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彼女は美少女でしかも霊媒師  作者: 松山カイト
僕がこんなにモテルとは
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カワイイ彼女

真夏のギンギンとした日差しが水面にギラギラと反射している。しかし、森から吹く冷たい風と湖のおかげで心地が良い。避暑地としてここが人気なのは分かる。山と湖と霊のトリプルパンチで市街地と比べられないほど涼しい。


夏休みまであと一週間の日曜日の昼過ぎ、僕たちは例の湖に来ていた。別に受験勉強から逃げて来たのではない。


ただ、彼女に誘われたから来ただけだ。まさかと思うが、そのまさかだ。まさかチカちゃんにデートに誘われるなんて。彼女は幽霊だ。


しかし、彼女はカワイイのだ。カワイイは絶対なのだ。


 例えば、学校帰りに突然

「達也さんの家の近くに幽霊が出るって有名な湖があるんですよね。私そういうのにちょっと興味があって、一度でいいから行ってみたいなと思っていたんですけど、ひとりではちょっと。もしよろしければ、今度の日曜日一緒に行ってくれませんか。」


と頼まれてしまったら行くしかないのだ。


 ただ、

「昼過ぎに学校の近くの駅に集合ですね。」

と言われて安心した。たぶん死ぬことはないだろう。


幽霊はどうやって電車に乗るのかと思ったが、彼女は切符を買って人と変わらず電車に乗った。珠理ちゃんとここにはもう来ないと約束した湖の最寄り駅で降り、冷や汗をかきながら登ったこの山は、今は隣に彼女を連れて健康な汗をかき、何組もの人たちにすれ違いながら登った。


 そして、今、日光で銀箔のように輝いている湖を目を細め眩しそうに見つめる彼女を、僕は見つめていた。


「いいところだね。」


と僕はこちらに背中を向けているチカちゃんに言った。決して調子のいいことを言っているのではない。本当にそう思った。あのときは全く違った場所だ。


「本当にそうですよね。私すごく好きです。お気に入りの場所になりました。」


こちらを向いてはきはきした口調で話した。歯がとても綺麗だ。にこっと笑った彼女を見てそう思った。

がっかりしているのではないかと思ったが喜んでくれて嬉しい。


僕はやっぱりホッとしているのだが。


 でも、やっぱり心霊スポットに変わりなかった。鉄のフェンスに寄りかかっている男性の首には血まみれの手首がつかんでいる。そこで、たむろしている高校生だと思われる5人組は、夜に行きたいと言っている背の低いギャル風の子をしっかりと説得してね。じゃないと死ぬよ。


「でもここって心霊スポットなんですよね。」


目を伏せながら言った。目差しが強いせいでほっぺがピンク色に日焼けしていてさらにカワイイ。


「そうだね。でも、そんな気がしないよね。この高いフェンスがなかったら。」


彼女の寄りかかっているフェンスを目で指しながら言った。

「でも、以外だなあ。チカちゃんがここに行きたいって言うなんて。」


「意外ですか。あ、でも別に心霊スポットに行きたかったていう訳ではないんですよ。ただ、空気が綺麗で静かで人が少ないところに行きたかっただけなんです。達也さんと。」


最後の方はよく聞こえなかったけど、たぶんそう言ったに違いない。


「達也さんは好きですか?この場所。」


好きって言葉に反応してしまった自分が恥ずかしい。


「僕も好きだよ。」


君のことがとは、心の中で言った。それはともかく、確かにこの場所はとても気に入った。


でも、ひとり来ることはないと言える。彼女に誘われたから来ただけだ。


もし、誘われていなかったら、一生来なかったはずだ。それは珠理ちゃんとの約束ももちろんあったが、ただ思い出したくなかっただけだ。忘れようとするには何も意識しないことが大切だ。


 しかし、カワイイは絶対なのだ。珠理ちゃんと彼女では、目の前の彼女の方がカワイイのだ。彼女に心を奪われても命を奪われなければいいだけのこと。そうすれば珠理ちゃんには何も関係ないことだ。


「あまりこういう所行かない方がいいと思う。静かで自然豊かな所は他にもあるし。」

彼女に言った。小さく彼女がうなずいた。


「ですよね。分かっているんですけど行きたい衝動が突然来るんですよ。まるで、自分の中に居る誰かがここに惹きつけられたみたいに。」


右手をほっぺに押さえて下を向いている。さらに顔が赤くなっている。こっちまで恥ずかしかしくなりそうだ。


 幽霊だからだろうか。ここに惹きつけられるのは、別に不思議なところではないと思うがやっぱり彼女は、自分を幽霊だとは気が付いていないらしい。その方がとても都合がいい。


「きれいだからだよ。でも、ひとりでは来ない方がいいよ。」


「別にひとりじゃないですよ。だって達也さんが居ますもの。」


黒目を大きくして僕を見つめた。後ろに少しのけ反ってしまった。女慣れしていない僕は、見つめ返すことはできない。


「そうだねえ。もう少し居ようか。」


そう言って彼女の先に湖面を見つめた。僕につられて彼女が振り返った。


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