ひとりの帰り道
外に出ると日差しが眼に刺さる。昼間のようではないがまだ皮膚をチクチクする。門番の二人に礼をして彼女の家を出た。
異世界から戻ってきた気分で、本当だと、すごいなあ、すごいなあとひとりブツブツ言いながら帰宅するはずだったのに、心にゴミが張り付いた感じがして気持ち悪い。
ひとりで歩いていると勝手に想像が膨らむ。作家だとこれをお金に変えられるのに、今の僕には気を重くするだけだ。どうして彼女は泣いたのか、勝手に議題を作り自問自答する。
鏡に映っていたのは自殺した彼だ。彼女ではなく幽霊を選んで死んだ。
その彼がどうして彼女の守護霊なんだ?
理由は簡単だ。彼は未だに珠理ちゃんのことが好きなんだ。
幽霊と一緒になるため自殺したって言ったけどきっと何かの間違いだ。彼女はそれを信じていたみたいだけど、そうじゃなかった。
だって、守護霊はその名の通り、守ってくれる霊のことなんでしょう。守りたい人しか守ってくれないでしょう。
彼は死んでも彼女を守り続けている。悔しいけど僕には決してできない。
あの日、僕はずっと彼が珠理ちゃんの場所に導いてくれたそう思っていたが、確信した。珠理ちゃんを救ったのは彼だ。
そして、彼女が泣いた理由……もういいよ、考えたくない。考えなくてもバカでも分かるでしょう。辛くなるだけだ。
でも一つどうしても気になることがある。僕が見た彼女とは全然違う。薄く透けていて、今にも消えそうだった。
彼はまだそこには居ない、そう感じた。
しかし、理不尽だと思う。何であんなに怒るなんて。確かに覗き見したのは悪いと思う。
でも、いつもみたいにバカって言ってくれれば良かったのに。いつもみたいに。
彼女がとても遠くに行ってしまった気がする。やはり、僕では彼女と釣り合わない。僕のことなんて眼中にない。彼がいるのだから。
涙で濡れたシャツの袖はすっかり渇き、真夏とは思えないほど冷たい風は裸になった心をブルブルと震えさせた。
赤暗く染まった空の下、誰も居ない家に入るのがこんなにも悲しいなんて思ったことがなかった。遠くで泣くカラスの鳴き声さえも愛おしく感じる。死んだ人が生きている人を狂わせないとは限らない。
守護霊に会いたいなんて言わなければよかった。彼女の泣き顔を見て思った。




