大好き
「達也君、あなたのことを好きなのは幽霊よ。でも、あなたが好きなのは人なの。」
理解が出来なかった。
チカちゃんはうっすらふたりの人が見える。はっきりとした僕の知っているチカちゃんに投影されているようにもう一人の誰かが居た。つまり人と幽霊が重なっているのだ。誰かがこっちに手を振っている。チ
カちゃんの背中が見えているのに。
彼女はとても若々しく可愛らしかった。高校生いや中学生もしかしたらそれより年下。
理解するに時間がかかった。
「結構前に、スカートが段になっている女の子見たじゃん。あの時、ばれたあと思ったのよ。でも良かったあ。バカで。」
そう言って彼女がふふふと上品に笑った。バカって言われたのが何だか懐かしさを感じた。
「それってかなり前じゃない?たぶん珠理ちゃんに会って次の日ぐらいだよね。それにチカちゃんが幽霊って言ったのって」
「私よ。でも幽霊であることは変わりないわ。」
いつものいたずらっ子の笑顔を見せた。
記憶の糸を手繰り寄せた。チカちゃんに始めた在った日、確かに彼女を幽霊ではないかと思った。でも、それは幽霊みたいに美しい人だそういう意味もあった。
しかし、いつの間にか彼女が幽霊になっていた。普通だと考えられない。幽霊なんて見たこともないの。
普通ではない彼女が幽霊だと言わない限り。
そうだ、珠理ちゃんに言われたから彼女が幽霊になったんだ。
「僕には見えなかった。何でそんなこと言ったの?彼女が幽霊って」
彼女を見た。
駄々をこねる子供のようにムッとした表情をしていた。
「だって幽霊って言えば、たいていの人は怖がるでしょう。」
そう言ってアヒル口にした。その様子に背中に虫が走ったようにムズムズした。
「だから、どうしてそこまでして僕と彼女の邪魔をしたかったの?」
声を荒げ、彼女を強く睨んだ。
彼女が小動物のようにビクビク震えていた。
いつもの彼女とは、全く反対の女子らしい柔らかい表情だ。
その顔を純粋に見とれていた半分、心に不安が垂れ込めた。
激しく心臓が鼓動し始めた。
右手でみぞおちを抑えた。
血管が破裂しそうなほど、熱く速い血液が流れた。
「好きだからに決まっているでしょう、あなたのことが。バカ。」
そう言ってそっぽを向いた彼女の顔がじんわりと赤くなっていく。
美味しそうなリンゴみたいな頬に、こっちまで顔が赤くなりそうだ。
肩に置いた手から彼女の熱が伝わってくる。彼女の言葉をやっと理解すると急に彼女に触れられているのが恥ずかしくなり、ゆっくりと隣のイスに移動して彼女から離れた。
そっと彼女を見た。
真っ赤な唇が小さく動いた。
聞こえなかったけどはっきりバカって言った。




