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彼女は美少女でしかも霊媒師  作者: 松山カイト
いつも君の後ろには
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 彼女は5分ほどで戻って来た。これほど大きな蔵だからどんな立派なカギだと思ってわくわくしていたが、まさかのカードキーだった。


「この蔵は見た目は古そうに見えるけど、新しいのよ。」

僕の違和感をしっかり払拭してくれた。


建物に似合わない電子音が鳴り彼女がドアを開けた。蔵の中は外よりも気温が低くひんやりしていた。ドアから真っ直ぐ向こう側の壁まで道が出来ていて、左右に物が整理して置かれていた。ガラスケースに入ったものや説明が書かれた名札みたいなものが付いているものがあり、博物館のように感じる。


 奥の方に無造作に置かれている家電が見えることでかろうじてここが家の蔵と感じられる。そこだけが僕の家の小さな物置と同じだったからだ。


 時折、飾られている刀や水墨画などに目を奪われながらも、彼女の後をついて行った。光輝く目の前は小さな窓から日光から注いでいると思ったが、近くに行くと上を向いた三角のボタンで、彼女がそれを押すと扉が開いた。つまりエレベーターだ。


 僕が唖然としているとドアが閉まった。慌ててボタンを押してドアを開けた。冷めた声で「早くして」と言った。

彼女に急かされながらエレベーターに乗った。開けるのボタンを押して僕を待つという選択肢はなかったらしい。乗り込む時もドアに肩を挟まれた。もしかしたら、間違えたと思いたい。


 二階までしかないのにどうしてエレベーターが必要なのかと考えたが、結論が出る前に開いた。当たり前のように開けるのボタンを押して彼女を先に出した。エレベーターを閉じるとそこは真っ暗だった。外から見ると窓が見えたがここには一切の光が漏れていない。


 彼女は大きな懐中電灯の光をこっちに向けた。一面に真っ白が広がった。何かに摘ままれてそのままついて行った。


 目が慣れたころにはぼんやり明るかった。小さな豆電球だけがいくつも点いていた。


「別に目潰ししたかったわけじゃないからね。あんたがたまたまスイッチの横に居ただけ。事故よ。」


そう言って謝らないことが彼女の良さだと思うことにしている。目と頭の痛さが和らいでくると寒くて鳥肌が立った。これは気温が低いのではなく、恐怖によるものだ。何が怖いのか分からないが彼女と一緒に居るとよく感じるあれだ。


「あまり、触らないでね。封印が解けるかもしれないからね。」


その言葉にビクビクしながら彼女に小鴨のようにくっついてじっとした。


「ここってそういうものがたくさんあるの?」


震える声で聞いた。


 未だに霊は苦手だ。今日も幽霊のチーちゃんのほっぺにキスをしてきたのだが。


 ニコニコしながら鏡を探している。僕は鏡と言われて全身が映るような姿見だと思っていたがどうやらそうではないらしい。


「あった。これね。」

彼女の手には重たそうな青黒い石のようなものがあった。それを表に返すと直径20㎝ほどの鏡があり、古墳から見つかりそうな石でできた古い鏡。


「それを覗けばあなたの後ろに居る人が見えるわ。」

そう言って渡してきた。ずっしりとして重く、ごつごつして冷たい。僕はまだそれを表を向けて覗けていない。


「やっぱり、やめておこうかなあ。」


「ここまで来て何言っているの。」


やっぱり怒られた。


彼女は続けた。

「でも、無理やりここに連れて来たのは多少認める。あなたの問題だからね。」


いつもは聞かない優しくおっとりした口調で気味が悪かった。顔もどこか上品さを感じ何かに憑りつかれていると思った。


「死んだ人は、死んだ人。生きている人は、生きている人。本来交わってはいけないもの、それはあなたより私が何倍も知っているわ。例えそれが見るだけでも、あなたを狂わさないとは限らないしね。」


彼女の言葉というより霊媒師上門寺珠理の言葉だ。柔らかく力強い。どうやら憑りつかれたはいなかったらしい。優しくなったそうだったらよかったのに。


「でも、これが最初で最後のチャンスよ。これを逃したら泣きながらお願いされても無視するからね。人生ってそういうものでしょう。逃したものは二度と手に入らないのよ。」


そういう経験をたくさんしてきているのか、とても説得力がある。


 考えるまでもなかった。なぜここに来たのか。


 今となってはなぜ迷ったか分からなかった。


「見るよ。もちろん。」


「そうな。バカじゃなかったね。これを覗けば見えるから。重たいから気を付けて。」


彼女から貰った鏡はとても冷たく、思った以上に重くて落としそうになり一瞬ヒヤッと勝手にした。彼女が気が付いていないことを願いたい。


「見るだけでいいの?」


「触らなくてもいいなんて何て便利なんでしょう。」


別に触りたいわけではないが、言われたらそうかもしれない。


 ゆっくりと鏡を覗いた。


「ねえ、見えているでしょう。」


その鏡には、自分自身の顔はなかった。なぜだかそれには驚かなかった。僕の顔の代わりに毎日見ている笑顔があった。


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