最悪の結論
駅が見えなくなると突然足が止まった。彼女の暗い表情が脳裏から離れない。
真夏の暑い空気を冷たく感じるほどの不安が吹いた。頭が痛くなるほどその理由を考え、ひとつの結論にたどり着いた。
風邪をひきそうなほどの恐怖が襲ってきた。
なぜ彼女が、彼が守護霊と知って大泣きしたかをよく考えるべきだった。もちろん彼が守っていることを知ったこともある。今まで裏切られた思った彼が死んでも守ってくれると知ったならば嬉しいに違いない。彼女はまだ彼のことが好きだから。
でも、あのときの彼女の涙はあまりにも冷たかった。
きっと彼女は彼がまだ生きていると思っていた。
それは、とても楽観的な考えでそう思うことが出来るからそう思っていただけかもしれない。ほんの少しだけ、彼の遺体が見つかっていない、彼が死んだ瞬間を見ていない、ただそれだけで彼は生きていると思うことが出来た。
あの日、彼女がなぜあんなところに居たのか分かった気がする。彼女は探していたのだ。彼の遺体でも、彼の亡霊でもない、生きている彼をだ。
でも、もう彼は居ない。だからもう彼を探す必要がない。
だったらなぜ彼女は駅に居たのか。僕たちの後を付けてきたのか?いやそんなはずはない。数時間前には駅に到着して、山には登っていた。もし、幽霊か何かを使って後を付けることが出来ても彼女だったらもっと早く僕たちに会うはずだ。山に登っても。それとも彼女の優しさでデートをさせてくれたのか?僕たちが何時に降りるなんて分からないのにそんなことするのか?いや、しない。だって珠理ちゃんだもの。そんな面倒なことはしないに決まっている。それに何だか嫌な気がする。
踵を返し駅に走った。まだ、日暮れには時間があるが、目に刺さる角度でクリーム色の光が輝いている。
駅には誰も居なかった。まさかと思うしかなかった。
彼女がここに来たのは目的があったからだ。それは僕に会いに来たのではない。偶然会っただけなのだろう。そういえば僕が話しかけるまで僕たちに気が付いていなかった。
迷いはなかった。
まだ、明るいこともあるがそれよりも最悪の結果が待っている気がとても強くする。彼が死んだことを知った彼女がここに来る理由がそれ以外思いつかなかったからだ。
走った。
階段を駆け上り、前を向きひたすら走った。横腹が痛い。左手で右の腹を抑えながら、息を切らしながら走った。彼女が彼のことをどんなに好きなのか僕には上手く理解できなかったんだ。彼のことを裏切り者っていうのは照れ隠しのようなもの。本当に大好き。彼が死んだように、彼に会いに行けるのなら彼女はきっと。




