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彼女は美少女でしかも霊媒師  作者: 松山カイト
左足の靴下が右足のそれに比べて3cmほど短い幽霊
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さっき幽霊だと思っていた、黒髪長髪美女ではなく、黒髪長髪少女だった。一本一本の髪が生きているように生命力を感じるほど艶があり、深海のさらにさきより黒い髪に目が行った。


「何で先から無視するの。」


もちろん幼女ではない。だって高校の制服を着ているのだから。童顔の可愛らしい女子高生だった。


「もしかして、幽霊が話しかけていると思ったの?」


ニヤッと笑った。細めた目から溜まっていた涙が落ちた。身長は150㎝ぐらいで、長い黒髪を後ろでくくり、前髪をブラウンの髪留めで留め左半分だけおでこを出している。


「ねえ、聞いているの。さっきから人の顔をじろじろ見て。言っておくけど私は幽霊じゃないからね。それともなあに、わたしのあまりにもの可愛さに見とれてた。」


くりくりと子犬みたいな目、ぷくっと柔らかそうな頬っぺた、子狸みたいな丸い輪郭、加えて健康的に焼けた小麦色の肌ときたらこどもっぽくてとてもかわいい。


 ぼうと彼女を見た。彼女の顔が秋の楓の木を数か月の定点カメラを超高速で見ているみたいにだんだん赤くなってきた。つられてこっちも恥ずかしくなる。


「笑えよ。笑ってよ。冗談で言っているんだから。」


目がウルウルと今にも泣きそうになりながら言った。


「あ、ごめん。そういう性格なのかなと思ってちょっと引いちゃって」


「ちょっと失礼だよ。初対面だよね。初めて会う人に言うようなことじゃなくない。」


「ごめん」


やっぱりそういう性格なんだなあ。人懐っこく壁を作らない。


「そんなことよりあなた見たでしょ。」


僕の隣を歩いて聞いてきた。彼女は話す時にしっかりと目を見てくる。初対面だけどモテるなと思った。


「何にも見てないけど。」


手を団扇みたいに振り否定した。


「信号待ちをしているときに絶対見たよね。とぼけなくていいから。見たんでしょう。」


「だから、何も見てないって。」


「そのセリフが見たって言ってるの同じなの。」


玄関に入ると自信満々な彼女を巻くように、走って下駄箱に行き一瞬で靴を変えた。しかし廊下にはもう彼女が居た。悪魔の赤ちゃんみたいな無邪気な笑顔を僕に目一杯注いでいた。僕の横を散歩の犬みたいに付いて来る。


「何も見てないって何かやましいものを見たから言う言葉なの。だって、私は、ただ見たって聞いているだけで、見たものが何か一言も言ってないよね。それなのに、どうして何も見てないって言えるの。絶対言えないよね。」


「そんなことないと思うけど。」

語尾がとても弱々しい。


「何が」


間髪入れずに低い声で言われ怖いと思ったが、あくまでも冷静に答えた。


「いきなり、見たでしょって言われたら反射的に見てないって言ってしまうことだってあっても不思議じゃないと思う。」


「反射ねえ。」


僕の心を舐めるように言う。バカにされている気がした。


「まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。隠す必要ないよ。だって、見てない人に見たって言わないから。」


彼女が足を止めた。なぜかそれに従い僕を止まった。いつの間にか僕が犬になっていたようだ。


「もう一回聞くよ。今度は優しく聞いてあげる。あなたは幽霊を見ましたね。」


僕の前に壁のように立ちふさがった。身長が10cm以上差があるのにぬりかべぐらいの大きな圧力を感じた。怖い。幽霊よりも怖い。


「はい、僕は幽霊を見ました。」


洗脳されたように当たり前のようにそう言った。というよりも、飼い主に従ったとても頭の良い犬になった気分だ。


「よし、良い子。イイ子。」


今にも撫でてきそうなそんな言い方だ。


「私の名前は、上門寺珠理。まあよろしくね。あなたの名前は怖がりの眼鏡クンでいいかなあ。」


「いや、やめて。そんな名前じゃないから。」


当然でしょう。太陽は東から登って西に沈むでしょうみたいに、言ってきたので思わず、うんと言いそうになったが、頑張って否定した。


「分かりやすくていいと思うけど。じゃあ何。早く言って。」


子供番組の司会のお姉さんみたいな笑顔で言った。


「佐藤達也。」


「なんて普通の名前なの。いったいその名前この国に何に居るの。絶対一万人はいるよね。一万はいるよね。」


くそつまらないギャグを言われたあとみたく、彼女はふんと鼻で笑った


「そんなこと僕に言われてもしょうがないし。僕が幽霊見たってわかるってことは上門寺も、幽霊見たってこと。」


「はあ、呼び捨て。私ちびだけど、3年だよ。18歳なんですけど。それに初対面だよね。」


黒目を小さくして僕を睨む。笑っていると天使みたいなのに、怒ると鬼そのものみたい。


「ごめんなさい。」


きゅんと肩を縮めた。叱られた犬みたいに。


「まあ、別に呼び捨てでもいいんだけどね。でも絶対私のこと、中学出たてだと思って舐めていたでしょう。そういうのいつもだから、初めにバシッと言いたかっただけ。しょうがないよね、私って可愛いし、お人形さんみたいだから。」


セリフみたいにあまりにもすらすらと言うから、


「そうだね。」

と棒読みした。


「だから、引かないで。傷つくから。」

なぜか泣きそうになっていた。それを少し可愛らしいと思ってしまった。


「幽霊を見たのは初めて?」

彼女が廊下の壁にもたれ掛かり、彼女に対して直角に立ち話を聞いた。いろいろなことで彼女を直接見ることができない。


「これから大変だと思うから、これ私の連絡先。言っておくけど、ナンパじゃないからね。」


そう言って写真ぐらいのサイズの白い紙を渡してきた。そこには彼女の名前と電話番号、メアドが書かれていた。それを無理やり右手に握らされた。


「大切なことだからよく覚えときなさい。幽霊なんかよりも生きている人間の方が何倍も恐れしいことを。すぐにその理由がわかるよ。何かあったら連絡してね。まあ、その何かは、今日か明日には起こると思うから。」


意味ありげに含み笑いをした。


「じゃあね。」


と手を軽く振って去って行った。


 朝日のような優しい笑顔にドキドキするしかなかった。夢から覚める瞬間みたいに一度目を閉じ、もう一度目を開けた。宇宙の果てみたいに真っ黒な髪を一本一本生きているよう揺らしている彼女を見た。


 締め付けるような痛みを胸に感じ、右手で制服の第二ボタンあたりを強く抑えた。




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