真美ちゃんの怒り
真美ちゃんと部屋でお菓子を食べながら駄弁っていると、子供のころを思い出す。まだ高校生が何を言っているんだと思ったが、あの時がとても美しい景色として写真のように脳裏に存在している。
中学生のころまではよく彼女を家に呼んだ。
私が彼と付き合い始めてからも、頻度は減ったもののよく遊んだ。私にとって彼女は妹のようなもので、彼女も私のことをお姉ちゃんと当たり前に呼んでいたので一緒に居るのが当然と思っていた。
でも、彼が死んでから一度も家には呼んでいなかった。彼女も特に何も言ってこなかったのでそのまま過ぎていった。胸のどこかに彼女は居たけれど、それ以上に彼の存在がまとわりついていた。
このまま、疎遠になってしまうのかと思ったが、彼女が私と同じ高校に通い同じ部活に入ることで、ぎりぎりのところで繋ぎ留めてくれた。本当にそのことは感謝している。
そのことを言ったら、
「だって忙しかったんだもの。ずっと会いたかったよ。」
生まれたて子犬みたいなくちゃくちゃの笑顔で言った。そういえばこの高校って県内一の偏差値だったけ。まさか、彼女が一日13時間も勉強をしていたなんて私には思いつかなかった。そこまでして私と同じ高校に行きたいと思っていたなんて、全くカワイイ妹なこと。
そんな妹のお勉強を見てあげているのだが、いつの間にかただのおしゃべり会になってしまった。まあ、後で私が完璧なノートを作ってあげようそう思って彼女の話に相槌を打つ。
彼女はいつも大量のスナック菓子を買ってくる。
そして、一つの袋を開けると、それを食べ終わる前にまた開ける。彼女が帰る頃には、持ってきた全ての袋が開いている。それも全て食べかけで。小袋に入っているものはいいが、何種類もの風味のポテチが口を大きく開けている。行儀が悪いと思ったけど、特に言わなかった。普通の家だと食べきれず湿気てもったないが、ここは普通ではないので。リビングに置いとけば自然に無くなっている。人もそうでないのもたくさん居るから。それを知って彼女は甘えているだけと思っている。見た目大人っぽくなったが、中身は全然子供だ。
大人食いと言って、うすしおのポテチを片手にコンソメ味を咀嚼している。私もいろいろな味を食べられていいのだけど。
「お姉ちゃんは達也さんのことが好きなんですね。」
ゲリラ豪雨みたいに脈絡もなく突然彼女が言ってきた。みぞおちをぐうで殴られ血を吐きそうになった。
「な、な、何言っているの。」
バカみたいに動揺してしまった。頬を手で押さえたら、とても熱かった。
彼女がボリボリと音を立てながらニコニコしている。手に付いたのりをぺろぺろとイヌみたいになめながら言った。
「見れば分かりますよ。上門寺珠理ちゃんは佐藤達也さんのことが好きです。」
自分のことのようにそう断言した。
「そんなことあるはずないでしょう。」
声を荒げてしまった。このままでは彼女のペースに飲まれてしまう。清楚で純粋な見た目と裏腹に計算高い。
「私はただ、霊媒師として彼を守るという役割あるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。」
動揺を抑えて、あくまでも冷静に言った。手汗を短パンで拭いた。
冷静を装いながらいった。
彼女はわが子と遊ぶ親みたいにとてもニコニコしていた。
「ええ、そうなんですか。だったら、あれはいいんですか?彼、幽霊と付き合っているらしいですね。」
そのバカにしたような表情に不安がよぎった
どうしてそのことを知っているのか。私はもちろん彼女に話していない。彼自身が話したのか?それとも他の誰か、それとも直接二人で歩いているのを見たのか。だとしたら、彼女にはもうばれているかもしれない。
考え込んでいた私に彼女が「珠理ちゃん」と言って肩を突いた。
思考を戻し反論した。
「もう、どうだっていいの。いくら言っても聞かないし、あんな奴幽霊とでも付き合えばいいじゃない。」
彼女がボタンを押すみたいに、私は反応してしまった。言わされている気がしてモヤモヤした。
「本当に言っているわけではないでしょう。あなたには守る義務があるでしょう。ていうよりも守ってください。珠理ちゃんしか守れませんから。」
彼女がじっと見つめてきたので、負けじと私も彼女を睨みつける。目が大きいと言われけど彼女には敵わない。
「はあ、そんなことないでしょう。私じゃなくても真美ちゃんも同じ霊媒師なら守れるでしょう。そうだよ。あなたでいいじゃん。私の代わりに守って頂戴。」
早口で言う。自分でも気がついているがその時は怒っているときだ。
彼女が膝で歩いて私の横に来た。キスしそうなぐらい顔を近づけてゆっくり離した。ぎろっと睨み、大きな黒目が小さくなり、眉間にしわが寄る。
「お姉ちゃんいい加減にしなさいよ。あなたにしか守れないでしょう。傷がこれ以上大きくなる前に早くしないと。」
珍しく彼女が怒ってことに驚くものの、強く言い返した。




