泣き虫
「どういうこと?」
鼻水も流し顔がグチャグチャの彼女をティッシュで拭いてあげた。
興奮した口調で彼女は言った。
「あのとき、彼の電話ではチーちゃんが泣いていたの。でも、彼女はただ『じゅ、じゅ』と言うだけだったの。その言葉が珠理ちゃんを意味するのはすぐ分かったわ。
そして、危険な何か起こったのだとも。本当はすぐに助けないといけなかったのに、これを利用しようと思ったの。彼がもし、珠理ちゃんに危険があったら命を懸けて助けに来るのか?ほんと、何考えていたんだろうね。チーちゃんが『落ちた』って言ったことにしたのは、どうして湖に居るのか分かったのかただ辻褄を合わせただけ。」
彼女が咳き込んだので、ペットボトルの水を渡すと何も言わずに飲んだ。それから、また話し始めた。また顔がグチャグチャだ。
時々嗚咽して心配になる。
「チャンスだと思っちゃたの、お姉ちゃんのピンチを。ここで、彼が助ければもっと素直になって二人の関係がよくなると思ったの。彼が山を登り始めたのを確認して、ただ待っていただけ。危なくなったら助ければいいって甘く考えていて。本当に、ごめんなさい。」
そう言って正座したまま上半身を床につけた。土下座か柔軟なのかもうわからない。
「いいのよ。だって私のためにしてくれたんでしょう。」
彼女が体を上げて涙でベタベタの顔を向けた。
「でも、死ぬところだった。」
綺麗な顔を化け物のように醜くしてまで、謝るなんてすっごくカワイイ。なんて優しいの。大好き真美ちゃん。
「死んでないからいいのよ。それに作戦は成功したと思うよ。」
止まりかけていたのに、また大粒の涙を流し始めた彼女の頭を撫でさする。
「私たちって泣き虫だね。」
「お姉ちゃんのせいだよ。泣き癖が移っちゃった。」
そう言った後も泣き続ける彼女を見ているとぽろぽろと涙がこぼれてきた。
本当に私は泣き虫だ。
もう一度彼女を壊しそうな勢いで抱きしめた。
互いの涙が温かく互いに服を濡らしあった。




