チカちゃんと珠理ちゃん
夏休みに入って週一回チカちゃんと会っていた。受験生にとって夏休みはどんなに大切か考えなくても分かっていることだが、幽霊の誘惑には勝てなかった。あくまでも勉強という名目で彼女に会った。
幽霊にしかも後輩に一体何の勉強を教えてもらうのかと問い詰める自分を騙し、幽霊も入店歓迎のあの喫茶店に行った。僕は問題集を開き、彼女は宿題をしてときどき、雑談をしながら一緒に過ごしていた。こうやって一緒に居ると彼女が幽霊だろうが、人だろうが、どうでも良くなってきてしまう。彼女は人と同じように暮らし、学校に行き勉強をしているのだから。
僕はただチカちゃんが好きだ。彼が幽霊になりたかったのがとてもよく分かってしまう。
もし、彼女と一緒になるためならば、喜んでこの体を傷つけ死ぬだろう。例えそれが、最善の方法ではなく、誰かを傷つけるとしても。
トイレから戻ろうとしたとき、珠理ちゃんが手招きしているのが見えた。こちらが彼女を見ると顔の前で両手を合わせてウインクしてきた。無視しようとしたがこの前みたいに邪魔をされたくなかったので、しょうがなく彼女のテーブルに行く。幸いにもチカちゃんはこちらに背中を向けている。
「ねえ、ここに座って。大丈夫よ。もう邪魔はしない。」
何だかとても清々しく、吹っ切れた感じだ。
その様子に口元が緩んだ。
彼女の前に座ると立ち上がり僕の横に来た。立ったままだった。
「ねえ、達也君にひとつだけ嘘言っちゃった。彼女、チカちゃんだって。彼女のことを幽霊って言ったよね。でもね、本当はねこういうことなの。」
そう言って、僕の肩に手を置いた。その手が震えていたのがとても不思議だった。それよりも、彼女を見て驚いた。
「これって、どういうこと?」
僕が言った。思わず彼女を見たら以外に近くて少しのけ反ってしまった。道理でこんなにも彼女の香りと熱を感じるはずだ。




