イチかバチか
足音がしたので振り返ると真美ちゃんが居た。目が赤いが子供みたいに混じりけのない笑顔を見せたので安心した。
「何言っているんですか。これは超がつくほど危険なんですよ、見た目の通り。先輩、死にかけたじゃないですか。ずっと死にたいって言っていましたよ。」
珠理ちゃんの隣に座る。肩をくっつけて甘えた。
「それを知って使ったの。」
「まあ、達也君が死ぬとは考えなかったけどね。せいぜい2、3日生死の境を彷徨うぐらいとは思っていたけど、ここまで歩いて数分気を失っただけだから全然OK。問題ない。」
なぜか珠理ちゃんが答えた。
そして僕の感情を無視して、問題ないと言う。まあいいけど。
「それよりも、真美ちゃん大丈夫?」
隣の珠理ちゃんを飛ばして言った。
「私の方が怪我しているのに、なんで?無視ですか?」
「大丈夫ですよ。死ぬほどお腹が痛い以外問題なですよ。」
声は笑っているけど顔は死んでいた。うん、本当にごめんなさい。
「真美ちゃんが近くに居るなら、言ってくれればよかったのに。」
珠理ちゃんにだけ聞こえるような小さい声で言った。
「別に近くに居なかったよね。」
珠理ちゃんと真美ちゃんが目で頷き合う。
「私は山の中腹ぐらいに居たから。」
「どういうこと。真美ちゃんの周りに幽霊が入らなかったから、そこに入って助かったってことだろう。」
「うん。でも近くに居なくても大丈夫だから。半径200mぐらいだっけ、その効き目。だから湖から山に入るくらいは覆っていたわけね。あなたも見たでしょうあの暗闇。あれが薬の効果よ。」
そうかあ。だからあの時僕に背負わせたんだ。幽霊だと入れないから。ていうことは。
「じゃあ、結構早い段階で助かっているんじゃ。」
「えー。そんなことないよ。薬の効き目は一時間。それまでに山を下りないとだめだったんだからね。」
好きな人の良いところを言い合っているみたいにふたりほほ笑み合う。
「ていうことは、イチかバチかじゃん。」
そう言うと冷たい風が体を舐めまわす。
ぞっとした。なぜこの状況できゃきゃできるんだ、君たちは。
でも、笑っている彼女たちを見ると、肩の力が抜ける。もう彼女たちから離れられない気がする。恐ろしい様なあ、嬉しい様なあ。
そういえばチーちゃんはどこに行ったのだろう。もう戻ってこないのかなあ。ありがとうとさようならは言いたかったなあ。
「電車はいつ来るの?」
「あと一時間ぐらいじゃない。」
また彼女たちが笑い合う。今度は僕も一緒に声を出して笑った。
家の電気は点いていなかった。鍵が開いていたので帰ってきているのかと思ったが誰も居なかった。きっと鍵をかけ忘れたのだろう。現に鍵はいつもの場所に置きっぱなしだ。
疲れたのでご飯を食べずにベッドに入った。何か頭に違和感があった。柔らかい何かがムズムズ動く。
見るとチーちゃんがこっちを睨んでいた。声を出さずに歯を見せて笑うとそっぽを向いて布団に潜り込んだ。いつも以上に力強く抱きしめるとこっちを見た。睨んでいるようにも笑っているようにも見えた。
さらに強く抱きしめてありがとうと素直に言った。




