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109話「大和、公開プロポーズされる」

 サマエルとの一戦を終えドグロブニクの宿屋に戻った大和たち一行はその後

ゲソルド討伐で町全体がお祭りムードの中、戦いの疲れを癒すために宿の部屋に戻ると

すぐにベッドに倒れ込み意識を手放した。

 気が付くと朝日が窓から差し込み、鳥たちのさえずりの鳴き声が耳をくすぐる。

 サマエルとの戦いで肉体的には疲れはなかったが精神的な疲労は少なからずあったのだろう

久しぶりに深い眠りに就くことができた。


 (・・・・・・)


 そう自分のベッドにいつものメンバーが潜り込んで小さな寝息を立てているのにも気づかないほどに。

 相変わらず懲りない三人に鉄拳制裁を加えてやろうかと手を振り上げたが

彼女たちが今回の戦いで命の危険にあったのだからと自分に言い聞かせ今回ばかりは見過ごすこととした。

 もちろん次は容赦しないと心に誓って。



 

 三人を起こさないように器用にベッドから抜け出すと、朝日が差し込む窓の淵に手を置き

外の町の様子を眠け眼でぼんやりと眺める。

 幅5、6メートルほどの通りには昨日の宴に負けないほどの喧騒に包まれている。

 港に魚を求めて荷車を押している革製の前掛けをした男性や朝食のパンを買い求めて

麻で編みこまれたバスケットを腕に持ちながら三角頭巾で頭を覆っている

中学生くらいの少女が小走りで駆け出していたりと、今日もこの港町ドグロブニクは活気に満ち溢れていた。


 「ふぅ~」


 それはため息で出たものではなく危機的状況から解放されたという安堵からくるものだった。

 今回の戦いで大和は自分が命を狙われる立場にあるのだと改めて思った。

 一般企業に勤めていた大和にとってこの世界はどこかゲームのような世界だと勘違いしてしまうところがあり

今もその感覚が抜けきらないでいた。

 【タワー・ファイナル】の世界からこの異世界に転移したことで彼の中で

まだオンラインゲームの中のバーチャル世界にいるのではないかと錯覚を覚えてしまう。

 

 だがしかし、今目の前に広がっている光景はどう考えても現実にそこに存在するリアルなのだ。

 自分がどんなに否定しようとも目が耳が鼻が彼の全ての五感が現実だということを如実に物語る。

 これ以上考えるとそのうち鬱になりそうな気がした大和はその考えを一旦保留にした。

 そういうことは魔王を自分の使命を果たしてから考えればいいことなのだ。

 

 とりあえず大和はまだ自分が寝ていたベッドで眠りこけている三人を一瞥すると

踵を返し部屋を後にした。


 宿から外に出てきた大和は朝の清々しい空気を浴びながら人が行き交う通りをゆっくりと歩いていた。

 彼に気付いた町の人たちが大和に感謝の言葉を投げかけてくる。

 大和は欠伸を噛み殺しながら営業スマイルを張り付けその声に応えながら進んでゆく。

 すると見知った顔が通りに面した露店にあった。

 大和はその人物に気付かれないようにそっと後ろに回り込むと両手で目を塞ぎながら。


 「だーれだ?」


 目を塞がれた相手は一瞬肩をビクッとさせたが声の主が分かった途端に

身体の力が抜け嬉しそうな声で答えた。


 「いきなり何するんですか? ヤマト様」


 そこには昨日リナたちと共に

サマエルの部下であるヘルと死闘を演じた―――と言っても一方的にヘルにやられていたのだが―――その一人

マチルダの姿があった。

 朝の買い出しなのだろうか彼女また麻で編みこまれたバスケットを持ちながら

露店で売られている色とりどりの野菜を物色していた。


 「買い物かい? 昨日あんなことがあったのにメイドさんも大変だね」


 彼女の言葉を華麗にスルーしそんなとりとめもないことを話す大和に対し

マチルダはにこやかな表情で答える。


 「旦那様も今日は休んでいろと言ってくださったのですが

じっとしているといろいろ考え事をしてしまいそうでしたので、気晴らしに買い出しでもと」


 今回の魔族との一件で彼女にも思うところがあったのだろう

気晴らしに外に出てきたことを告げると視線を逸らし顔を地面に落とす。

 それは当然の思いであることは大和も理解していた。

 殺し合いというものがほとんどなかった場所からいきなり殺し合いが頻繁にある異世界に

転移してきた彼もまた困惑することが多いのだから。

 唯一の救いはこの世界にいる者よりも強かったというところだろうか。


 大和は改めて自らが置かれた状況の深刻さに不安と孤独感を覚えていたが

そんな彼の思いはマチルダの突拍子もない一言によって掻き消えることとなる。


 「とっところでヤマト様、私との結婚の話なのですが」


 「えっ?」


 あまりに脈絡のない質問に自分の耳を疑い聞き返してしまったが

どうやら自分の鼓膜は正常に機能していたようで。


 「結婚の話です。 その、ヤマト様が魔王討伐の使命があるのは重々理解しているつもりですし

その旅を止めるほど私は愚かではありません。」


 そこで一旦言葉を切り、意を決したかのような真剣な表情で彼女は続ける。


 「ですから、私もあなたと共に魔王討伐の仲間に加えていただけないでしょうか?

 ヤマト様もいきなり結婚と言われても戸惑うことが多いでしょう。

 ですから私の人となりも知っていただいた上で改めて結婚のことを考えるということで。

 そのためにも私も魔王討伐の旅に連れて行ってください!!」


 そこには確かな意思と覚悟があった。

 その覚悟は本物であり何よりも大和に対する真摯で誠実な気持ちが溢れ出ていた。

 だからこそ彼はそんな彼女の思いを踏みにじるような意地悪な質問をしなければならなかった。


 「この旅は遊びでやってるたびじゃない、この世界の魔族全てを敵に回す行為だし

なによりも生きて帰れる保証がどこにもない。 仮に生きて帰れたとしても俺が

君と結婚したくないと思ったらどうするんだい?」


 その答えをまるで最初から用意していたかのように間を置かず彼女は答えた。


 「元より命の危険は覚悟の上です。 それに生きて帰れないというのであれば

ヤマト様の好いた殿方のそばで天に召されたいというのは女子であれば誰しも思うこと。

 仮に私のことを好きになれなくて結婚できないとおっしゃるならせめてお側に

あなたのお側にいさせてください・・・・・・」


 彼女の答えにしばし目を閉じ思案する。

 ただでさえ今の自分は異世界に連れてこられ自分のことで精一杯なのにもかかわらず

他人の人生を背負い込めるほど余裕はない。

 だが困ったことに彼女自身が嫌いではなくむしろ美人で性格もリナたちと比べると悪くない。

 断る理由が見つからず思い悩んでいた時、気付けば大和とマチルダの周りには人だかりができていた。


 彼女の話している内容は一般常識的には求愛いわゆるプロポーズだったわけで

傍から見れば人の往来のある公の場所で一人の女性が男性にプロポーズして

その答えを待っているという構図に見えるのだ。

 ましてやその男性とはこの港町の危機を救った救世主でありご神託の勇者でもあるとくれば

そのような人物が注目されないのはおかしな話であった。

 

 「旦那ぁ結婚しちまえよ」

 「キャー勇者様断ってええええええ!!」

 「これも青春ってやつですなあ~、若いもんはいいねえ~」


 などと言ったガヤが人だかりのそこかしこから聞こえてきた。

 そんな状況に顔を真っ赤にして俯く彼女は人の目を忘れ

思わず抱きしめたくなるほどに可愛かった、可愛過ぎた。

 大和はなんとかその衝動を理性という名の男が生まれながらに持っている

常時発動型パッシブスキルのような能力で抑え込むと彼女の手を取って人だかりから逃走した。


 あれ程の肉弾戦ができるとは思えないほど握りしめている手は柔らかく肌も瑞々しかった。

 いきなり手を握られ走り出した大和に困惑しながらも頬を薄紅色に染めながらおとなしく

彼のされるがままになっていた。

 そんな彼女に背中越しに大和は話し出す。 ぶっちゃけ顔を見てはなせるほど

彼は男女事に明るくはなかったのだ。


 「マチルダ、今すぐ君と結婚とかは正直考えられない。

 決して君が嫌いというわけじゃないんけど、結婚って言うのはそんなに簡単に

決断できるものじゃないと思うんだ。 だから俺自身考えてみようと思う。

 今の俺の置かれた立場とこの先どうなっていくのかいう変化する状況で

俺の考えも変わっていくと思うし、もしかしたらその過程で君と結婚という選択肢も

出てくるかもしれない。 だから今はまだ答えを出すことはできない。」


 人ごみから逃げるように走り続けていた足を止め、大和は振り返り彼女の目を見て続ける。


 「君が俺たちの仲間になることは俺は反対しない。

 君の人生なんだからどう生きようと君の自由だしね。

 でも最後にもう一度聞くよ? ホントに後悔しないんだね?」


 「はい、寧ろこのままヤマト様とお別れする方が一生後悔すると今思いました。

 あなたのような誠実で真面目な方をこの世界に呼んでくださった神に感謝したいほどです!!」


 自分の言動によって彼女が胸をときめかせているとも知らず大和はわかったとだけ一言話すと

お互い宿での朝食と朝の買い出しという用を済ませるためそこで一旦別れる事にした。

 朝食後改めて屋敷に行くという約束を交わして。 

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