳に頬を乗せながら
興味なさげに視線を上に向ける。
この人物こそ第15代目ドライゴン帝国皇帝、アリシア・ティル・ドライゴンその人である。
まだ十代中盤にもかかわらず、頭のキレの良さと誰もが羨む美貌により
本来ならば十八という年齢になるまで皇帝の地位には就けないところを国民の強い要望と
臣下たちの計らいにより三年早く皇帝の座に君臨することとなったのだ。
背中まで伸びた瑞々しい光沢のある金色の髪にまるでエメラルドを
直接そのままはめ込んだかのような美しい緑色の瞳を持ち、華奢な身体とは裏腹に
年不相応な二つの大きな膨らみを携えた美少女それがドライゴン帝国の現皇帝の姿だった。
「こっこちらが勇者の顔でございます」
そう言って跪いた臣下から勇者の似顔絵が書かれた絵を
皇帝の側近が受け取ると仰々しくその絵を彼女に手渡した。
アリシアはそれを片手でひょいと受け取ると気だるいといった態度でその絵を見た。
その絵に書かれた顔を見た彼女は感心したように声を上げる。
「ほう、なかなかの色男ではないか。 妾の下僕に相応しい」
そう言いながら絵を顎に当てながら口を三日月のように吊り上げる。
その言葉を聞いた彼女の側に仕える女性が恭しく一礼すると。
「早速手配いたします」
短い一言で答える。
ご神託によって選ばれた勇者を事もあろうに一国の皇帝が下僕にしようというのだ。
それは女神の加護を持つと言われる勇者に対する不敬な行いであり。
勇者と女神を信仰する国を敵に回しかねない言動であった。
「マリース殿、おっお待ちくだされ!!」
先ほどの側仕えの女性を止めるように白髪の老人が割って入った。
髪の色と同じローブを身に纏い、出で立ちや雰囲気なども高位の魔導士であることを窺わせる。
彼の名は帝国唯一無二である最高位魔導師の称号を持つエドワード・ウィル・フォスター・ザウスキーであった。
「エドワード殿、何か?」
「女神の加護を受けし、勇者はこの世界の希望の存在
例え一国の皇帝とて下僕にすることは不敬に当たります。 皇帝陛下どうかお考え直しを」
皇帝の側近であるマリース・ヴァン・クロイツェルに視線を向け言い放った後
アリシアに向け勇者を下僕にするということを咎める。
その言葉を聞いたアリシアが肘掛けを勢い良く叩き大きな胸を震わせながら大声を張り上げる。
「妾よりも勇者の方が上だと申すのか、エドワード!!」
「勇者を下僕にすれば多くの国を敵に回すことになり兼ねません。
いくら皇帝陛下であろうとそれだけはなりませぬ!!」
片膝を付き平伏しながらなんとか彼女を説得しようとするが
彼はアリシア・ティル・ドライゴンという人物を良く知っていた。
幼き頃より彼女の教育係だった彼は彼女を孫のように可愛がりアリシアもまた
エドワードを実の祖父のように慕っていたが皇帝の座に付くと人が変わったように
アリシアは変わっていった。
「もうよい! エドワード下がれ、下がるのじゃ!!」
お前の話は聞き飽きたとばかりに犬を追い払うように手を振る。
いくら最高位の魔導師と言えど皇帝陛下の命には逆らえず
大人しくその場を後にするしかなかった。
エドワードが退場したあとマリースはアリシアに問いかける。
「皇帝陛下、勇者を下僕にする件はいかがいたしましょうか?」
「無論このまま続行じゃ。 エドワードのたわ言など気にするでないわ!!」
「・・・・・・畏まりました」
そう言って了解の意を示すと、マリースは近くに待機させていた部下に指示を出す。
それを受けて部下はその場を後にした。
その後マリースはアリシアに気付かれないようにこっそりと彼女の顔を見た。
その顔は彼女の美貌には似つかわしくない下品な笑いを浮かべていた。
この時より二か月半後、アリシアのもとに勇者がビルド大陸に上陸したという知らせがもたらされたが
このとき彼女が再び下品な笑いを浮かべたことは言うまでもない事だろう。




