珠理ちゃんとチカちゃん
山を降り駅に向かった。
互いにそうすることが正しいと約束したかのように当たり前に無言になった。永遠に続いてしまうと錯覚してしまいそうなほど長い時間を歩いた気がした。駅は山を降りて市道を挟んですぐ向かい側にあり、駅の入り口に誰かが立っていた。この距離からでも誰であるか分かった。
珠理ちゃんはそこに居た。白のショートパンツから小麦色の細い足が大胆に露出している。浅瀬の海のような色のブラウスの上にデニムのジャケットをまとい、箱ティッシュぐらいの黒のカバンをの細い紐を肩で斜めに掛けていた。頭には紺色のニューヨークヤンキースキャップを被っていた。その恰好は前と随分と印象が違った。まるで、デートに行くみたい。
今彼女には会いたくない。できることなら逃げたいが、チカちゃんの手前それは無理だし、関所の役人みたいに駅の入り口に張り付いている彼女にばれずに駅には入れない。
「なんでここに居るの?」
せめてこちらから話しかけた。珠理ちゃんの肩がぴくっと動いた。
「これはこっちのセリフ。ここには来ないって約束しなかった?」
顔を見上げ睨んだ。
「そんなことした覚えはないけどね。」
いつもだとごめんなさいと謝るだろう。それは彼女が怖いんじゃない。それも少しはあるけど仲良くしたいから。久しぶりに彼女に会えて、話せて心の奥で嬉しさがにじみ出ている。
でも、隣にチカちゃんが居るから。
「よく、まあここに来ようと思ったわね。あんなに怖い思いをしたのに。それとも、もう忘れちゃったのかなあ。あんたみたいに小さい脳みそだと。」
相変わらずの強い口調だ。
僕に合っていた目線がふいっと隣のチカちゃんに移った。一歩踏み出し彼女に向かって言った。チカちゃんの上半身が少し反った。
「これは、これは、彼女さんとデート中でしたか。どうも、お綺麗な彼女さん。私は上門寺珠理と申します。彼のお守をさせていただいています。」
長い髪を大きく揺らして深くお辞儀した。それを見た彼女が目を大きくして驚いている。
彼女と目が合った。
「何変なこと言っているの。部活が同じってだけだから。」
両手を顔の前で小刻みに動かし否定した。そんなに動揺すると勘違いされてもおかしないと思った。
「はあ、まあ、いいわ。そんなことよりも彼女さん、あなたの大切な彼氏さんちょっと貸してくれる。だから、ここでバイバイ。ちょうど良かったもうすぐ電車来るよ。ほら、来たじゃあね。」
そう言っていやらしい笑顔を見せた。
「でも……そうですね。私邪魔ですね。ここで帰らせていただきます。達也さん今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
そう言うと走って今来た電車に飛び乗った。




