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彼女は美少女でしかも霊媒師  作者: 松山カイト
左足の靴下が右足のそれに比べて3cmほど短い幽霊
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7

「達也君も私たちの部活入るの?」


綾香ちゃんが話しかけてきた。フォーメーションは元に戻り前2の後ろ1だ。

「なんですか?」


「写真部。」


「どうして写真部なの?」


本当に疑問に思った。綾香ちゃんは良いとして、彼女はオカルト研究部以外入ってはいけない気がする。でも、彼女の存在そのものがオカルトで研究対象は珠理ちゃんか。そんな想像をしていると彼女が髪を触手のように揺らしながらこちらを振り返り言った。


「達也君私のカバンからカメラ取って。」


彼女が肩にかけているカバンをゆっくりと外した。なかなかの重さがあった。それを地面に置きチャックを開けた。


「これのこと?」


そう言って小型のミラーレス一眼を取り出した。傷が目立ちかなり使い古されていた。

「首にかけて。気を付けてね。」


珠理の首にカメラのストラップを掛けて、ゆっくりとカメラから手を離した。ストラップが伸び切ることなくカメラが浮いている。


「ありがとう。チーちゃん。」

そういうと何かを撫でた。チーちゃんを撫でた。


「達也君私のカバン広げて、チーちゃん入れるから。」


彼女に言われるまま、カバンを広げ持ち上げた。彼女のカバンには黒の革性の長財布と黒の手帳しか入っていなかった。教科書とか、ノートとか筆箱すら入っていない。


「全部置いてきた。いつものことだけどね。ちゃんと、持っててね。」


珠理ちゃんは広げたカバンの中に両手を入れた。そして、ゆっくりと手をカバンから出した。カバンは確実に重くなった。何かがそこに入ってきた。見えなくも分かった。


ひとつ息をはいて腕をぶらぶらさせている。重たかったらしい。


「おもしろいもの見せてあげる。達也君そこに立ってて。」


珠理ちゃんに言われるまま、廊下の中央に立った。彼女がカメラのレンズを覗きながらだんだん後ろに下がり、5メートルぐらいで止まった。彼女たちの姿が暗闇に消えそうなギリギリの距離だ。


「ピースして。」


彼女のカバンを左肩に掛けて頬の前右手でピースをした。カシャっと音がした。カメラの画面を綾香ちゃんに見せていた。怖いと笑いながらふたりで話している。


 彼女のカメラの写真にははっきりと僕の薄い笑顔が写っていた。最新のカメラはこんなに暗くても昼間のように明るく撮れるらしい。たぶん。僕の肩にかけているカバンのチーちゃんは恥ずかしい屋さんなのか、小さな手をパーと広げてカバンから出している。両手でピースするなんてちょっと調子乗りすぎたかなあ。安い作り笑いには似合わない。それよりも後ろでハニカム中年男性は誰?

はっと後ろを振り返った。そこには誰も居なかった。


「こわい、こわい。」


顔の前で手をぶるぶる振りながら言った。


「ちょっと遅くない。鈍いよ。」


綾香ちゃんが僕の肩を一回叩いて言った。


「てか、手が多い。」


「ピースしている手ふたつともあなたの手じゃないよね。左肩にある手と比べて大きさが全然違うもの。それに、手を内側にしてピースしてたしね。」


「そうだよ。そうだよ。」

心臓がバクバクと吐きそうなぐらい活発に動いている。


「珠理ちゃんが撮る写真はいつも何か写っているの。それで、その噂が流れちゃって、部員が一気に減っちゃって3年生は私たち二人になったの。このままだと、廃部になりそうなの。」

綾香ちゃんが言った。


「幽霊の部員はいっぱいいるんだけどね。」


珠理ちゃんはキャッキャッ笑いながら言った。笑えない冗談だ。事実だから本当に笑えない。

「そんな時に、彼女が連れてきたのよ。見える部員たちを。もちろん幽霊を見ることができる部員をね。」


「幽霊が見える部員は写真部に来るの。」


なんと恐ろしい部活だ。幽霊が見えるという弱みを利用して集められるなんて。

「何人いるの?」


恐る恐る聞いてみた。

「私たちを除いて8人いるけど、4人は幽霊部員ね。幽霊の部員じゃなくて、幽霊みたいに消えた部員のことね。」


ややこしい。だが幽霊部員って本来そういう時に使う言葉だから。


「ていうことは、実際は4人なのか。」


「達也君が入るから5人ね。」


「勝手に入れないで。」


「入って方がいいよ。あなたは幽霊のこと何にも知らないから、私と一緒に居た方があなたのためになるでしょう。」


成績の良いセールスマンみたいな口調で言った。それが珠理ちゃんの部員を集めるときの常套句のようだ。こんなにも可愛らしい顔をしているからなおさら恐ろしい。


「それは、考えとくけど、期待はしない方がいいと思う。」


「まあ、よく考えなさい。」


その笑顔にただただ恐怖を感じると同時に、入部決定だと思った。

 二人が嬉しそうにアイコンタクトしたのを見逃さなかった。






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