僕と彼
その声は死んだように感情がなかった。
死よりも怖い恐怖が僕を包み込んだ。
夏の太陽が炎のように降り注いでいるのに、真冬の吹雪のように視界が遮られた。
幻のようにぼんやり彼女が見えた。
珠理ちゃんが黙って駅の中に消えて行った。
その後ろ姿は涙がでないほど寂しかった。
心にナイフが突き刺さり口から何かいやらしものが出そうになった。
違う。僕はただいつもみたに「何ふざけているのよ、バカじゃないの」って言って無理やり手を掴んで早く帰るよって言って欲しかった。ただそれだけ。ちょっと言い過ぎたと後悔しているけど。
それに僕が言いたいのは、そんなに彼を悪く言わなくていいじゃん。それは同時に彼女を傷つけているんだから。それに気が付いてほしかっただけなんだ。
珠理ちゃんが悪いなんて思ってなんかいないよ。これぽっちも。だって僕は彼女のことが。
どうしてもうまく言えない。彼に同情と共感する反面、嫉妬があるから言わなければならないことを無意識のうちに隠してしまう。
僕はここに居てはいけない。
誰かが彼の話を珠理ちゃんに言うたび彼女は自分に嘘をつく。何故か僕に対しては強固だ。嘘をつくたびに、彼女は削れていく。そんな彼女を僕はもう見たくない。
好きなら好きって言えばいいんだ。彼が好きならそれでいいじゃないか。例えそれが幽霊でも。
もちろん僕はそんなこと彼女には言わない。
僕は走って逃げた。
卑怯だと思わないでね。彼女の心に宿る幽霊にはやっぱり敵わないのだから。




